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49.ジュジュとの女子会



 母娘でランチとショッピングを楽しんで帰宅してから、数日。

 結珠の周囲では特に何も起きていない。

 少し肩透かしを食らった気分だが、何もないのに越したことはない。

 その日はいつも通りの時間に起きて、家事を済ませたあとに店をオープンさせた。

 ちらほらと客がやってきて、いくつかの魔法道具が売れる。

 そろそろ低価格魔法道具の在庫が少なくなってきている。まだもう少し作れるだけの材料はあったはずだなと頭の中で考えていると、店の扉が開いた。


「こんにちは、ユズ!」

「ジュジュさん! いらっしゃい!」


 二週間振りくらいにジュジュが来店した。

 設計図を譲渡して、お礼のワインを持ってきてくれてからお店には来ていなかったのだ。


「ジュジュさん、忙しかった?」

「ええ。ちょっと王都から離れたところに遠征で出ていたのよ」

「遠征? 何をするの?」

「魔物の討伐とかね、そういう類の仕事よ」


 魔物の討伐! おおお、魔法でファンタジー世界な話だ! と、結珠は改めて感心する。


「今、師団長が王宮の魔法道具の修理にかかりっきりになっているから、一部師団長の通常業務を他の魔術師が肩代わりしているの。そのせいでみんなも忙しくて。遠征終わりで、私も今日と明日が休暇なの」

「そうなんだ! でも、貴重なお休みなのにうちに来てて平気?」


 ワーカード王国には日本と違って車も電車もないだろうから、長距離移動でも馬車か徒歩だろう。

 そして目的地での魔物討伐。ようやくそんな仕事を終えて帰ってきたのに、ゆっくり休まなくても良いのだろうかと聞けば、ジュジュは笑った。


「別に休むだけが休暇じゃないわ。それに魔術師には遠征なんて当たり前だから、仕事明けに気分転換するのも立派な休養よ」


 確かにそうだ。別に寝るだけが疲れを取る手段ではない。ジュジュは休暇でもアクティブに過ごしたいタイプなのだろう。


「それでね。もしユズさえよければ、今日の夕飯を一緒に取らない? っていうお誘いなんだけれど」

「いいの!? 大丈夫大丈夫! ぜひ一緒にご飯食べよう! この前貰ったワインもまだ全然開けてないし、せっかくだったら一緒に飲もうよ!」

「あら、いいの? じゃあご相伴に預かってしまおうかしら」

「やった! さすがに一人でワイン瓶一本空けるほど飲めるわけじゃないから、ぜひぜひ」


 話がまとまるのは早い。

 ジュジュは、また閉店時間頃に王都内でテイクアウトした料理と一緒に再び来ると言って店をあとにした。

 仕事後の楽しみがあるのは良いことだ。結珠は張り切ってその日の仕事を終えた。




 客足が途絶えたことをいいことに、いつもより三十分程度早く閉店をして結珠はジュジュとの夕飯の準備をする。

 何か買ってきてくれるとはいえ、恐らくメインになりそうな料理だろうからと、サラダやサイドメニューを作ろうと考える。


「何があったかなぁ……。レタス……きゅうり、トマト……。あ、アボカドもある」


 冷蔵庫をごそごそと漁り、目についた食材を取り出す。


「生ハムも……チーズもあった!」


 食べようと思って買っていた未開封の生ハムやカマンベールチーズも見つけた。賞味期限もぎりぎり大丈夫そうだ。

 自分だけだったら多少賞味期限が切れていても気にしないが、さすがにジュジュへ出すものが賞味期限切れだったら躊躇ってしまうので、切れていなくて安心した。


「何しようかなー。シーザーサラダとかいいかなぁ……」


 市販のドレッシングはないが、牛乳とマヨネーズ、チューブのにんにくに粉チーズと胡椒さえあれば、簡単にドレッシングは作れてしまう。

 あとは温玉でも作れば、立派なシーザーサラダだ。

 ついでに冷凍見たら、ブロッコリーとエビがあった。


「やった! エビ発見! あとは冷凍ブロッコリーにウインナーもあるから、こっちはカマンベールと一緒にアヒージョにでもしようかな」


 最近ワインを良く飲むようになってからアヒージョ鍋を買ってしまい、ときどきアヒージョを楽しんでいる。温かい副菜があっても良いだろう。


「あとは足りなかったらパスタでも茹でればいいかなー」


 パスタソースは便利なのでたくさんある。もし物足りなかったらあとで作ればいいやと、結局結珠はシーザーサラダとアヒージョだけ準備することにした。

 せっせと準備をしていると、店の扉が開く音がして、店の方から「ユズー?」と、自分を呼ぶジュジュの声が聞こえてきた。


「ジュジュさん、ごめーん! 今、料理してて手が離せないのー! ちょっと待っててー!」


 キッチンから店に向かって大声で叫ぶと、「わかったわ!」というジュジュの返事が聞こえてきた。

 結珠は大慌てで切ったサラダの材料とドレッシングをサラダボウルの中で和えて、上から温玉を乗せた。アヒージョもコンロの上で良い感じにくつくつと煮えている。

 火を切って、鍋敷きと一緒にまずはアヒージョ鍋を店へと運んだ。良いオリーブオイルとニンニクの香りが結珠の鼻をくすぐった。


「ごめんね! お待たせ! ちょっと色々作ってたの!」


 店のカウンターへ熱々の鍋を置く。


「わぁ! 良い匂いね! おいしそう! これは何?」

「アヒージョっていうの。油で煮た料理のことを言うんだ。他にもサラダ作ったから、もう一回取りに行ってくるね!」

「すごいわ! 私もお料理買ってきたのよ。サンジュナスの煮込み」

「サンジュナス? って何?」


 買ってきたという料理を見せられる。ワーカード王国では、鍋や入れ物を持って買いに行けばそこに料理を入れてくれる。

 今回ジュジュは鍋を持って買いに行ってくれたらしい。買ってきた料理を見せてくれる。

 蓋を取ると、肉が赤いスープで煮込まれている。匂いの感じはどうやらトマトらしい。

 まぁ食べてみればわかるだろうと、結珠はサラダを取りに戻った。

 ワインやグラス、取り皿などはすでにカウンターに準備してある。

 サラダを持って戻れば、ジュジュがワインのコルクを開けてくれていた。


「ジュジュさんに聞かずに準備しちゃってたけど、このワインで良かった?」


 今日準備していたワインは、この前貰ったワインだが、お手頃価格の方だ。

 まだあの高級ワインを飲むには心の準備が足りない。


「もちろん! これ、おいしいのよ。何度か飲んだことがあるわ」

「へぇ、そうなんだ!」


 やいのやいの言いながら、結珠とジュジュの女子会は始まった。


「ユズはお店、忙しかった? あらやだ! これおいしい!」


 ジュジュは話しながらアヒージョのエビを食べている。


「口に合ったんなら良かったよ。お店はそんなに忙しくなったんだけど、厄介ごとがねぇ……」

「厄介ごと? まさか、師団長が何かした!?」


 結珠への対応で、ジュジュからも若干信用を失っているらしい、ディーター。

 さすがにそんなとばっちりは可哀そうなので、ちゃんと否定した。


「違う違う! 師団長さんとは、設計図の受け渡し以来、会ってないよ」

「じゃあ、厄介ごとって何?」

「いやー、情けない話、親戚の方なんだよね」

「親戚?」

「うん……。いとこの話。私と一緒で、おばあちゃんの孫」


 結珠はワインを飲みながら、数日前に聞いた話をかいつまんでジュジュへ話し始めた。


「なるほど。浪費がかさんで借金になっちゃったのね。正直、安心したわ」

「安心!? 借金が!?」

「ああ、そういう意味じゃなくて、結珠の世界でも私たちの世界と同じような話があるのねってことで」

「ワーカード王国でもある話なの?」

「それはもちろん。大金に目がくらんで犯罪に手を染める人もいるし、急に羽振りが良くなって没落する人もいるわ」


 金が絡めば、どこの世界でも同じようなことは起きるらしい。


「もちろんユズのいとこがそうなってしまったことは本当に残念だと思うけれど、だからといってユズが気にする必要性はないと思うの」

「そうも言ってられないんだよねぇ……」

「どうして?」

「いや、何か……そのいとこがこのお店狙っているらしくて……」

「え!? どういうこと!?」


 結珠のぼやきに、今日一番ジュジュが驚きの声を上げた。



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