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31.黒髪のイケメンがやってきた!



 店の扉が開くベルの音がした。

 キッチンで皿やグラス、ワインの準備をしていた結珠は、その音を聞いて店へと戻る。


「早かったね! いいの買えた?」


 ジュジュが出て行ってまだ三十分程度しか経っていなかったが、もう戻ってきたらしい。

 そう思って店に向かって声をかけたが、店の中にいたのはジュジュではなかった。

 店の中にいたのは、黒髪で長身の男性だった。


「わっ! ご、ごめんなさい! 買い物に出て行った友人が戻ってきたんだと……」


 ジュジュが戻ってくるからと店の扉の鍵を開けっぱなしにしておいたのが良くなかったようだ。

 扉に掛けている札は、クローズにしておいたが、黒髪の男は初めて見る顔だ。しかも一度見たら絶対に忘れることはないだろうと思うくらい、顔が整っている。

 背も高いし、顔も良いしで、結珠としては芸能人になるのならばこういう人かなと思うくらいだ。

 初めて見る顔ということは、店に来るのも初めてかもしれない。もしかしたら今日はもう閉店したことがわからなかったのだろうと判断する。

 そして男も結珠の態度から何かを察したらしい。


「あー、もしかして、今日はもう店じまいか?」


 店には男以外の客はいない。おまけに結珠が友達が戻ってくると言ったせいか、そう判断したようだった。


「えっと……一応そのつもりだったんですけど、別に大丈夫ですよ」

「いいのか?」

「はい。また出直してもらうのも悪いですし」

「悪いな。ちょっと見たらすぐに出ていくから」

「いえ、ごゆっくりどうぞ。ご自身にしっくりくるお品物を選ぶのには時間がかかるでしょうから、時間は気にしないでください」


 そもそも今日は少し早めに店を閉めたくらいだ。それにジュジュが戻ってくるまでもう少し時間がかかるだろう。


「そう言ってもらうと助かる。じゃあ遠慮なく」

「はい、ごゆっくり。何かありましたら声をかけてください」


 結珠は男に微笑んで伝えると、男は店内を見渡した。


「いい魔法道具が揃ってるな」

「本当ですか? 嬉しいです」

「そういえば、街で聞いたんだが、最近噂になっている人気の道具があるとか……」

「もしかして、回数制限付の魔法道具ですか?」

「そう、それ」


 この男も低価格魔法道具を聞いて店に来たのかとびっくりする。

 ジュジュも教えてくれたが、口コミで本当に広まっているようだ。


「ありがとうございます。これですね。ご存知かもしれませんが、三回の使用制限付きです。その分、普通の魔法道具よりはお安く提供出来るんですけど……」


 説明しながら結珠は魔法道具を手に取って男に見せる。


「どういう理屈で三回なんだ?」

「えっと……製造方法は明かせないですけど、小さい魔石の有効性を考えて試行錯誤した結果、この小さな魔石を付けている回数分だけ使えるものを作ったって感じです」

「ああ、なるほど。まぁ、製造方法については秘伝のものもあるし、そうは明かせないよな」

「……そうですね」


 この男からしてみたら、異世界の材料を使っているなどと説明は出来ない。だからこそ秘伝と言ってくれたことに対して、否定はしない。


「製造方法についてはわかったけれど、何で三回?」

「それは価格の問題です。三回までにしておかないと低価格である意味がなくなってしまうので」

「そうか……。魔石三個で販売価格が金貨二枚。確かにこれ以上魔石を増やしたら通常の魔法道具と変わらない価格帯になるな」

「ええ。だったら普通の魔法道具を買った方が全然いいでしょうから。ですので、基本的には普通の魔法道具が高額という理由だけで買えない、まだ駆け出しの魔術師の方々が気軽に買えるようにしたかったんです。結果、使用回数の制限になってしまった……という感じです」


 この話については特に隠していることではないので、聞かれるがままに答える。


「君は……ここの店主だよな?」

「はい、そうです。もしかしたらご存知かもしれないですけど、以前は祖母が経営していました」

「ああ。老婦人がいた頃に何度か来ていた。君は彼女の孫なのか?」

「はい。祖母が亡くなって、私がこの店を相続しました」

「そうか……聞きにくいことを聞いてしまったかな」

「いえ。もう祖母が亡くなって一年は経ちました。当時は悲しかったですけど、色々と一区切りついたので、気持ちの整理も出来ています」


 さっきジュジュとも話をしていたが、もう祖母が亡くなって一年以上経った。毎日が忙しいし、一周忌法要も終わった。

 今は店を正しく経営していくことが結珠にとって一番大事なことだ。


「なるほど。前を向いていられることはいいことだ。では、俺もこれを貰おうかな」


 男が手に取ったのは、低価格魔法道具のネックレスだった。


「はい、ありがとうございます。ネックレスで大丈夫ですか?」


 男はあまり装飾品を好まないのか、とてもシンプルな服装をしている。魔法道具も身に着けているようにあまり見えない。


「ネックレス以外もあるのか?」

「はい。こっちはブレスレットタイプで、こちらはブローチになっています。あとキーホルダーというのもあるんですけど」

「キーホルダー?」


 男女兼用で問題がなさそうなアクセサリーとしては、試作品で問題がなかった、ネックレスとブレスレット、ブローチ、キーホルダーの四種で売っている。

 キーホルダーは着け方がわからないせいか売れ行きが一番良くないが、きちんと使い方を説明すれば、買っていく客も多い。


「はい、あまり華美な装いになるのが嫌な方はキーホルダーを選ぶ方が多いです。こちらはお手持ちのポーチとかにこうやって取り付けられます」


 そう言いながら結珠は自分が身に着けていたエプロンの紐にキーホルダーを付ける。


「ポーチの紐や金具に付ければ目立ちにくいです」

「へぇ……いいな。こちらにしようかな」

「ありがとうございます。キーホルダーですと、この辺りに置いてあるものがそうですけど、どれにしますか?」


 手でキーホルダータイプの商品を示すと、男は青みがかった魔石粉パーツが付いたキーホルダーを手に取った。


「これにしよう。色が綺麗だ」

「ありがとうございます。で、申し訳ないんですけど、ここに書いてある通り、魔術師であるか確認させてもらいたいんですが……」

「ん? 構わないが、どうやって?」

「そうですね。大体の皆さんは光を出したりとか危険性の低い初歩的な魔術を見せていただいてますね」

「そういうことなら」


 男は指先に光の球を出す。男が指を動かすと、光の球は結珠の頭上へと移動して、くるくると回り始めた。


「わ! びっくりした!」


 大体の魔術師は普通に手のひらに光の球を出す程度だ。こんな風に動かす人はあまりいなかったので、驚く。


「すまない。少し派手にした方が良いかと思った」

「いいえ、大丈夫です。証明、ありがとうございます」


 結珠は一旦商品を受け取って、カウンターへと持って行く。


「包装しますか? それともすぐに身に着けて帰りますか?」

「身に着けて帰るから包装はしなくていいよ」

「わかりました。それでは金貨二枚になります」


 価格を告げると、男は腰に付けたポーチから金貨二枚を取り出した。


「ありがとうございます。では、こちらを」


 キーホルダーを渡すと男はポーチに付けようとしたが、初めてなせいかうまく取り付けられなかった。

 見かねた結珠は、代わりに付けようかと申し出る。


「すまない。どうやって付けるんだ?」

「ここを押すとバネで開く仕組みになっていて、この部分を金具とかに引っ掛けて、押すのをやめたら……ほら! 付きました!」

「すごいな。確かにこれなら邪魔になりにくい」

「ありがとうございます。こういうタイプの魔法道具も今後作れたらとは思っているので、もし使い勝手が良かったらまたお店にお越しください」

「ああ。そうさせてもらうよ。閉店間際にすまなかった」

「いえ。大丈夫です。またのお越しをお待ちしております」


 結珠は頭を下げて男を見送った。



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