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28.魔石粉パーツ付魔法道具の販売開始!



 今のところ、結珠が感じるようなトラブルもなく、低価格魔法道具の売り上げは順調だ。

 またもやナールに追加で魔石の加工依頼をお願いしたのだが、ナールも悲鳴を上げかけている。

 ナール曰くだが。


「人気が出るとは思っていたが、予想以上だ! これじゃあ、俺は毎日加工に追われて、魔石売りとしての本来の仕事ができねぇ! 面白そうだと思って付き合っていたが、まさかこんなやっかいごとになるとは! オマエはばーさん以上にやっかいだな!」


 だそうだ。

 結珠は、それはもう丁寧に謝った。

 お詫びを込めて、前に一本プレゼントをしたウイスキーを五本プレゼントした。

 するとナールは少しだけ機嫌を直して素直に加工を請け負ってくれた。


「出来るだけ加工はしてやる。でも、俺ひとりの作業だから、限界はある。次の発掘へ行く準備までになるが、いいか?」

「大丈夫です! というか、正直なところ、こんなに売れ行きが良いとは思っていなかったので、これ以上売れるのも……他のお店からやっかまれるかなぁ……って思ってたところなんですよ」

「まぁ……もう十分目を付けられているとは思うけどな」

「……怖いこと言わないでくださいよぅ!」


 ナールが言いたいこともわかる。

 ここのところ店には、魔術師ではなさそうな客がちらほらと混ざっているのは、結珠もわかっている。

 例の魔石粉パーツ付の、低価格魔法道具を見て購入をしたそうにしていたが、魔術師限定で確認すると書かれていたので、諦めて帰った客は何人もいたし、窃盗をしようとして店からはじき出された客もいた。

 恐らくは他の競合店の人間だろうなと思っているが、みんなコソコソしてばかりだ。

 身分をきちんと明かしてくれれば、購入してもらっても良いとは思っているし、問われれば魔石粉パーツは魔石の粉屑と粘土で出来ていると教えても良いと思っているが、誰もそういう考えにはたどり着かないらしい。

 まぁ、簡単に言えばスパイ行為に来ているのだから、そんなに堂々と購入をしに来るライバルはいないだろう。

 そもそも結珠が競合店が購入しても良いと思っているのは、王国側では絶対に使用できない材料を使っていることが第一だ。

 しかも王国産の土粘土では絶対に使用可能なものが作れないことも確認済。

 王国側の人たちが絶対に作れないからこそ、材料や作り方を明かすという、とんでもない意地悪でもあるのだ。

 けれど、まだそんな勇気を持った人間はいないらしい。



 そして危惧していた嫌がらせの件も、特に店の中では起きていない。

 目撃したジュジュ曰く、店に入れずに外で大騒ぎしている輩は何人かいたらしい。

 けれど、結珠のお店で無事に低価格魔法道具を購入出来たどこかの冒険者が酒場で笑いの種にしたらしく、嫌がらせを行おうとしていた者たちの方が、王都で鼻つまみに合っているとのこと。


「そうなんだ? ちなみに、酒場ではどういう話になっていたの?」

「えーっと、確か聞いた話によると『あの小さい嬢ちゃんが新しい店主になった店は、いたずらしようとしたり、詐欺をしようとしたり……とにかく悪意を持った人間は店に入ることすら出来ないらしい。だから、最初から店に入れない人間は悪人ってわけよ!』って、酒場で大声で話をしていたとか」

「そのままを伝えてくれていたんだね」

「ええ。その冒険者もユズのお店で魔法道具を購入したらしいわ。使い勝手が良くて気に入っているって」

「そうなんだ。どの人だろう?」

「筋肉質の男の人らしいわ」

「そういえば、そんな人いたかも。魔術師っていうより、格闘家とか剣士みたいに戦う感じの人いたなぁ……」


 ジュジュに言われて、ちょっと特徴的な冒険者を思い出す。

 一度見たら忘れない感じのインパクトのある人だった気がした。


「このお店の防犯機能について、正しく王都内に伝わっているわね。例え、お店に入るまで悪意を持っていなくても、お店の中で悪意を持ったり、窃盗を行おうとした時点でもお店から強制排除されるって」


 どれだけ敷居の高い店なのかと、恐れられるような素振りもあったところで、低価格魔法道具の発売が始まったので、店は瞬く間に王都内で超有名店となっているらしい。

 おまけに店主は黒髪の大人しそうで若い女店主。先代の孫らしいが、先代に匹敵する魔女で、見かけとは違い、かなりのやり手らしい。……と、噂が回っているとのこと。


「それって、私のこと!?」

「ユズのことね。概ね当たっているじゃない」

「いや、何か……悪い人とは言われてないけど、何かすごく悪役っぽくない?」

「魔女が悪役なわけないでしょう? ただどれだけ自分の力の価値を理解して売り込みが出来るかってところが大事なだけで」


 あ。ワーカード王国では、魔女って悪役じゃないのね。と、結珠が気付いた瞬間だった。

 どうにも自分が知る魔女は悪役が多いせいで、自分が魔女と言われると、どうしても自分も悪役っぽく思いがちだ。


「ところで、何度も聞いているけれど、やっぱりまだ魔力の込め方、わからないの?」

「あーうん。もう理解するのやめようかと思って……」


 ジュジュには何度も聞かれているが、魔石への魔力の込め方はさっぱりわかっていない。

 今わかっていることは、何もしなくても魔石に魔力は入っていくということだけだ。

 先日、安全検証に協力してくれたジュジュの仲間たちに、検証に使った魔法道具をプレゼントすることとなったが、使用済だったため、改めて魔力を込め直してからプレゼントすることになったのだ。

 もちろんジュジュにも大丈夫かと聞かれたので、何とかなるのでは? と答えたら呆れられたのだ。

 預かった翌日、心配だったのかジュジュが店を訪ねてくれて、魔法道具の様子を確かめてくれたのだが、ジュジュは驚いていた。


「綺麗に魔力が入っているわ。ユズ、わからないなんて言ってたけどちゃんと出来たのね」


 なんて言われて、結珠の方が驚いたくらいだ。

 魔力を込めるような特別なことなど何もしていない。

 むしろ預かったときに籠に入れて、そのまま作業スペースに置いておいただけだ。

 結果、結珠の出した結論は『何もしなくても店の中もしくは作業スペースに置いておけば、勝手に魔力は入る』だ。

 この店や家の敷地そのものを、大きな充電器のようなものだと思うことにしたのだ。

 そして、魔女が魔力を入れるということは、結珠自身が電池かコンセントのような役割なのだろうと思っている。


「本当に大丈夫? ある日突然やっぱり魔力が込められてなかったなんてなったら……」

「それも確かに考えたんだけど。でもね、ジュジュさん」

「なあに?」


 結珠はジュジュに顔を近づける。


「この店の魔法道具で、魔力が入っていないものある?」


 真顔で結珠に問われて、ジュジュは苦笑しながら店内を見渡す。


「ないわね。どれもこれも潤沢に良質な魔力が綺麗に込められているわ」

「でしょ? 結局お礼で渡した分も翌日にはきっちり魔力が入ってたし、試しにって預かったジュジュさんの魔法道具だって、これも翌日には満タンに魔力が入ってたじゃない」

「そうなのよねぇ……。怖いのはユズに入れた自覚がないってところなだけで」

「私としては、『ああ、こういう感じかな?』って理屈がわかったんだけど」

「そうなの?」

「うん。でもね、この理屈は私だから理解できることで、多分ワーカード王国の人たちには理解出来ない内容なの」


 それもそうだ。充電器やら電池やらコンセントと言ってもわかってくれるわけがない。


「ユズ自身が理解出来ているのならばいいんだけれど。でもこれで魔力充填の仕事も受けられるんじゃない?」

「そうだね。ちなみになんだけど、一日預かっての魔力充填って平均的? それとも遅い方?」

「……逆ね。とても早いわ」

「そうなんだ! 普通はどれくらいなの?」


 ジュジュ曰く、平均で二~三日はかかるらしい。

 頼まれる魔法道具の数によっては一週間程度かかることもあるとか。

 そこを一日でやってしまう結珠は、やはりジュジュの最初の見立て通り、恐ろしいほどに潤沢な魔力を持っているらしい。


「一日でどれだけの数の魔力充填をこなせるのか、わからないけれど、その速さもきっと他店を刺激することになるわ。気を付けてね」

「そっか……わかった。じゃあ、もしも始めるとしたら預かって三日後とかに返すようにするよ」

「それがいいわ。別に無理をして翌日に返す必要性もないもの。それに預ける側も三日かかると言われて、それが普通だと思っているから何の疑問も持たないでしょうしね」

「ジュジュさん、ありがとう! 参考になったよ」


 本当にジュジュには世話になりっぱなしだ。

 そういえばと、ジュジュとの約束を思い出す。


「ジュジュさん。約束していたお礼、どうする?」

「何でもいいのかしら? 高価なものをねだってしまうかもしれないわよ?」


 ジュジュは不敵に笑う。さすが美女だ。あまりの妖艶さに結珠の頬も赤くなった。


「……高価なものでもいいよ! でも、私が用意出来るものでね」

「嘘よ、嘘! ユズにそんなものねだったりしないわ」


 嘘だったのか。ほっとした半面、高価なものであれば、税金対策が楽だったのになぁ……と私情も脳裏をよぎる。


「でも、本当に欲しいものを言わせてもらえるのならば、ぜひ私に合った魔法道具を作って欲しいの。代金はきちんと払うわ」

「……お金払ったら、お礼じゃなくない?」

「魔石の金額も馬鹿にならないわ。それをタダで貰おうなんて、いくらなんでも出来ないわ」


 それで本当にお礼になるのだろうか?

 ふと考えて、思いついた。


「だったら、利益は取らない。材料の原価のみで、ジュジュさんの希望を聞いて、デザインを考えた、ジュジュさんだけの魔法道具を作るってことでどう?」

「いいの? 利益なしじゃ……ユズも大変じゃない?」

「お礼なんだからいいよ。それなら結構売り物よりも安く出来るし、ジュジュさんの気もすむでしょう?」


 そう提案すると、ジュジュは花のように笑った。


「ありがとう、ユズ! 嬉しいわ!」

「いいえ! こちらこそ、本当に色々協力してくれてありがとう!」


 この日、結珠とジュジュは遅い時間まで、ジュジュ専用の魔法道具について意見を出し合った。



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