17.魔石の限界に挑戦!
希望通りの小さな魔石と魔石粉を手に入れた結珠は、ナールが帰るのと同時に、どういう作品を作ろうかデザインを考える。
現状、結珠の店で人気のある魔法道具は、ネックレスかブレスレットが多い。
魔石が少々大き目なため、この二種で作るのが一番効率が良い。男女問わず身に着けることが可能だ。
本当は指輪にしたいのだが、指の太さがどうしても問題点となる。
そのため指輪については、どちらかというと今後は銀粘土で作るオーダーメイドでの作成を請けられたらなと思っているのだが、さすがにまだそこまで手が回らない。
イヤリングやピアスでも良いが、魔石の大きさからどうしても吊り下げタイプになるので、男性には手に取りにくくなるであろうことが難点だった。
ネットショップやSNSで他の作家さんたちのデザインも参考に見てみたが、魔石の大きさがネックになり、いいなと思ったデザインを実際に結珠の作品へ落とし込むのが難しい。
一番良いなと思ったのは、魔法の杖のようなデザインのかんざしだ。
だがかんざしなので、精々長くても十五センチくらいが妥当だ。結珠が想像する魔法の杖としては機能しない。
そもそもジュジュのような魔術師が杖を持って店に来ていない。ということは魔術師にとって魔力の入った魔石は必須であっても、魔術を使うために杖は必須ではないのだろう。
魔石の大きさで価値や値段が変わってくるのだから、大きければ大きいほど価値も高い。
恐らく結珠が想像するような杖に付けるくらいの大きさになれば、国宝級の魔石になるのかもしれない。
「うーん。杖も作ってみたいけどそれこそ需要があるかわからないし、そんな大きさの石もないし……」
いっそのこと子供の頃に見た魔法少女のアイテムのように普段は小さくて、呪文を唱えたら大きくなるとか出来たらいいのに……とも思ったが、そんな魔法道具が作れるわけもない。
手持ちの魔石とこちらのパーツを使って、男女共に使えるものを作る。
そして出来れば来週ナールが試作品を見に来るまでに完成させなければならない。
そうなると、やはりネックレス類が一番手っ取り早い。
ポリマークレイで魔石粉を練り込んだ少々大き目のネックレスチャームを作り、小さい魔石を数個を組み合わせて作るのが良いだろうと決め、デザインを考える。
「男女兼用で、男の人が身に着けても違和感のないデザイン……」
デザイン用のスケッチブックを出して、あれやこれやメインとなるチャームのデザインを考える。
丸が良いか、四角が良いか……。あまりに厚かったり大きすぎると、焼いたときにひび割れの原因にもなる。
どうしてもサイズを大きくしたいのであれば、核となるチャームを作って、魔石粉を散りばめたレジン等のコーティング剤で大きくしていくしかない。
そうすればある程度の大きさにも出来る。
「あ。レジンでコーティングするんなら、粘土チャームも何個か一緒に固めてひとつにしちゃうのもひとつの手か……」
どうしても大きさにはこだわりたい。
というのも、今回小さな魔石と魔石粉で作ろうと思っている魔法道具は、魔石そのものが小さかったり少なくても、一回きりしか魔術が使えないということをなくして、それなりに魔術が使えるものを作りたいということなのだ。
であれば、チャームが大きくないとだめなのではないかと推理したのだ。
でもあまり大きいとそれはそれで、魔術を使う際に邪魔になるのではないかとも思った。
ちょうど良い大きさとはどれだろうか……。
「あ。困ったかも」
何だかんだと前途多難である。
ナールから魔石を受け取った翌日。
運よくジュジュが店へと来た。
「ジュジュさぁーん! 相談があるんだけど!」
「え!? 何!? 来て早々何!?」
いきなり泣きついた結珠に、ジュジュが驚いて声を上げた。
「いやちょっと作品作りに悩んでて。使用感とか教えてもらいたいな……と」
「使用感? どんなの?」
「まだデザイン段階だから、ものがあるわけじゃないんだけど。魔法道具って、一番大きいものでどのくらいの大きさかわかる?」
「一番大きなもの? そうねぇ……、国宝級の魔法道具だとかなり大きいわね。それに使用されている魔石も人の頭くらいのサイズがあって、魔石に魔力を完全に満たすと、一年から、場合によっては二年くらいは稼働するなんてのもあるわ」
「人の頭くらいの魔石で一~二年。……いやいや、そんな大きいものは無理!」
「でしょうね。そんなの国宝級だもの。で、ユズはどのくらいの大きさのことが知りたいの?」
「えーっと、魔術を使ったりして邪魔にならない程度で最大限大きいであろうサイズ感が知りたい……かな?」
「あら。でもそんな大きさの魔石だとかなりのお値段になるんじゃないの?」
「その価格面をどうにか抑えて、それなりのものが作れないか、試行錯誤中なんだけど」
相談に乗ってもらっているからと、結珠はミニキッチンでお茶を淹れてくるとジュジュに伝えて、一旦店から消える。
最近お気に入りの紅茶を淹れて店へ戻ると、ジュジュは店内にある売り物の魔法道具を見ていた。
「そうね。あんまり大きすぎても使い慣れていない分、やっぱり戸惑うでしょうね。私だったらこれくらいのサイズが好きかしら」
そう言ってジュジュは、初めて来店したときに買ったネックレスと同じようなサイズの魔石チャームが付いたネックレスを手に取って、戻ってきた結珠に見せた。
「そのネックレスの魔石の大きさだと、一番多く在庫がある大きさかな?」
「あ。そうだ! 今日来たのは、魔石売りの情報についてちょっと小耳にはさんだことがあったから来たのよ!」
「え? あー、ごめん……。実はそれ、すでに解決してたり……」
「嘘っ! 魔石売り、来たの?」
「はい、えーっと……四日前くらいだったかな? ちょうどジュジュさんに何か情報がないか尋ねた一週間後くらいだったかと。お店を閉めようかなーって頃合いの時間にいきなり……」
「なーんだ。じゃあ私が聞いた情報なんていらなかったわね」
「いや、そんなことない! たまたまタイミングの問題で!」
ジュジュが少し拗ねたような表情を見せたので、結珠は慌てて否定する。
「ごめんなさい。嘘よ、嘘! 別に怒っていないわ。でもひとつ問題が解決したんなら良かったわね」
「……ごめん、ありがとう! ちなみにジュジュさんが聞いた話ってどんなの?」
「魔石売りはドワーフが多いらしいって話なんだけど、本当?」
「あ、そう! うちに来た魔石行商人もドワーフだった!」
「へぇ! 本当なのね。私は全然見たことがないから半信半疑だったんだけど」
「良い人だったよ。散々私のこと、変わってるって言ってたけど……」
そりゃそうだ。大きいものに価値がある魔石を小さくしたり、魔石の屑粉が欲しいと言えば、彼らの常識からそう思われるのも仕方がないだろう。
結珠は、その魔石行商人から自分がリクエストした魔石を買ったので、それを使って新しい魔法道具が作れないか考えているところだと話をした。
「ちょっと……多分、今までにない形になりそうなんで、その前に大きさとかどこまで大きくしていいのかなーとか、まだ全然方向性は定まっていないんだけど」
「どこまで大きくって……そんなに大きな魔石を仕入れたの?」
「ううん! その逆! 小さいのを使いたくて、わざわざ割って小さくしてもらいました」
「…………正直、その魔石売りに賛同するわ。ユズは十分変わり者よ。だって、小さかったらあんまり魔力が入らないじゃない。どうやって魔術使えばいいのかしら?」
「だから実験なんだよね。……限界に挑戦的な?」
首を傾げてそう言い切った結珠にジュジュは呆れたような顔をした。