50.暗躍したい魔術師たち
ついに50話達成しました!
これからも頑張ります!
「このお店を狙っているって、何!? リーナの孫ってことは、そのいとこも魔女ってことなの!?」
ジュジュの問いかけに、そうかと思い立った。
祖母の孫という結珠と同じ立場であれば、何も知らない第三者から見たら、みはるも魔女となるのかもしれない。
「……違うと思うんだけどね。おばあちゃん、この家を譲る相手をすごく見極めていたはずだし。それにあの子、別に何か作ったりとかするようなタイプじゃないしなぁ……」
「魔法道具は作れないってこと?」
「多分ね。魔法道具どころか、アクセサリーを手作りするような趣味もないだろうし、だから何でこの家を狙っているのか……あんまりよくわからなくて」
「魔女の店だから狙っているわけじゃないの?」
「今のところ、お店の秘密は自分の家族にも話してないくらいだから、付き合いの薄いいとこが知ってるとは思えないのよね」
金の卵を生む店であるということは、結珠以外に知っているとすれば、契約している弁護士の土井と税理士だけのはずだ。
だが彼らには守秘義務がある。万が一、彼らがそれを違反していた場合、信用問題にかかわるので、それはないはずだ。
「まぁ、本当にこの店が狙いがどうかもわからないんだけど……」
「お店が狙いじゃないんなら、何がしたいの?」
「私に対する……嫌がらせ? 子供の頃からそうなんだよね。ライバル視されているっていうか……いちいち突っかかってくるっていうか……」
叔母の影響とはいえ、顔を合わせれば嫌味の連続だ。叔母に大事に育てられたせいか、お姫様気質がいまだに抜けないようだが、今回の件でみはる自身の家族にも迷惑をかけているのだから、もうこれ以上被害は増やすべきではないだろう。
「でも嫌がらせというよりは、借金のせいでお金が欲しいんだろうねぇ……。で、自分よりも下に見ている私の物なら奪って当然って思ってるんじゃないかなぁ……。でも私はいとこであって、あの子の家族じゃないもの。自分の不始末は自分か……その家族の間で解決してほしいよねぇ……」
苦笑しながらワインを煽る。空いたグラスにジュジュがワインを注いでくれた。
「ありがとう、ジュジュさん」
「いいえ! でもそんな面倒ないとこなら、私がどうにかしましょうか?」
「は? どうにかって……無理でしょう? ジュジュさんってば冗談上手いんだから」
結珠は笑ったが、ジュジュの顔はちょっと真剣だ。
何だろう……処す? 処す? みたいな顔でこっちを見ないで欲しい。
ジュジュの態度に不安を覚えて周囲を見渡すと、ワイン瓶の中身は空っぽだった。結珠に注いで空になったようだ。
まだ私、二杯くらいしか飲んでないけど? と思ったのだが、他はジュジュが全部飲んでしまったらしい。
これはもしかしなくてもかなり酔っぱらっているということだろうか。
「ジュジュさーん? 酔ってない?」
「酔ってないわよ! お料理が美味しかったから、ワインも進んだ気がする……。何かふわふわするわ……」
「それを酔ってるんて言うんでしょ!? わー! ちょっと待って! お水持ってくる!」
「大丈夫よぅ! 私は酔ってないわ!」
ジュジュはこんな酒の飲み方をする人だっただろうか?
結珠は慌てて店のミニキッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注いだ。
酔っ払いは、どこの世界も共通のようだ。
その後、酔っ払いジュジュは、結珠が洗った鍋を持ってしっかりとした足取りで帰っていった。
本当に酔っていたのかそうでないのかわからないが、結珠はジュジュを見送り、食器類を洗ってお茶を淹れて一息つく。
「ジュジュさん、今まであんな姿見たことなかったけど、酔うとああいう風になるんだ」
ジュジュの違う一面を見たようで、何だかおかしかった。
ナールと三人で飲んだときはあんな風になっていなかったので、新鮮である。今回は結珠しかいなかったので、油断していたのかもしれない。
でも美人は酔っても美人だった。それはちょっと羨ましい。
□■□
結珠の店を出たジュジュは、さっきの様子は嘘だったかのように颯爽と街を歩いていた。
(結珠のいとこって子、何をしたいのかしら……)
家まで歩きながら、ジュジュは全く酔っていない様子で考えながら歩いている。
結珠から話を聞く限りでは魔女でもない只人だということ。魔力を持っていなければ、結珠のように店を営むことも出来ない。結珠が言うように、店の秘密にも気付いていないのであれば、結珠がとても稼いでいるということも気付いていない。
であれば、金目当てに結珠の店を狙っているわけでもないのだろう。
(気になるわね。結珠の世界には干渉できないでしょうけど、私にも何か出来ることはないかしら)
それなりに重さがある鍋が入った鞄を軽く左右に振りながら、ジュジュは微笑んだ。
□■□
休暇明けのジュジュは、今回の遠征の報告書を作成していた。
出来上がった報告書は確認のため一度師団長が目を通してから担当部署へ提出することになっている。
「師団長、報告書の確認をお願い出来ますか?」
「ああ。そこへ置いておいてくれ」
その日は魔法道具の修理ではなく、師団長室で書類仕事をしていたディーターへ、ジュジュは書類を提出した。
人の気配が消えなかったのに気付いて、ディーターが顔を上げると、ジュジュはまだそこにいた。
「ジュジュ? どうかしたか?」
「師団長、折り入ってご相談があるのですが」
「相談? 何だ?」
「ユズの件です」
結珠の名前を出すと、ディーターはぴくりと反応した。
「魔女がどうかしたのか?」
正論で結珠をやり込めて以降、嫌われ気味のディーターは結珠を気にしている。
ジュジュも遠征で昨日久しぶりに結珠と会ったくらいなので、久しくディーターの前で結珠の名前は出していない。
ディーターも結珠の近況が気になるようだ。
「昨日、ユズに会ってきたんです。そうしたら何だかきな臭い話を聞きまして」
「きな臭い? まさか……」
自分が心配していた通り、店の防犯機能に問題が出たのかと聞けば、ジュジュは首を振った。
「いえ、そういうわけではなくて、どうやら親族間で揉めているようで」
「親族? 揉めてる?」
「ええ。彼女のいとこという人物が借金苦で、あの店を狙っているとか……」
「はぁ!?」
いきなり突拍子もない話に、ディーターが声を上げた。眉間に皺も寄っている。
「ユズのいとこですから、リーナ……先代店主の孫だそうで、ユズは相続であの店を手に入れ、問題のいとこはお金を相続したそうなんですけれど、そのお金を派手に使い切って、おまけに借金まで作ったらしくて。その借金苦のせいで、ユズの店を狙っているかもしれないと」
「なるほど。金欲しさにということか?」
「ユズもそこまで正確に把握しているわけではないようでしたけれど、お金か……あるいは、ユズへの嫌がらせが目的ではないかと言っていました」
「嫌がらせ?」
「ええ。一方的にライバル視されているそうです」
「ほう? で、魔女は相手にしていないと」
「気にはしているようでしたけれど、恐らく自分に被害が及ぶのではないかという心配だけで、ユズは相手のいとこをライバルとは思っていないようですね」
「なるほどな。それで? 魔女は助けを求めてきたのか?」
「いいえ、全く。それとなく話を振ってみたのですが、冗談と流されました。ですが、私が個人的に味方になりたいと思っています」
ジュジュはきっぱりと言い切った。
結珠は別にジュジュにどうにかしてとお願いするつもりもなさそうだった。あれは単なる酒のツマミの愚痴だ。結珠はジュジュが住む世界の違う親族へ対応できることなど出来ないと思っている。
だが、そこはいくらでも方法はあるはずだ。
にっこりとジュジュが笑うと、ディーターは口の端を持ち上げた。
ふふふ……と顔を見合わせて笑う。
「いいものがある」
「いいものですか?」
「ああ。前に任務で行ったダンジョンで見つけたものだ」
そう言うと、ディーターは執務机の鍵のかかった引き出しから小箱を取り出した。ジュジュへと差し出す。
「何ですか? これ」
「呪いの指輪だ」
「呪い……ですか?」
「ああ、鑑定済だ。使うにしても効率が悪いし、呪いは何故か解呪出来なくて、処分に困って預かっていたものだ。軽い悪夢を見せる程度の力しかなくてな。継続的に使ったら衰弱するかと思ったが、そこまでの能力もない。ただ、身に着けている間は必ず悪夢を見る。嫌がらせくらいにはなるだろう。使ってみるか?」
ジュジュは呪いの指輪が入っているという小箱を受け取った。
「その程度の力しかないのでしたら、使うのはやぶさかではないのですが、ユズに何も起きませんか? そもそもどうやって対象の人間に身に着けさせるのですか?」
結珠の世界の人間に会ったことはない。璃奈が店主だった時代も璃奈としか会えなかったので、多分ジュジュたちは会えないのだろう。
そんな相手にどうやってこの指輪と接触させるのだろうか。
「そのまま店主に渡せばいい」
「え? ユズへ直接渡すのですか?」
「ああ。店主には『もしもいとこが店に訪ねてくることがあれば、この指輪をいとこへ渡せ」と告げればいい。一応呪いさえなければ、単なるエメラルドの指輪だからな」
「なるほど? 金目の物を渡して時間稼ぎをしろと?」
「そうだ。くれぐれも店主には呪いがかかっていることは黙っておけ」
「それはもちろんです」
二人の魔術師はにやりと笑った。
ダーティーなジュジュとディーターが現れた!
戦う
→ 呪う
何もしない
相変わらず自由奔放に動き回る人たちに、筆者疲労困憊……。




