25.魔石の追加注文と検証の協力者たち
本日は諸事情により、3話分更新です!
このお話はその2話目にあたるので、この話のひとつ前が更新されています。
まずはそちらからご覧ください。
なお、諸事情についてはひとつ前の話に書いてありますので、ご確認ください。(別に大した話ではない)
各パーツの値段の安さに気を取られて、完全に忘れ去られかけていた、ワーカード王国産の粘土は、帰り間際にようやくナールから思い出されて、結珠へ渡された。
貰った粘土は、確かに陶芸に使いそうな単なる土粘土である。
結珠はスマホで陶芸の焼きについて検索をかけた。
素焼きであれば、七百℃もあれば良いらしい。銀粘土用の電子炉で大丈夫そうだ。
物は試しと、魔石粉と混ぜて伸ばして型取りしてと、樹脂粘土と同じようにパーツを作って焼いてみた。
特に割れたりはなかったが、あまり見栄えは良くない。
こちらも同様にレジンでコーティングをして、ジュジュが耐久検証してくれるものと一緒に魔法道具として完成させた。
今は検証優先なので、やっぱりデザインは完全無視だ。ただパーツを組み合わせただけに過ぎない状態のネックレスだが、まぁ検証に耐えられるのであれば問題ないだろう。
ジュジュの意見から、比較対象は必要かと思い、今回も三種類の魔法道具を作ってみた。
・魔石粉パーツ一個と魔石三個
・魔石粉パーツ二個と魔石十個
・ワーカード王国の粘土を使った魔石粉パーツ一個と魔石三個
魔石粉パーツ一個と魔石三個については、完全に安全検証用だ。魔石粉パーツ二個と魔石十個は、昨日ジュジュが魔石粉パーツ一個に対して、魔術は五回までしか使えなかったという証言から二個に増やした。もしもパーツ一個で五回の魔術が使えるのであれば、単純に倍にしたら倍の魔術が使えるのではないかという考えである。
そのため、魔石粉パーツ二個と魔石十個は、完全に回数の検証用。
ワーカード王国の粘土を使った魔石粉パーツ一個と魔石三個については、こちらも材料差で起きている現象なのかの検証用だ。
もしも材料に関わらず、結珠が作ったものが王国の材料で再現できるのであれば、それはそれでありなのではないかと思っている。
単純に思いつかなかっただけで、もしも他でも同じように作れるのであれば、それはそれでいいのかなと。
ただ、コーティング剤があるのかわからないので、もしもなかった場合は、耐久性の保証がない。そう考えれば、もしも真似されたとしても、耐久性の問題が解決するまでは、結珠が独走出来るはずだ。
耐久性の問題が解決した頃には、潤沢に道具が行き渡って需要が減る。そうなれば、普通サイズの魔石を使った魔法道具の作製だけに戻していけばいいだけの話である。
昨日、ジュジュが帰るときに「しばらく任務で王都を離れるから、それが終わったら仲間を連れてくるわ」と教えてくれたので、次の約束は十日後だ。ナールもそれに合わせて来てくれるという。
ナールはついでに「もう嬢ちゃんはこの商品売るって決めてるんだろう? いくつくらい魔石が必要になる? 十日の間で加工してくるぜ」と請け負ってくれたので、とりあえず小さい魔石を二百個頼んでみた。
加工賃と合わせて前回と同じ価格で請け負ってくれるとのことなので、ありがたい。しかも相変わらず魔石粉は加工の副産物なのでおまけしてくれるらしい。
ジュジュが何人の仲間を連れてくるかわからなかったので、十日の間でナールに最初に加工してもらった魔石から作れる数だけ魔法道具を作った。
魔法道具を作ったあとは、ジュジュたちが訪れるまで、実用化に向けた魔法道具のデザインを考える。
男女兼用で、男性と女性が身に着けてもおかしくないデザインとなると、結局ネックレスかブレスレット辺りに絞られてくる。
そもそも魔術師たちは、複数の魔法道具を常に持っているため、他の魔法道具と同じようなタイプになるのも避けたいのだが、なかなか難しい。
「あー。いっそこのことキーホルダーとか……。あるいはブローチとか……。あ! ラペルピンとかもいいかも!」
ジュジュもそうだが、店に来る多くの魔術師たちは、腰にポーチを付けていることが多い。
一度何が入っているのか尋ねてみたら、財布や薬、地図等、様々なものを入れていた。そこに付けるキーホルダーは良いかもしれない。
ポーチは付けていたが、そこに装飾品が付いていた人はいなかったからだ。
あとはブローチや襟に付けるタイプのチェーン付ラペルピンも良いかもしれない。おしゃれだし、こちらも男女問わず使えるだろう。
マントやローブに付けっぱなしにしておくことも出来るかもしれない。
デッサン帳に色々とデザインを描き込んでいく。
ときどき接客をしながら、ある程度デザインをまとめていく。
ジュジュが訪れる日には、デザインについてはある程度の方向性が出来上がっていた。
ジュジュとの約束の日。
訪ねてきたのは、もちろん閉店時間頃。ジュジュの他に男女四人の魔術師らしき人物が一緒にいた。そのうちの二人は商品を買いに来てくれたことがある人だと、気付く。
ジュジュから遅れること十分程度でナールもやってきた。
「ユズ、紹介するわね。私の同僚たちよ」
ジュジュに四人の同僚を紹介された。正直、一度に名前を言われて覚えきれる自信がない。
ここは必殺の日本人の曖昧スマイルで誤魔化す。
「こんばんは。今日はご協力頂けるとの事でありがとうございます。Small Citrus の店主、結珠です」
ぺこりと頭を下げた。
「ジュジュさんからある程度はお聞きかと思いますが、新しい魔法道具を作ったので、その安全検証をお願いしたく、ぜひご協力をお願いいたします」
そう訴えれば、四人の同僚たちは力強くうなずいてくれた。
「いやー。俺、この前ここの店の魔法道具買ったんだけど、めちゃくちゃ使い勝手が良かったんだよね! その店の商品をいち早く使えるなんて嬉しい!」
「待って! 安全検証だって言ったでしょう? 私たちの仕事は、暴発の危険性がないことを証明して、それをユズにきちんと伝えることよ!」
店の商品を買ったという男は若干興奮気味だ。それをジュジュがたしなめる。
結珠は苦笑しながら、安全検証用の魔石粉パーツ一個と魔石三個の魔法道具を取り出した。
ネックレス、ブレスレット。そしてデザインを考えている途中で思いついた、キーホルダータイプとチェーン付ラペルピンの四種である。
「あら、何だか見たことのない形のものもあるけれど?」
さすが、目ざとい。ジュジュが魔法道具を見て、すかさずツッコミを入れた。
「これは、キーホルダーっていうもので、ポーチとかに付けられるものです。えっと、ジュジュさん、ちょっといい?」
「私?」
ジュジュを手招きして、キーホルダーを手に取る。了承を得て、ジュジュが腰に付けているポーチに引っ掛けた。
「こういう感じで取り付けます。慣れないうちはちょっと邪魔に感じるかもしれないですけど、他の魔法道具と重ねて付けて邪魔になる心配もないので、問題はないかと」
ついでに、チェーン付ラペルピンも手に取って、ジュジュのマントに付けた。
「こっちは、ピンになってます。こうしてマントとかに取り付ければ、都度の取り外しはしなくても良いので、こっちも使い勝手はいいと思います」
ジュジュたち五人は、まじまじとジュジュに付けられた魔法道具を見ていた。
「本当に、こんな小さな魔石の魔法道具で魔術が使えるのか? しかも見たことのないデザイン」
「ジュジュが言うんなら、間違いないんでしょうけど。それにこういうデザインだと確かに既に身に着けている魔法道具と被らないから、身に着けやすいかも」
五人でやいのやいの言い合っている。
「一応、お好きな形の魔法道具を選んでください。試作品なので、検証が終わったらお礼ということでひとつ、差し上げます」
結珠がそう言うと、ジュジュ以外の五人の顔が輝いた。
「え? いいの!?」
「あ、はい。さすがに検証に使ったものを再利用して商品にするのは……」
結珠の店はあくまで新品を取り扱うのであって、リユース品はない。
魔石を磨きに出して、さらに小さくするのもおかしな話でもある。
ジュジュの同僚四人は嬉々として、それぞれブレスレット型やキーホルダー型などを選んでさっそく身に着けていた。
そんな様子を見ていると、ジュジュがすすっと結珠に近寄ってくる。
「私、あの魔法道具をお礼にするなんて聞いてないわよ?」
「ごめんなさい。この十日間で考えたので。ジュジュさんはもっと色々お礼するから!」
「本当? ああ、ごめんなさい。お礼が目当てってわけではないんだけど」
「もちろんわかってる! でも最初からずっと協力してくれているんだもん! ご飯とかお茶とかじゃなくて、別にお礼考えてるから、心配しないで!」
「ふふふ、ありがとう! 期待しているわ」
結珠の答えに、ジュジュは綺麗に笑った。
「でも、その代わりジュジュさんにはまだ追加でお願いしたいことがあるんだよね」
「もう! ユズってばちゃっかりしているんだから!」
「えへへ、ごめん!」
頼りにしていると結珠が言えば、ジュジュは苦笑した。




