27.魔石と魔石粉パーツの関係性
割れる可能性を考えて、ワイヤーでパーツ全体をぐるぐる巻きにして固定した、王国の粘土を使った魔石粉パーツは、ワイヤーの中で真っ二つに割れていた。
「うわー、綺麗に真っ二つ。今までのは割れなかったのに……」
「この針金で固定されていたのが幸いしたわ。じゃなかったら多分割れた欠片を無くしていたかもしれない」
「どうしてこうなったの?」
今までの樹脂粘土では傷やひびなど入っていなかったはずだ。
それなのにも関わらず、王国の粘土を使用したパーツは綺麗に割れている。
何がどうしてこうなったのかを尋ねると、ジュジュは自分の右頬に手を添えて答えてくれた。
「それが、魔術を発動しようとして、最初は発動兆候があったの。でもすぐに魔術が失敗して、見たら割れていたわ」
「ということは、一回も魔術は使えなかったってこと?」
「ええ。恐らく、魔術発動にパーツが耐え切れずに割れて、魔術が発動しなかったんだと思うわ」
「はぁ……なるほど。でもこれでやっぱり小さい魔石で魔術を使うための鍵がこの魔石粉パーツにあるってのがわかったね」
「そうね。しかも、王国の粘土では耐久性の問題があって、壊れてしまうから無理。ユズの世界の材料じゃないと出来ない」
これは大きな収穫である。
王国の土粘土では作れないものであるということ。
しかも樹脂粘土は結珠しか所持していない。他の店では絶対に真似できない魔法道具を作れるということだ。
「独占的に販売出来るのは素晴らしいわ。でも同時に嫌がらせについて考えないといけないかも」
「……気付けない悪意をどう対処したらいいのかな?」
「それなのよねぇ……。例えば、結珠のお店の商品じゃないのに、類似品持ってきて詐欺行為を働こうとしても……」
「まずそういうこと考えてる時点で、うちの店には入れないよ?」
「でも、例えば詐欺行為を目論んでいる人間が代理人を立てたら? 代理人は事情も知らずに『この商品は不良品だから店へ返品をして、代金を返してもらってきてくれ』って頼まれて来たとしたら、それを信じている以上、ユズのお店に対して悪意は持っていないわ」
「あー、そこまで考えてなかったかも」
確かにジュジュの指摘通りだ。
今までは嫌がらせ行為をする本人が店へと来ていた。だからこそ店に弾かれていた。
そのうち店の防犯機能の盲点をすり抜ける者が出てきても不思議ではない。
「購入制限以外に、何か対策も考えないといけないのか……」
「一番手っ取り早いのは、第三者にもわかる印を入れるとかね」
「第三者にもわかる印……。店のマークとかってこと?」
「ええ、そう。貴族が使う封蝋に押すようなものとか……何かそういう印章はないの?」
ハンコやスタンプを作品そのものに押す。
あまり考えたことはなかった。でも確かに良い案かもしれない。
そもそも自分でデザインから作れるお店はネットで探せばいくらでもあるだろうし、そんなに値段もかからないはずだろうから、取り入れるべきだろう。
「作ってないなぁ……。でも作ろうと思えば割とすぐ作れるから、ちょっと考えてみるね」
「それをおすすめするわ。最初から印章が入っていますって宣言して売ってしまえば、似たような魔法道具を作ることを阻止できるかもしれないわ」
「そうだね! 焼く前の魔石粉パーツに押しちゃえば偽造もしにくいだろうし」
さすがは貴族だ。封蝋印を普段から使いこなしているからこそ、すぐに思いついたのだろう。
結珠だけだったら、きっと思いつかなかった。
「あ、そうそう。まだもうひとつあったわね。こっち」
そう言って、ジュジュが出したのは魔石粉パーツ二個と魔石十個が付いた魔法道具だ。
「忘れてた! こっちはどうだった? やっぱり予想通り?」
「いいえ、予想通りではなかったわ。五回の魔術発動で終わり。六回目以降は魔術は使えなかった」
「ええ!? 本当?」
「本当よ。このパーツは一個だろうが二個だろうが、限界が五回。もしも五回以上発動させたいのであれば、魔法道具としては二個以上持たないとだめね」
「そっかぁ……。何が原因なんだろう?」
魔石粉パーツを二個付ければその個数分×最大五回の魔術が使えるかと思ったのだが、どうやら違うらしい。
「それでね、ひとつ気になったのだけれど」
「なぁに?」
「普通の大きさの魔石に、このパーツを付けたらどうなるのかしら?」
「そういえば、試してなかったね。やってみる?」
「ぜひお願いしたいわ。ちなみに、私の手持ちの魔法道具にこのパーツを付けてもらうことは可能?」
「もちろん出来るよ! でもいいの? ジュジュさんの持ち物なのに」
店の商品に付けてもいいと言えば、ジュジュは首を振った。
「さすがにそんな図々しいことは言えないわ! 検証が終わったらすぐに外せるようにしてくれるのであれば、私のを使って」
「ありがとうー! 本当にありがとう!」
「いいのよ。何だかんだ言っても、この検証、私も楽しくなってきちゃって!」
「そうなの?」
「ええ。今まで魔法道具って、出来上がったものを買って使うだけだったから。でもこうやって作り手の人たちの試行錯誤があって、私たちがより便利に魔術を使うことが出来るんだって思ったら、楽しいの。それに、ユズが使い手の意見もきちんと取り入れてくれるから」
「え?」
「今までの魔法道具は、すでに作られたものだから、私たち魔術師が道具に合わせるしかなかったのよ。でも、こうしてユズと作り上げて、私たち魔術師の意見も取り入れてくれて、どんどん使い勝手が良くなっていくし、魔術も使いやすくなっている。すごく嬉しいの」
「ジュジュさん……」
ユーザーの意見は嬉しいなんてよく聞くが、こうも手放しに言ってくれると、結珠も嬉しい。
こういう声があるからこそ、作ることをやめられないのかもしれない。
「じゃあ、ますます使う人たちの意見を取り入れなきゃね!」
「本当? だったら遠慮なく言ってしまうわよ?」
「どんとこい!」
結珠が拳を振り上げると、ジュジュは笑った。
結局、結珠が作ってジュジュが最初に購入してくれた手持ちの魔法道具に魔石粉パーツを取り付けて、こちらも後日検証をしてもらったが、特に何の変化もなかったらしい。
魔術の使用回数が増えたとか、威力が増したということは全くなく、結局あの魔石粉パーツは小さな魔石限定かつ最大回数が五回という制約付きであるという検証結果に終わった。
ジュジュやナールの意見も取り入れて、最初の提案通り、魔石は三個付けて、金貨二枚で売り出すこととなった。
そしてジュジュの提案通り、極小さな陶芸用スタンプを作った。
自身の名前と店の名前から柚子をモチーフにしたマークと、中央に店の略称「SC」を飾り文字にして入れた。
それを魔石粉パーツと、銀粘土で別に作ったパーツに押して、魔法道具に付けてある。
もし銀粘土の方を付け替えられたとしても魔石粉パーツにも入れてあるので、確認は簡単だ。
そして、売り出す際にも制限をかけた。
『魔術使用回数制限付き、低価格魔法道具! 魔術は三回限定で使用可能。四回目以降の魔術は発動しません。また、魔術師おひとり様につき、一個までの販売制限付き。魔術師以外の販売は不可。購入時には魔術師か確認します』
何かトラブルが起きるかと思ったが、物珍しさもあってか、それはもう飛ぶように売れた。
以前、金銭的問題で買えなかったであろう新人魔術師のような人も嬉しそうな顔で買っていた。
こうして結珠は、新しい魔法道具を生み出したのだった。
すごく正直に言いますと、結構前に魔石粉パーツについて鋭いご感想を頂いたりしたので「あ、どうしよう」って思った瞬間もありました。
後出しで嘘くさいですが、その感想を頂いたときには「あまりにチート過ぎるのもなぁ…」と思ってすでに先の展開を決めていたので、こういう結果となりました。
今回のお話でようやくそのことに触れられたのですが、鋭い読者様がいると、筆者がヒヤッとするかもですw




