47.年長のいとこからの電話
お祝いのコメントをくださった方々、ありがとうございます!
そして、やっぱり四部タイトルで出オチ……。(笑)
「何で!? どうして!? アタシは何にも悪くないし!」
好きか嫌いかと聞かれれば、どちらかというと、嫌いな部類に入るだろう。
だからといって不幸になっている様を見るのもあまり気分は良くない。
「もういい加減にしなよ。みはるのせいで、みんな困ってるんだよ?」
「アタシのせいじゃない! 結珠、アンタが悪いんじゃない!」
そう吠えたみはるの形相は、取れかかった化粧も相まって、とても見られたものではなかった。
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結珠の店は相変わらずの繁盛だ。
週四日の営業で、週二日は作製日、残りの一日を完全休養日としている。
試行錯誤しながら、ようやくそのルーティンに落ち着き、忙しいながらも充実した日々を過ごしている。
売り上げもかなり良い感じではあるが、特に贅沢はしていない。
あくまで個人事業主なので、これから先の長い人生において分相応な贅沢など出来ないし、そもそもブランド品にものすごく興味があるわけでもない。
たまの贅沢といえば、生前の祖母と良く一緒に行っていた洋食店へ、母とランチへ行く程度だ。
結珠お気に入りの洋食店は、とろとろ卵のデミグラスオムライスやパスタといった女性に人気のメニューが多く、サラダの種類も豊富でとても美味しい。価格帯も良心的で、そう高いわけでもない。
そういう店に月に一~二回行くことを贅沢と言う程度だから、生活にかかる出費は店を始める前と大差ない。実家暮らしで家に入れていた分の金額が現在の光熱費等を含む諸経費と同じくらいである。
非常に堅実に暮らしている結珠なので、まさか自分の知らないところでとんでもないことが起きているなんて全く予想をしていなかった。
ある日のことだった。以前、相続の際に家の再鑑定に付き合ってくれた、年長のいとこから突然電話があった。
『あ、結珠ちゃん? 久しぶり』
「お久しぶりです。どうしたんですか?」
『ごめんね、突然。今、平気?』
電話がかかってきた時間は二十時を過ぎた頃。ちょうど夕飯を食べ終えて片付けをしようかと思っていたタイミングだった。
「大丈夫ですよ。何かありました?」
電話をかけてきた年長のいとこは仲が悪いわけではないが、相手が年上で世代が違う分、少し距離がある。
頻繁に連絡を取る相手でもないので、何があったのかと身構える。
『あー。そのね、ちょっと言いづらい話なんだけどさ。みはるちゃんの件、知ってる?』
「みはる? いえ、何も知らないですけど……」
めんどくさい名前が出たぞと身構える。
何かとライバル視されているいとこの名前で、あまり関わり合いたくない。
祖母の法要でも会わなかったので、このまま疎遠でいたい間柄だ。
聞きたくはないが、聞いておかないとあとで自分が痛い目をみそうなので、恐る恐る尋ねる。
「みはるがどうかしたんですか?」
『それがね、おばあちゃんの遺産を私たち孫も貰ったじゃない?』
「そうですね」
『少なくない金額だったでしょ? それでまぁ……すごくわかりやすく言うとはっちゃけたらしくて、結果遺産以上のお金を使ったらしくてねぇ……』
すごく簡単に言えば、どうやらみはるは放蕩に身を持ち崩し、借金したようだ。
まさかそこまでわかりやすい人間だったか、本当に遺産って人を狂わすのだなと、結珠は遠い目になる。
改めて自分も気を付けないといけないと思い直す。
結珠としては普通に仕事をしているだけだが、その稼ぐ金額は半端ないのだ。
大きなお金が動けば、それだけ人の心を惑わす。そういうものだ。
電話をしながらそう思っていたが、いとこはそのまま話しを続けてきたので、結珠も意識を戻す。
『みはるちゃん、ブランド品に旅行にって色々散財したみたいだよ』
「うわぁ……。そりゃ結構まとまった金額でしたけど、別にものすごく贅沢出来る程の金額でもないですよね?」
『そうなんだよねぇ……。使おうって思ったらあっという間に使える額じゃない? だから色々と調子に乗っちゃったらしくて』
いとこの説明に乾いた笑いしか出ない。
「え? それで……何でわざわざ教えてくれたんですか?」
正直、切り込みたくはないが、わざわざ連絡してくれたということは、恐らく結珠にも何か関係があるのだろう。
『それがねぇ……。何か、みはるちゃんが「私が散財してこうなったのは遺産のせいよ! そもそも現金がなければこうならなかったんだから、やり直しをしたいわ!」とか言い出したらしくて……』
「えええ……。ないわーないわー。それって単なる責任転嫁じゃないですか」
『だよねぇ……。というか、やり直しするんなら、みはるちゃんが相続したお金は返還しなきゃいけないし、別に借金が減るわけでもないし、むしろ余計に負債抱えるわけだし……。みはるちゃんのご両親が今、説得してるらしいんだけど、何か不動産が欲しいとか言っているらしくて』
「不動産? え? 意味がわからないんですけど……」
『だよねぇ……。それで、私としては、もしかして結珠ちゃんのお家狙っているのかなって思って』
「はぁ!? うちですか!?」
みはるの狙いが結珠の家とは寝耳に水、完全にとばっちりである。
みはるが散財したことも借金したことも、結珠には全く関係のない話だ。
おまけにもう相続が完了してから一年以上が経過している。それを今更やり直したいと言っても、それは無茶な要望である。
一応、みはるの両親にもその常識はあるらしい。ただ、どれだけのストッパーになるかはわからないが。
「教えてくれてありがとうございます。でも私が対策したくても出来ることって何もないですよね……」
『そうよねぇ……。一応、結珠ちゃんのご両親にも先に知らせてはあるから、もしかしたらそっちからも連絡があるかもだけど』
ただでさえ、店の経営で忙しいのだ。みはるにかまっている余裕などない。
だが、ちゃんと対策をしておかないと、この店は金の卵を生む店だ。
徐々に増やしつつある結珠の貯金を知られれば、恰好の餌食だろう。
「でも、みはるのご両親が止めるのは当たり前として、借金は? ご両親がとりあえず何とかするとかないんですかね?」
結珠の疑問も無理はない。家族の問題については、まず家族で片付けてほしい。
こちらはあくまで親族であって家族ではない。
みはるの借金問題など、みはるの家族で片付けるのが当たり前ではないのか?
その疑問に、電話の向こうのいとこは苦笑した。
『一応ね、金融会社には、みはるちゃんのご両親が立て替えて支払い済らしいんだけど、ご両親が立て替えた分は自分たちへ返せって』
至極真っ当な話である。立て替えた分は返せ。家族間であってもそう話がついているのであれば、そうするしかないだろう。
だが、みはるの性格的に家族間のことだからと踏み倒す気満々なのだろう。
しかしそのしわ寄せが結珠に来るのはおかしい。
ここまでくるとライバル視というか、完全に結珠相手ならば何をしても良いと思っていると判断した方が良いかもしれない。
ただ同い年のいとこというくらいの共通点しかないのに、みはるは何をもって結珠にこんな対抗心を持っているのだろうか。
今の結珠にみはるをかまっている余裕などないのだ。煩わせないで欲しい。
ただ、何もしないで相手の出方を待っているのも、きっといけない気がする。
年長のいとこにもしさらにみはるの新しい情報が手に入ったらすぐに知らせてほしいとお願いをして電話を切った。
「わー、どうしようどうしよう! 色々考えないと!」
店の防犯機能は、ワーカード王国に対してしか反応しない。
みはるに対しては何の効果もない。
ホームセキュリティと契約するしかないのか? いやでもこの古い家でホームセキュリティと契約したら、他の知らない人間に対しても何かあるようなものだと言わんばかりだ。
どうしたらいいのかわからず、途方に暮れた。
「もう! 勘弁してよー!」
次から次へとやってくる問題に、結珠は頭を抱えた。
四部である程度の膿は出し切るので、もうちょっとしんどい話が続きますが、お付き合いください。
五部からは……五部からは楽しい話になります……。