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21.魔石で三枚のお札?



「三枚のお札……? 何それ?」


 結珠の言葉に、ジュジュは首を傾げる。


「ああ、ごめんなさい。私のところで伝わる古い創作話なの。えーっと、見習いの僧侶? 神職の人? みたいな感じの子が、不思議な力を持った三枚のお札を師匠から預かって、山に入るんだけど、途中で怖い敵と遭遇して? 逃げるためにその三枚のお札を駆使する……みたいなお話?」

「何でそんな疑問系なの?」

「そりゃ、ジュジュさんにもわかりやすいように言葉を選んでるから? 私が知っているそのままの物語だと、多分ジュジュさんがわからない単語が出てくるから」


 小姓と和尚に山姥なんて言葉を使っても多分ジュジュたちは理解しないだろうと言葉を選んだつもりだったのだが、逆に疑問系になってしまい怪しまれた。


「えーっと、もっとわかりやすく言うと、見習いの魔術師が出かけた先で敵と遭遇したけど、三回制限の魔術で何とか逃げたものの、帰った先まで敵がついてきちゃって、結局師匠が敵を撃退したみたいな話」

「ユズはそのお話を元にこの魔法道具を作ったということ?」


 ジュジュがそう思うのも無理はない。

 けれど結珠は別に意図して作ったわけではない。単純に三個程度使用するのがデザイン的にもバランスが良かっただけだ。


「ううん。ジュジュさんの話を聞いて単純にその物語を思い出しただけで、別にそう思って作ったわけじゃないよ」

「そうなのね。でもまさしく今ユズが説明してくれたような道具になったわね」

「だねぇ……。でもこれ、魔石の数を増やしたらもっと回数使えるようになるのかな?」


 当然うまれる疑問だ。本来なら何もすることが出来ないサイズ感の魔石を三個付けたら、きっちり三回魔術が使えた。

 では五個にしたら五回使えるということだろうか?

 そう問いかけてみると、ジュジュは魔術を使ったときの話をしてくれた。

 ジュジュが言うには、何の抵抗もなく魔術が発動して驚き、ではもう一回と回数を重ねたが四回目で何の手ごたえもなくなったらしい。

 三回の魔術発動後は、何度試しても魔術は発動しなかった。

 そのため、小さな魔石の数だけ使えるという答えに、至ったらしい。


「へぇ……。なるほどね。じゃあ例えば小さな魔石を五個付けたら、五回分の魔術が使えるってことかな?」

「試してみないことにはわからないけれど、多分そうじゃないかしら?」

「まぁ、そう思うわな。でも考えてみろ。そもそも価格面を抑えたいってことから始めたんだろう? それを回数増やすために魔石をじゃらじゃら付けたら、結局普通の魔法道具と値段が変わらなくなるぞ?」


 結珠とジュジュの話を黙って聞いていたナールが横から口を挟んだ。

 確かにそうだ。そもそも魔石百個と加工賃で金貨五十五枚かかっている。

 単純計算で魔石二個で金貨一枚以上のコストだ。

 魔石の数を増やせば、必然的に価格も上がる。

 いくら魔石以外の価格は微々たるものでも、赤字になるような作品作りは避けるべきだ。


「どういう原理なのかは俺もわからんが、検証するために魔石を増やして実験するとかはいいかもしれんが、いくつも小さな魔石を付けるくらいなら、普通の魔石を使った魔法道具を作る方が良いだろう」

「そうですね……。そもそも多分ですけど、このパーツの方に鍵があると思うので、どういう理屈でそうなったのか……知りたいところではありますけど、とりあえずいくつかまた新しいのを作ってみますので、試してもらえる?」


 ナールの意見に賛同し、もう少し検証したいとジュジュに問えば、ジュジュは頷いた。


「もちろん大丈夫よ! 新しい道具はいつ出来そうかしら? また来週頃に出直せばよい?」

「ううん、大丈夫。こっちのパーツはたくさん作ったから在庫あるの。とりあえずデザインを気にしなければ、すぐ付け替えられるからちょっと待ってもらえば今日中に渡せるよ」


 魔石粉入りのパーツは、一度に二十個くらい作ってある。粘土なので、材料的に少数作るというのが難しいため、どうしてもそうなってしまうのだ。

 しかしジュジュはそんなにすぐに出来るとは思っていなかったらしい。

 出来上がっている残りのパーツを見せると、呆れたような顔をした。


「……魔法道具ってこんなに気軽に出来るものだったかしら?」

「え、そうなの? あー、多分だけど、魔法道具ってことは置いておいて、単純に私がいるところでは、アクセサリーとして売るんだったら単価が安いのね。ある程度同じものを数作って売らないと採算が合わないのよ。だから同じものを十個とか二十個作って売るの。多分そういう癖があるから、同じような感覚で作ってるんだよね」

「……宝石のアクセサリーだってそんなにたくさんは作れないわよ?」

「もちろん、それは一緒だよ! でも私のところでは、いわゆる庶民でも買えるような偽物? の石があってね。そういうのの話。全員が全員、すごい高い宝石を買えるわけじゃないから、そうやって偽物ってのをわかってて、安いアクセサリーを買うの」

「財産にもならない宝石に価値があるの?」

「そりゃ最初から財産になることを見越して買っているわけじゃないもの。あくまでおしゃれのためで、売る側も『これは本物ではありません』って言って売ってるし」


 結珠は説明しながら、多分もうジュジュたちとのアクセサリーや魔法道具に対しての価値感覚は埋まらないなと感じていた。

 恐らくジュジュたちの世界ではイミテーションを身に着ける習慣はないだろう。

 だからこそ、最初結珠が価格面を抑えた魔法道具を作りたいと言ったときも理解出来ないという態度だった。

 でも結珠にしてみたら、同じ商品をたくさん作るというのは当たり前に持った感覚である。

 そのためにこうして価値がないと散々言われている小さな魔石を使った魔法道具を作ろうとしているのだから。


「ややこしくなるから、アクセサリーの話は置いておこう。とりあえず作業しちゃうね。あ、待っている間に夕飯食べていかない? 二人が食べてる間に作業しちゃうから!」


 結珠の提案にジュジュとナールは顔を見合わせた。


「夕飯? え? どうしたの?」


 結珠からの突然の提案に、ジュジュが尋ねると結珠は笑った。


「いやー、ナールさんリクエストのお礼のお酒を買いに行ったときにね、ついでに色々買い物したんだけど、一人暮らしなのに色々買いすぎちゃって。夕方に二人が来るし、せっかくだから食べてもらおうかなと思って作っちゃったんだよね」


 どう? と問われて、二人は頷いた。


「時間はあるから夕食にご招待頂けるのであれば、受けるわ」

「俺も大丈夫だ」

「やった! 一応二人でも食べられるものを作ったつもりだから……ちょっと待って!」


 結珠は一度家へと引っ込む。

 キッチンのガスコンロに乗せていたホーロー鍋を店の簡易キッチンへ持ち込んだ。

 ホーロー鍋はIH対応なので、そのまま簡易キッチンのIHコンロに置いて温め始める。


「何を作ったの?」


 店のカウンターからジュジュに話しかけられて、結珠は振り返る。


「えっと……牛すじ肉の赤ワイン煮込み? って料理なんだけど、わかるかな?」

「あら、私の好きなメニューよ! でもかなり手間がかかるのではない?」

「そんなでもないよ。この鍋が良い仕事してくれるんだ!」


 ジュジュたちの世界にも牛すじ肉の赤ワイン煮込みはあるらしい。

 ナール用のウイスキーを買いに行ったときに目に入った赤ワインをついうっかり買ってしまったのだが、買ったあとに「あれ? 私そんなにお酒飲まないよね」と気づいてしまったのだ。

 どうして衝動買いしてしまったかはわからないが、そのあとにスーパーへ行くと、牛すじ肉が安売りしていたので、これはもう赤ワイン煮込みを作れというお告げだと思ってそうしたのだ。

 店の開店時間前に買ってきたので、夕方までコトコト煮込んでいたのだが、いい感じの柔らかさになっているだろう。

 もうちょっと待ってと二人に告げて、結珠は再びキッチンへと戻り、タッパーに用意していたサラダと、すでにスライス済のバゲットを持ってくる。さらにもう一度キッチンへ行き、煮込み用の皿やサラダ用の皿と必要なカトラリーを入れたプラスチックケースを持ってきた。

 ちょうどそのタイミングで鍋も温まったらしい。結珠は鍋の火を止めると皿に赤ワイン煮込みを盛り付ける。

 赤ワイン煮込みをジュジュとナールの前に出した。


「今、サラダとパンも出すからちょっと待ってね」


 二人に煮込み料理とサラダ、パンを出す。

 料理の良い香りが店に漂った。


「どうぞ食べちゃって! その間に作業しちゃうから」

「え? 一緒に食べないの?」

「うん、あとで食べるよ」

「せっかくだから一緒に食べましょうよ。別にユズが作業している時間くらい待っているわ」


 ジュジュに請われて、結珠は笑った。


「ありがとう。でも冷めちゃうから、先食べてて! とりあえず自分の食器持ってくるから! 一緒に食べよう!」


 結珠がそう言うと、二人も笑って、食べ始めた。



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