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33.ジュジュ vs 魔術師団長



 師団長と呼ばれた男に対して素っ気ない態度を取っているジュジュだが、別に嫌っているわけではない。

 単純に、ジュジュは師団長と結珠をあまり接触させたくないだけだ。

 迂闊にも少し派手に動き過ぎたとジュジュは後悔していた。

 恐らく彼も気付いているだろうが、ジュジュにとっては師団長が結珠に興味を持ってしまったことが問題なのだ。

 だからこそつい素っ気ない態度を取って、どうにか結珠から遠ざけたいというのがジュジュの希望なのだが、それがかえって師団長の興味をそそることになるのをジュジュはわかっていなかった。

 良くも悪くも、ジュジュは結珠同様に人が良いのだ。

 結珠は、大魔女にもなれそうな資質の持ち主で、新しい魔法道具をうみだすことも可能な柔軟性を持ち合わせている。

 そして結珠の申告通りであれば、迷い人と呼ばれるに最も近しい異世界人。

 ついうっかり新しい魔法道具が出来る瞬間に立ち会え、おまけに自分の波長にあった魔法道具を作ってもらったことに浮かれ過ぎていた。

 この男が興味を持たないわけがないということを。

 結珠の要請に応えて、同僚を引き連れて安全検証まで手伝ってしまったのだ。それを知られない保証などなかったのに。

 ちょうど長期任務で地方へ行っているから大丈夫かななどという考えが甘かった。

 安全検証へ連れていき、お礼に魔法道具を貰った四人の同僚のうちのひとり、マンフレッドが師団長へ漏らしたらしい。

 何もかも手遅れかもしれないが、せめてジュジュは結珠を守ろうと決意した。




 歩きながら話をしていたが、詳細が聞きたいと問答無用で師団長の執務室へと連れていかれる。


「それで、お話とは?」


 早速切り込んだジュジュに、師団長は苦笑した。


「ジュジュってそんなにせっかちだったかな?」

「……わかっていてお聞きになっているのでしたら、始末が悪いです」

「そう言われてもな。そこまで君が頑なだと、あの魔女についてまるで触れてほしくないことでもあるように思えるよ?」


 ジュジュは、自分の態度が逆効果だったと気付いたのはこのときだった。大きなため息をついて何とか気持ちを落ち着ける。


「……申し訳ありません。だって、師団長が興味を持たれてるのはわかりきっていますし」

「俺は愉快犯か何かかな?」

「ええ、面白いことがお好きで、魔法道具も好き。プライベートで魔法道具について研究なさっているくらいですし、遅かれ早かれあの店のことを気付かれるとは思っていましたけれど、こんなに早くとは思わなかったんです」

「なるほど? それで君の態度がいつもと違って頑ななんだな」

「…………」


 ああ、やはりこちらの意図に気付いていた。

 そして頭の回転が速い男だ。もっと気付いてほしくない点に気付くはずだ。


「それで? あの店主の魔女と俺を近づけたくない理由は?」

「……迂闊でした。拒むのではなく、普通に接するべきでした」


 師団長の問いの回答というにはいささかずれていたが、師団長はその意味を正しく理解した。


「何か秘密があるようだね? 教えてもらいたい」

「申し訳ありませんが、お断り致します。私も魔女の信頼を得て教えられたことです。師団長もお知りになりたいのでしたら、彼女の信頼を勝ち得てください」


 結珠の店の最初の客、というだけの接点だったジュジュが、秘密を打ち明けてもらうまでは、時間で言えば早い方だっただろう。

 急死した祖母から、大した知識もないまま店を受け継いだ結珠。

 ジュジュから見ても少し危うい。おまけに若く見えるが、金銭面もしっかりしているし、恐らく見た目通りの年齢ではないだろうと思っている。

 結珠は守ってやらないと! とジュジュに思わせるには十分だった。

 実際は店にかけられた防犯機能の魔術がすごいので、ジュジュがしてあげられることなど、たかが知れているのだが。


「……あの魔女に秘密があるということは隠さないんだね?」


 含みのある言い方をされて、ジュジュは意識を戻す。


「まぁ、師団長のことですから、街で聞く噂程度はすでにご存知なのでは?」

「えーっと、悪意を持った人間は店に入れないし、危害も加えられないし……ってやつ?」

「ええ。実際に見たことがありますけれど、店に入れたところで窃盗などを考えれば、即座に弾き出されますよ?」

「へー。すごいな。どういう魔術になっているんだろう?」

「それは私も知りませんし、何なら店主の魔女もあまりよく理解していないようです」


 店の防犯機能については、そういうものがあるということしか先代店主の璃奈は結珠に教えなかったようで、あの店のどこに魔法道具が仕掛けれられているかも結珠は知らないらしい。

 便利だし困ることもないしと、結珠はあまり気にしていない様子ではある。


「師団長、興味を持たれるのはわかりますが、あまり無遠慮に振舞われると、あの店から悪意を持っていると判定されて店に入れなくなりますよ」

「それは困るなぁ……。でも別に俺はあの店に害をなそうとは思っていないよ? ただ興味があるってだけで」


 師団長は面白そうに笑う。


「その興味が行き過ぎれば、悪意を持っていると判定されかねないですよ。大体、先代の店主のときも、ときどき店に行っていましたよね?」


 ジュジュが璃奈が店主だった時代からあの店へ行っていたように、師団長もジュジュと同じように璃奈作の魔法道具をいくつか所持していたはずだ。


「ああ。行っていたよ。まぁ、あの老魔女も何だか掴みどころのない人だったけれど、今の店主もすごいんじゃないか? こんな小さな魔石で回数制限があるとはいえ、使用可能な魔法道具を作り上げてしまうのだから」


 そう言って師団長は自分が買ったキーホルダー型の魔法道具をポーチから外してジュジュへと見せる。


「購入されていたんですね」

「ああ。面白そうだったからね。買ってすぐに試してみたけど、威力は普通の魔法道具と何ら遜色はなかった。純粋にすごいと思うよ」

「確かにそれは私も思いましたが……」


 ジュジュは実際に最初に作るところから立ち会っているので、結珠が作った低価格魔法道具のすごさは理解している。


「それにね、俺多分だけど彼女の最初に作った魔法道具を持っているんだ」

「え?」


 結珠が最初に作った魔法道具?

 結珠の店の客、第一号は自分ではなかったのだろうか?

 どういうことだと訝しんでいると、師団長はポーチからさらにかんざしを取り出した。


「これは……?」


 あまり見たことのない形状の魔法道具にジュジュは眉をひそめる。


「まだ先代が生きていたときにあの店で購入したものだ。先代曰く、髪につけるものらしいのだが、まぁつけなくても使えるし、すごい力を感じる魔法道具だったんで買ったんだが。恐らくこれは今の店主が作ったものだと思う」

「え!? そうなんですか?」

「ああ。先代が購入時にそれっぽいことを言っていた。当時、結構高めに値段設定されていてな。その日の手持ち金貨がぎりぎりだった……。金を取りに戻ったりしていたらその間に売れそうな気配だったぞ」


 師団長が手渡してくれたので、ジュジュは結珠が作ったらしい魔法道具を受け取って眺めてみる。

 言われてみればデザインが璃奈ではなく、結珠が作ったような印象を受ける。

 自分が結珠の作品を初めて購入した客だと思っていたのに何だか水を差された気分だ。


「これを買ったときに先代は、店を継ぐのはこの魔法道具を作った人間になるだろうと言っていた。気付いたら店は閉まっていて、再開したらその後継者らしき人物が店主になっている。しかも新しい魔法道具まで作った。俺が気にならないわけはないだろう?」


 そこまで言われてしまったらもうジュジュに反論は出来ない。


「……紹介するってさっき約束しましたからね、もう私も逃げられないんでしょうけれども。いつなら師団長はご予定が空いているんですか?」

「俺は今日でも大丈夫だ。昨日の今日で魔女は大丈夫かな?」

「さぁ? 紹介はしますけれど、せいぜい拒否されないように気を付けてくださいね」

「……何だかジュジュがすごく辛辣なんだけど」


 師団長の指摘をジュジュは無視をして、仕事へ行きますと執務室を後にした。



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