20.魔石の検証と結果について
ジュジュとナールは、結珠の店で翌日の検証についての約束を交わし、二人は帰っていった。
どうやら明るい時間帯に試して、また明日の同じ時間頃に検証結果について店へ報告に来てくれるつもりらしい。
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします!」
「まかせて! まぁでもユズには悪いけれど、あまり大きな魔力を感じないから、良い結果を伝えることが出来るかわからないけれど」
「大丈夫大丈夫! ダメで元々で作っているし、もしダメだった場合、どういうところがダメだったとか、魔術を使おうとして、何が起きて、どういう風だったのか、通常と何か違いがあったかとか教えてもらえると助かるかも」
正直、詳しく説明されても魔法道具を作っているという自覚が薄いので、結珠にどこまでの改良が出来るかはわからない。
今、結珠がわかっているのは魔石を使って自分がアクセサリーを作っていること。だけである。
作っているアクセサリー類も、今まで自分が作ってきた作品を作るのと特に意識は変えていない。
あくまで結珠は、魔石と呼ばれるものを使って、今まで通りに作品を作っているにすぎない。
もしもこの試作品が失敗に終わっても、また今回と同じように何か新しいものを作って、ジュジュに頼んで試してもらう他ないのだ。
「わかったわ。それじゃあ、預かるわね。また明日」
「はーい! ナールさんもよろしくお願いします」
「おう! ヘンなこと頼まれたついでだ! でもまぁ、何か礼があったら嬉しいな」
「お礼? 何か欲しいものが?」
「酒だな」
「お酒? どんなやつですか?」
「酒精の強いやつだな。俺たちドワーフは酒好きが多い。前にばあさんがくれた酒はうまかったなぁ」
ドワーフの酒好き! 映画にもなった某有名作品のようだと結珠は思った。創作の話かとも思っていたが、そうでもないらしい。
「わかりました。用意出来そうなら準備しておきますけど、どんなお酒でした?」
「覚えてねぇな……。でも琥珀色で瓶に入ってたな」
琥珀色で瓶……。酒精の強い……すなわちアルコール度数の高いもの……。
やはりウイスキーだろうか。結珠はほとんど飲んだことがないが。
「ええ! ナールさんだけずるいわ! 私も何か欲しい!」
「ジュジュさんは何がいいの?」
「そうねぇ……すぐには思い浮かばないけど……。あ! 昨日とかさっき頂いたお茶がいいわね! すごくおいしかったし」
「わかった! 確か同じお茶で開けてないのがまだあったはずだからそれを」
「ありがとう! 頑張って検証してくるわね!」
確かに検証に付き合ってくれるのに何もなしはおかしい。
ジュジュのリクエストである紅茶葉は、結珠もお気に入りのお店で購入したもので、季節物の新しい茶葉だ。店で試飲させてもらい気に入ったものを買ったのだが、ついうっかり二つも買ってしまったので、未開封のものがまだ一つ残っている。
だが、ナールのリクエストであるアルコール度数の高い酒は、家にはない。今あるものは精々缶ビールくらいなものだ。
しかもあちらにアルミ缶などという素材があるのか怪しいので、ぜひとも瓶の酒を渡したいものである。
そういえば、家の近くに酒屋があったなと思い出した。今どき酒造でもない個人商店の酒屋なんて珍しいから、もしかしたら何か珍しい酒を扱っている店かもしれない。
明日になったら店を開ける前に酒屋へ行ってみようと、帰る二人を見送りながら結珠は思った。
翌日、無事にウイスキーを買えた結珠は、ジュジュの分の茶葉も用意して、二人が来るのを待っていた。
夕方が近づいてきて、もうそろそろかなと思っていると、突然勢いよく店の扉が開かれた。
「ユズ! ちょっと、アレ何!?」
「嬢ちゃん、アンタ何てモン作ったんだ!?」
「ひえっ! いきなり何!?」
血相を変えたジュジュとナールが店に乗り込んできた。
あまりの迫力に結珠も逃げ腰になる。
「あ、あの、落ち着いて! 何があったんですか!? 検証に失敗しました!? 何か暴発でもしました!?」
何てモンと言うくらいだ。何か予想も出来ないくらい、変なことでも起きたのかもしれない。
結珠も慌てて二人の様子を伺ったが、特にどこかが怪我をしているといった様子はない。
「逆よ! 逆! 何であんなに小さい魔石なのに、あんな大きな魔術を使えるわけ!?」
「オマエ、何したんだ!? 本来あんな大きさの魔石じゃ魔術なんて使えそうもないのに!」
二人同時にやいのやいのと喚かれて、結珠はさらに逃げ腰になる。
「ちょっと待って! 二人同時に話されたらわかんない! 一人ずつしゃべって!」
二人に負けない大きな声で結珠も叫べば、二人はようやく止まった。
結珠に怒鳴られて少し落ち着いたのか、ジュジュとナールは黙ったまま店の椅子に座っている。
そんな二人を背に、結珠はミニキッチンでお茶を淹れて戻った。
「とりあえず、お茶でも飲んで落ち着いて、それから詳しく話をしてください」
二人はお茶の入ったカップを受け取って、一口飲んだ。
「えーっと、それで何があったんですか?」
店に入ってきたときとは対照的で、今度は逆に口を開かなくなった二人に尋ねると、二人はカップに下ろしていた目線を上げて、顔を見合わせた。
ジュジュの方がカップをカウンターに置き、腰に付けていたポーチから結珠が預けた試作品三つを取り出して、置いたカップの横に三つとも置いた。
「結論から言うと、これは全く魔術が発動しなかったわ」
そう言って、ジュジュは試作品三つのうちの一つを指さした。
それは、粘土細工パーツのみのものだった。
「うんともすんとも言わなかったわ。それで、こっちはぎりぎり一回分の魔術が使えた」
次にジュジュが指をさしたのは小さな魔石数個だけのもの。
「やっぱりある程度の大きさがないと無理ね。この魔石が一個一個小さいものではなく全部である程度の大きさの状態なら使えたんでしょうけど、小さい魔石の中からそれぞれに入ってる少量の魔力を引っ張り出して、魔力をひとまとめにして発動するのって、発動までに時間もかかるしなかなか大変なのよ。多分だけど、魔術師見習いとか、駆け出しの魔術師だとうまく魔力をまとめられなくて魔術が不発に終わるかもしれないわ」
「なるほど。ジュジュさんがベテランの魔術師だから……ってこと?」
「もう! 褒めても何も出ないわよ。でもそうね。ある程度経験を積んだ魔術師ならば、一回程度は使えるかな? という印象ね」
「へぇ……」
ジュジュのわかりやすい説明を聞いて、結珠はなるほどと思った。
大きな魔石に入っている魔力を使用するのは、単純にそのまま使えるので簡単らしい。でも小さな魔石の場合は、魔術を使う前にそれぞれの魔石に入った魔力を一つにまとめ上げるという技術が別に必要となるらしい。
当然、見習いや駆け出しの魔術師にそんな技術はないので、魔術が発動する兆候はみせるものの不発に終わりそうだとジュジュは語る。
ある意味、かなりの危険を潜り抜けた者たちの苦肉の策なのだろう。
残りわずかな魔力を寄せ集めて魔術を放ち、その間に危険から逃げる。
そんな風に魔力を使ったことがある魔術師だからこそ出来た技だ。
だからこそ、たくさん魔力が入り苦労せずに魔術を使える大きな魔石が好まれるということだ。
「でもね! これは別よ! なんでそれぞれ単体だと使えないのに、合わせるととんでもないことになるわけ!?」
そう言って、ジュジュが結珠の顔に突き付けたのは、魔石粉を混ぜた粘土細工のパーツと小さな魔石数個を組み合わせたものである。
「え? どういうこと?」
「どういうこともこういうこともないわ! これで魔術を使ったら、私がこの店で最初に金貨八枚で買った魔法道具と同じような威力の魔術が使えたわ! しかもさっきの小さな魔石だけが付いた魔法道具とは違って、魔力をまとめる手間もなく、普通に発動出来たわよ!」
「え!? うそっ!」
「嘘なものですか! ……まぁでも回数制限はあるけれど」
「回数制限?」
「ええ、この魔法道具、この小さな魔石が付いている分の回数分だけ魔術が使える感じね」
ジュジュに試作品として渡したものは、小さな魔石が三個付いている。
ということは、つまり三回分の限定使用となるわけだ。
「三枚のお札かな……?」
ついうっかり日本昔話を思い出してしまったのも仕方がないかもしれない。