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36.結珠 vs 魔術師団長



「きつい言い方になってしまったことは詫びる。だが、君はもう少し慎重になるべきだ。ほぼ初対面の俺ですら、君を危ういと思う」


 ディーターは結珠の至らなさをズバズバと指摘する。


「大体ジュジュもジュジュだ。君も彼女の危うさについて何も思わなかったのか? 確かにこの店の防御はすごいのだろう。だが、それが通用しなかった場合について、彼女へ指摘しなかったのか? ジュジュは店主と親しくしているのだろう? こういうことは親しい君から指摘するべきだと思うが?」


 説教はジュジュにも飛び火した。魔術師団長からの説教に二人はしゅんとする。


「ジュジュ、君の優しさは決して悪いことではない。だが、ときにはその優しさが甘さ……他人の付け入る隙になる。君は実力が高いのに三席より上へあがれないのはその甘さが原因だ。ときには厳しさも大事だよ」

「……申し訳ありません、師団長」

「それから店主もあまり楽観視してはいけない。先代はちゃんと店の手入れをしていたのか?」


 やっぱりこっちにも矛先が向いた! と結珠はびくりと身体を震わせる。


「祖母はしていたと思いますが……私はあくまで家としての普通の手入れだけです……」

「先代が亡くなってどれくらい経っている?」

「一年過ぎましたが……」

「では、少なくとも一年以上、この店を守る魔法道具の手入れは行っていないことになる。早急に魔法道具を探し出して、手入れをするべきだ」

「……はい」


 ディーターの言葉は拒否出来ない重みがあった。結珠は頷く以外他なかった。


「先代の日記に書いてあるのだろう? 悪いが中身を見せてもらうよ」


 そう言うとディーターは、手に持っていた祖母の日記を開く。


「……何も書いていない?」

「本当ですね。真っ白だわ」


 ディーターの目には白紙のページのみ。同様に覗き込んだジュジュの目にも白紙のページとして見えていた。


「そんなわけないです! だってちゃんと!」


 結珠も慌てて覗き込んだが、そこにはきちんと祖母の字が並んでいた。


「ちゃんと書いてありますよ。このページがすでに読んだ内容で、ここには魔石行商人のことについて書いてあります」


 祖母の文字を指さして二人に主張する。しかし二人は眉間に皺を寄せて結珠を見るだけだ。


「なるほど。持ち主設定がされている魔法道具か。恐らく君以外は読めない」

「え? そんな……」

「まぁある意味これも守られているんだろうな。君以外には店の秘密がわからない」


 店に施された細工も、店を守る魔法道具の場所も、少なくともワーカード王国の人間には、結珠が口頭で伝えない限りは明かされない。


「一体、この店にはどれだけの魔法道具が隠されていて、どんな効果があるものがあるのか。もう一度きちんと把握するべきだ」

「……はい」

「全く……。いくら俺が魔法道具の研究をしているからといって、警戒しすぎだ。別に取って食おうだなんて思ってもいない」

「それは……師団長は理性的な方だとは思っていますけれど……」


 ディーターの文句にジュジュは反論する。

 しかし彼は呆れたようにため息をつくだけだ。


「店主が迷い人と同じような魔女だから警戒したのはわかる。俺の魔法道具の研究も趣味の範疇をとっくに超えて、半分仕事みたいになっていることも事実だ。だが、俺を警戒する前に、魔法道具の便利さに何も考えず甘んじているだけなのはどうなんだ?」

「……おっしゃる通りです」


 ジュジュもついに反論出来なくなり、肯定する以外他なかった。


「店主も、忙しさを理由にして管理を怠るのは駄目だ。店である以上、利益も大事だろう。だが、その利益を継続させるためにも、把握すべき事柄は後回しにせず、きちんと把握してから仕事をしろ」

「はい……すみません……」


 まるで社会人時代にミスをして上司に叱られている気分だ。

 反射的に謝ってしまう。

 けれど、これが人の上に立つ地位にいる人間なのだろう。

 そして何も間違っていないからこそ、素直に謝る以外ないのだ。

 ディーターは日記を閉じて、結珠へと返してきた。


「読めないものを借りていても仕方がない。君は早々にこの日記を全て読むべきだ」

「はい……そうします」


 結珠は日記を受け取って抱きしめるようにかかえた。

 まさかこの日記が魔法道具とは思わなかった。普通の日記だと思っていたので、結構雑に扱っていたことを今更ながら後悔する。

 もっと大事にしないと良くない気もしたのだ。

 結珠が頭を下げると、ディーターはもう一度ため息をついて立ち上がった。


「俺がいると、店主もジュジュも警戒するのだろうから、今日のところは引き上げるよ。また改めて訪ねることにしよう。都合についてはジュジュへ相談すればいいか?」

「え!? また来るんですか!?」


 もう話はこれでおしまいではないのかと結珠が慌てると、ディーターも渋い顔をした。


「俺は君に興味があると言ったはずだが? 店から出られないのはわかったが、店から出なくても出来ることはあるだろう? 俺は君に色々と相談したいことがある」

「相談って……正直、魔法道具が何たるか……とか、魔力とか諸々わかっていないんですけど」


 さっきも言った通り、自分の世界では魔法や魔術や魔力、魔女なんてものは全てフィクションの話だ。

 ただ、この家を相続してから、認めざるを得ない出来事ばかりなので、受け入れているだけで、全てを理解出来るだなんて思っていなかった。

 しかし、目の前の男は理解しろと言っている。


「先代からの助言を読んでもわからない部分があれば、俺が教えよう。だから、理解したあとは俺に協力してほしい」

「協力……ですか?」

「ああ。さっきも言ったが、稼働百年を超える魔法道具にガタが来ていて、修復が必要となっている。もちろん持ち出せるものではないから、君に来てほしかったがそれもままならない。せめて話だけでも聞いて助言を貰いたい」

「ですから……無理なんですけど……」


 結珠が作っている魔法道具なんて、単なるアクセサリーのような感覚だ。

 稼働百年を超えるという魔法道具は、アクセサリーなどではないだろう。

 複雑に設計されたものなど、いくら祖母の日記を読んだところでわかるはずがない。


「大体、お言葉ですけど。祖母に相談しなかったんですか?」


 そうだ。自分よりも知識のあった祖母に相談しておけばよかったじゃないかと結珠は口にしたが、ディーターは首を振った。


「もちろん相談はしたさ。でも彼女も自分は年寄りだから役には立たないと拒否された」

「でしたら私もお断りいたします」

「何故だ! 君は新しい魔法道具を作るだけの知識と才能があるのだろう? それは恐らく先代をも上回っているはずだ」

「そんなことはないです。包み隠さず言ってしまえば、低価格魔法道具は偶然の産物にしか過ぎないです。別に狙って作ったわけじゃないです」

「だとしても、完成に至った。であれば、何か助言くらいは出来るだろう」

「助言? 実物を見る事も出来ない人間が何を助言するんですか?」

「だから、それを含めて相談したいと!」


「あの……ふたりとも?」


 ジュジュそっちのけで言い合いを始めた二人を、ジュジュがハラハラとしながら止めるように声を出したが、結珠とディーターは同時にジュジュを振り返った。


「うるさい! 黙ってて!」

「うるさい! 黙ってろ!」


 二人同時そう言われて、ジュジュはぴゃ! と肩をすくめた。

 喧々囂々の言い争いは、しばらく続いたという。



どうしてこうなった/(^o^)\

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― 新着の感想 ―
師団長きらーい、とか思って読んでて此処で気づいた。上司だからだw 日本的上司の物言って正論だけど何故かイラっとするんですよねーwそれと一言多い!って感じでオーバーキルしてくるんですよ。割と為になるし印…
日記を読んだ方がいい、とか 家にかかっている魔術の仕組みについて把握した方がいい、とか そういう勘は全く働いてないのが不思議ですね
本心の善意からの警告だから店から弾かれてないんやろなあ
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