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16.魔石の加工依頼



 確かに持て余しているとは言ったが……ええぇ……?


 ナールは何度かそう言いながら、結珠の依頼である魔石の加工を請け負って、三日後にまた来ると言い残して帰って行った。

 結珠はナールにとある依頼をしたのだ。



「使い物にならない小さな魔石があるんですよね? 私、それが欲しいです」

「はぁ!? オマエ、俺の話を聞いていたか? 小さい魔石なんて何の役にも立たないぞ!?」

「わかってますけど、欲しいんです! お願いします! お金はちゃんと払いますんで!」

「オマエ……バカなのか何なのか……本当にわからないヤツだな」


 基本的には店には売れる状態で魔石を持ってくるため、魔石の代金に加工料が含まれているらしいが、今回はお試しで結珠が魔石の加工を依頼した形となるため、渋々ながら別料金で請け負ってくれた。

 結珠の依頼が吉と出るか凶と出るかはまだわからない。

 新しい作品を作れるということに、結珠は少しわくわくしていた。





 祖母から受け継いだ石の大きさがそれなりにあったため、結珠は最近は石をメインとしたアクセサリー等しか作っていなかったが、本来の結珠が得意としている作品は粘土を使ったクレイアートだ。

 軽量樹脂粘土を使って、アクセサリーやパーツを作るのだが、最近は樹脂粘土だけではなく銀粘土を使った純銀アクセサリーやポリマークレイなども扱っている。

 ポリマークレイは最初から色が付いているものを買うときもあるが、原色で派手な色が多く、淡い色合いのものや気に入った色を使うには、真っ白な粘土にアクリル絵の具やラメパウダーなどを使って自分で作る方が効率的で良い。

 結珠はラメパウダーの代用品として、魔石の加工時に出る細かい粒子を使えないかと思いついたのだ。

 小さな魔石と魔石のラメパウダー入りの粘土細工で作ったアクセサリーであれば、原価が抑えられて、販売価格も低く出来るのではないかと考えたのだ。

 正直、今店で扱っている作品の価格は魔石の大きさで決まっているといっても過言ではない。

 マルカン等の各パーツや魔石を固定するために使っているワイヤーの原材料費などはそう高額ではない。

 魔石の大きさで価格が決まるのであれば、それを小さくしてどうにかするしかないのだ。

 結珠としても、同じような作品を作ることに若干飽きてきていたので、ここらで得意分野の作品を作って気分転換もしたい。


 結珠がナールに依頼したのは、二つ。


 一つは、小さく魔石を六ミリ程度のサイズにしてほしいということ。

 六ミリサイズの魔石で、結珠の小指の爪の半分くらいの大きさだ。

 さっきナールが教えてくれた、一回分の魔法が使えるサイズですらない。

 でも試してみたいことがあるので、そのサイズで依頼をした。

 ついでに可能であれば、穴空きビーズのようにしてほしいとお願いしたら、一応出来るとのことだったので、こちらを百個ほど注文した。

 もちろん、『こんな感じ』と、何の変哲もない同じようなサイズの普通の丸いガラスビーズを見本として渡した。

 もうひとつは、加工時に出る魔石の屑をパウダー状にしてほしいということ。

 ナールは魔石をパウダー状にするということを、最初は全く理解してくれなかった。

 魔石を削れば屑は出る。だが、結珠にとってもったいない状態のパウダーは、ナールにとってはあくまで屑という認識だったので、それを集めて材料にするという概念がナールには全くわからないらしい。

 そんなものどうするのだと何度もナールに聞かれ、結珠は『材料に混ぜます』と何度も説明したが、ナールは首を傾げるばかりだった。

 結局結珠は実際にポリマークレイとラメパウダーを作業スペースから引っ張り出し、店の中でナールに向けて軽く実演をした。


「えーっと、これは粘土で」

「粘土!? こんな白い粘土があるのか!?」


 あちらの粘土といえば、本当に土から出来る土そのものらしい。

 こちらの世界にある紙粘土やら樹脂粘土は未知のものらしく、ナールは目を白黒させていた。

 ポリマークレイの袋を開け中身をカッターで切って少し取り出し、粘土用のプラスチック麺棒を使って薄く伸ばす。伸ばしたポリマークレイの上に少量のラメパウダーを落とし、専用のナイロン筆で塗り広げていく。

 全面にラメパウダーを塗り広げたら、粘土を丸めてこねて混ぜた。


「こういう状態にします。で、また薄く伸ばして、型があるのでそれでくり抜いて、焼いてコーティング剤を塗って……という感じで作ります」

「……さっぱりわからん! いや、物が出来る行程はわかったが、それで魔石の屑が使い物になるのかがわからん!」

「私にもまだわからないですよ! 使い物になるかならないか……それを確かめるために魔石のパウダーが欲しいんです!」

「本当にオマエ、変なヤツだな! ばあさんはここまでじゃなかったぞ!」


 祖母からもたまに魔石の大きさについて注文があったらしいが、魔力を入れる容量がギリギリサイズよりも小さいものは依頼されなかったらしい。


「ダメだったら諦めて、祖母と同じようなアクセサリーを作ります。でも店を継いだからといって、祖母のやり方をそのまま踏襲するのも私自身がつまらない。新しいことも始めたいんです!」

「……まぁ、オマエがやりたいと言うんなら、別に俺はいいけどな。さっきも言ったが特別にやるんだから、加工賃はもらうぞ!」

「もちろんです! おいくらかかりますか?」

「まだわからん! 依頼品を持ってきたときにかかった手間と時間とかも考えて、金額を決めて請求する」

「わかりました! よろしくお願いします!」


 こういった感じで、結珠はナールに魔石加工の依頼を成功させた。

 さて、作品作りの成功については、どうなるのか……。

 それはナールが加工した魔石を持ってくるまでは、わからない。






 はてさて、ナールの宣言通りの三日後。

 営業時間が終わる前回と同じような時間に、ナールは依頼品を持って再び結珠の店へと現れた。



「加工した魔石、持ってきたぞ!」

「わ! ありがとうございます! 見せてくださーい!」


 結珠は早速魔石を見せてもらう。

 依頼した通り、見本で渡したガラスビーズと同じようなサイズ感の穴あき魔石が百個と、小瓶に入ったパウダーがナールが背負っていたリュックの中に入っていた麻袋から出てきた。


「依頼通りですね! すごい!」

「……なかなか面倒な依頼だったな。粉屑に関してはこっちの小さい魔石を作っていたら勝手に出てくるから難しくはなかったが、この小さいの、真ん中に穴を開けるのがめんどくさい! 今回百個分の加工で金貨五枚は欲しい!」

「加工賃、金貨五枚ですね! 大丈夫です!」


 大丈夫と言ったが、それが適正なのかは結珠にはわからない。

 しかしナールが加工賃を告げても店の中では何も起きなかったので問題はないのだろう。


「じゃあ清算だ。小さい魔石が百個で金貨五十枚、その加工賃が金貨五枚。全部で金貨五十五枚だ」

「あれ? こっちの粉の分は?」

「小さい魔石を加工したら勝手に出来たんだから、おまけしておいてやる」

「ありがとうございます! やった!」


 結珠は金貨を取ってくると、店から居住スペースへと入っていき、寝室に置いた金庫に保管しておいた金貨を五十五枚取り出す。それを持ってナールがいる店へ戻った。


「五十五枚あると思うので、確認してください!」


 金貨を差し出す。ナールはそれを受け取って、金貨を数えだした。


「ん、確かに五十五枚受け取った」


 ナールはリュックから小さな巾着を取り出して金貨をそこへ全部入れた。


「正直なところを言わせてもらえば、わざわざ加工賃まで出してそんな屑石と粉屑作り出して成功するとは思えねぇんだけどな」

「物は試しなので、失敗してもいいんです。私の国には『失敗は成功の基』という言葉もあるくらいなので。ダメで元々です」

「まぁ、嬢ちゃんが良いんならいいけどよ。さて、ようやく仕事も終わったし、俺は帰るわ」

「ありがとうございました! あ、そうだ! 次はいつくらいにいらっしゃいますか?」

「そうだなぁ……。今までばあさんのときは、普通なら二~三か月に一度くらいだが……。でもアンタが屑石で作る魔法道具に興味があるから、とりあえずまた来週にでも来るかな」

「わかりました! じゃあ、それまでには一つ何か作っておきますね!」


 来週の約束を取り付けると、ナールは帰っていった。


 さぁ、新しい作品作りの開始だ!



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