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34.師団長の目的



「あ、ジュジュさん! いらっしゃ……ふぁっ!?」

「……やあ! 先日はどうも!」


 ジュジュが先日の黒髪イケメンを連れてきた……。その事実に結珠は固まった。

 そういえば、あの日のジュジュの反応はちょっとおかしかったなと、改めて思う。


「えっと……お知り合い?」


 結珠の口から何とか絞り出した一言に対して、ジュジュは頷いた。


「……紹介するわ。私の所属する王立魔術師団の師団長であるディーター様です」

「ディーターだ。よろしくね、魔女の店主」


 師団長! まさかのジュジュの上司!

 何も言えずガタガタと震えてしまう。ジュジュが子爵家の人間と言っていた。ということはその上司であるディーターと名乗る師団長はもっと偉い貴族なのではないか?

 正直、貴族階級なんて公・侯・伯・子・男であるくらいしか知らない。

 日本に爵位があったのなんて、結珠にとってはそれなりに過去の話でしかない。

 結珠は大慌てで頭を下げた。


「大変申し訳ございませんでした!」


 いきなり謝った結珠に、ディーターとジュジュは度肝を抜かれる。


「え!? ユズ!? どうかしたの!? ちょっと! 頭を上げて!」

「だ、だめでしょ!? だって、この前売った魔法道具に欠陥とかあって、抗議に来たとか!? それとも貴族の方相手に私の態度に失礼があって、注意しに来たとかじゃないの!?」


 結珠の接客に問題があったからクレームに来たのだと結珠は思ったらしい。

 あまりの恐縮っぷりに、ジュジュはこらえきれずに笑った。


「ふふふ! あはははは!」

「えっと、ジュジュさん?」

「あー。すまん、店主。別に俺は抗議や文句を言いに来たわけではない」

「へあ!? えっと……どういうこと?」


 笑っているジュジュと、困った様子の師団長ディーター。二人の態度の対比に結珠は困惑を隠せなかった。




「大したお茶ではないですが、どうぞ」


 ようやく笑いのおさまったジュジュと困惑していたディーターは、結珠に店のカウンター席を勧められて座っていた。

 そこへ結珠はお茶を淹れて戻ってくる。


「えっと……それで、今日は一体どういうご用件でしょうか?」


 このディーターという男が一体何の理由があってジュジュに自分を紹介されたのか、意図が全くわからなかった結珠は、おずおずと尋ねる。


「別に大した理由なんてないのよ。ただ私にユズを紹介しろって」

「え? 何で?」


 ジュジュの答えに、結珠はますますディーターの意図がわからず困惑した。

 ディーターとしては、興味本位であっただけとも何だか言いにくくなって苦笑して誤魔化す。とりあえず結珠が淹れたお茶を飲んだが、とても美味しかった。


「このお茶、うまいな」

「あ……ありがとうございます?」


 結珠の問いに、ディーターは答えずにのん気にお茶を飲んでいるので、結珠はもう混乱を深めるばかりだ。


「えっと……紹介と言われても……。別にただの店主ですけど?」

「ただの店主? 新しい魔法道具を生み出したのに?」


 ディーターはそう言いながらポーチから先日購入した、低価格魔法道具を外して結珠に差し出す。

 そういえば、彼はこれを買って帰ったのだったと思い出す。


「えーっと……それはたまたまと言いますか、偶然出来たというか……」

「偶然? 意図してやったわけではないと?」


 美形に迫られて、結珠は心情的にのけぞりながら何とか言葉を紡ぐ。


「はい……。魔法道具って高価じゃないですか。うちの店でも値段を理由に買えずに帰る方が結構多かったんです。単純に小さい魔石ならば安く出来るんじゃないかと思ってそこから考えたのが、その魔法道具です。偶然使い物になったので、安全検証だけは徹底して行って、大丈夫だったので販売に踏み切っただけで」

「その安全検証にジュジュが付き合った?」

「はい。私が個人的に親しくしている魔術師の方はジュジュさんしかいなかったので」


 そう説明すると、ジュジュは少し照れたような顔をした。


「でもジュジュが連れてきた魔術師たちにも安全検証をお願いしていたよね?」

「あ、はい。私に他の魔術師の伝手がなかったので、ジュジュさんに紹介して頂きました。でもそのときのご縁だけです」


 安全検証のお礼を渡したあとは特に彼らは店に来ていない。

 ジュジュだけがあれやこれやと結珠の世話を焼いてくれている。

 結珠の説明にディーターは少し考える素振りを見せて、次の瞬間閃いたような顔をした。


「今度新しい魔法道具を作るときに、その安全検証の魔術師として俺を使ってみないか?」

「はぁ!? 師団長、何をおっしゃっているんですか!?」

「えええ!? 偉い方にそんなことお願い出来ません!」


 ディーターの提案に、結珠とジュジュは冗談じゃないと噛みついた。

 反対された当の本人であるディーターは不満そうな顔をした。


「何でだめなんだ? 俺だって魔術師だぞ。別にいいじゃないか」

「あの……その前に新しい魔法道具を作る予定はないので、特に必要としていないというか何というか……」


 普通の魔法道具と低価格魔法道具の作製と販売だけでとても忙しい。新しい魔法道具を開発して作る余裕など、今の結珠には到底できない。

 そもそも今まで作っていた普通のアクセサリーを作る余裕もなく、ネット販売も行えていない状態なのだ。

 ジュジュも呆れたような顔でディーターを見ている。


「それが目的だったんですね、師団長」

「いや、それだけが目的ってわけでもないんだけど」

「じゃあ一体何です? あ! そういえば、師団長は魔法道具の研究をなさってましたよね!?」


 魔法道具の研究!?

 ジュジュの言葉に、結珠はドキッとした。

 そういえば、先日旅立つ前のナールに魔術師の中には魔法道具の研究をしている人間がいるから注意しろと言われたばかりである。

 もしかしてこのディーターがそうなのだろうか……。

 あわあわと慌てながらディーターを見ると、にっこり微笑まれた。


「ジュジュが余計なことを言うから店主に驚かれたじゃないか」

「余計なこと!? いい加減にしてください! 本当にユズにそういう目的で近づこうとしているんですか!?」

「いやぁ……まぁ、全てを否定するつもりもないんだけど……」

「やっぱり! ユズは師団長の好奇心を満たすためにいるわけじゃないんですよ!」

「それはわかっているよ。それに店主が相手を脅威に思えば、俺はこの店に出入り出来なくなるのもわかっている」

「じゃあ、だったら何で!?」


 ジュジュも必死だ。それはあくまで結珠が異世界からきた迷い人である可能性が高いからと判断して、脅威から遠ざけたいという気持ちがあるからだ。

 自分の上司であるディーターを疑いたくはないが、魔法道具研究の一環で結珠を利用したいなどと言われたら、ジュジュはディーター相手に立ち向かう気でいる。

 右も左もわからないながら、自分のために魔法道具を作ってくれた結珠を、知り合ってからまだ短期間であるにも関わらず、ジュジュは大事に思っている。


「俺にも守秘義務があるから全てを言えるわけではないんだが……。まぁ、王立魔術師団長としての立場から調べたいということもあるし、ひとりの魔術師として俺が興味を持ったという点もある。ひとつの理由ってわけじゃない。色々な要因が重なったところに、新しい魔法道具が出来た。そうなったら話を聞きたいと思うのは当然じゃないか?」


 それは正論だった。

 今まで、魔石は大きければ大きいほど魔力を多く貯めることが出来て、魔術を使える回数も多くなるというのが定石だった。

 そこに、小さい魔石でも回数制限がありながらも普通の魔法道具と遜色がない威力の魔術を使えることが可能な魔法道具が出来た。

 噂を聞きつけたワーカード王国の重鎮たちが真偽の確認を求めている。

 そう告げられて、結珠は青くなった。


「そ、それは! 私はもしかしていけないことをしたってことでしょうか!?」

「いや、そういうわけじゃないよ。ただ、国にはもう稼働百年を超える魔法道具も存在していて、いつ壊れてもおかしくないものもある。新しい魔法道具に挿げ替え出来ないかという話も出ているくらいなんだ。俺はそういった研究も行っている」


 稼働百年を超える魔法道具。恐らく国宝的な何かだろう。

 ディーターの説明をジュジュも初めて聞いたらしく、先程の怒り顔から真面目な顔でディーターの話を聞いている。


「そこに新しい魔法道具が開発されたとなったら、当然どうにか出来ないか……なんて発想に飛ぶのは仕方がないことだろう?」

「それは……そうですけど……」

「いきなり訪ねてきて、じゃあすぐに城に来て魔法道具を見てくれ! というのは、さすがに難しいのはわかっている。だからこそ、ジュジュのように俺も君から信頼を勝ち得て、いずれお願いしたいと言うのは無茶な相談だろうか?」


 ディーターからの申し出に結珠は言葉を失った。

 ジュジュも最初に店へ来たときに言っていた。結珠は力のある大魔女になれるであろう素質があるかもしれないと。

 恐らくディーターもそれを見込んでくれたのかもしれない。

 だがしかし、結珠には出来ない相談である。


「あの……とてもすごい話だと思います。私を見込んでお話してくださったことは嬉しいですが、申し訳ございませんがお断り致します」

「今言ったが、何も今すぐというわけじゃない。ジュジュと同じように俺を見極めてからでいいんだ。断らないで欲しい」

「……ジュジュさん、話してもいいと思う?」


 ディーターの申し出に返事もせず、結珠はジュジュに助けを求めた。

 ジュジュもディーターの言い分はわかる。自分の住む王国の未来の大事な話だ。ここまで聞いてしまったら、王立魔術師としてのジュジュは、ディーターと同様に結珠にお願いしたい事柄だ。

 しかしジュジュもまた結珠の事情を理解している。


 どうあってもディーターの願いを結珠が叶えることは出来ないのだから。


「……いいと思うわ。むしろ言わないと」

「店主? ジュジュ? 何の話だ?」


 ディーターを通り過ごして会話をする二人に、ディーターも訝し気な顔をする。


「あの……ディーター様のお話はちゃんと理解しております。ですが、私には出来ないことです」

「だから、先程も言った通り、今すぐの話ではない。君が俺を信用しても良いと思ったらで……」

「いえ。信用とかそういう話ではなくて、私の問題です」

「君の?」

「はい。私、この店から出ることが出来ないんです」

「は?」


 結珠の説明に、ディーターは言葉を失った。



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― 新着の感想 ―
こんにちは。 >店から出られない まぁ「玄関開けたら二分でごは○!」ならぬ、「玄関開けたら普通に(行き先は)日本!」ですからねぇ…。
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