15.魔石について知りたい!
あけましておめでとうございます。
2025年最初の更新です。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
結珠は石を手に取りながら、ナールに問いかけた。
「ところで、ここにある魔石って、どういう加工をしてるんですか?」
「さっきも言ったが、魔石は大きくて透明度の高いものが価値が高い。俺のところでは、加工といっても母岩から削り出して、あれば不純物を除くくらいで、他に特別な加工はやってねぇな。ただ、魔石の見てくれを気にする相手と取引するようなやつは見栄えが良いように宝石のように加工作業をすることもあるが、削られて魔石が小さくなるから、そんなには好まれない」
「ちなみに、母岩から削り出すときに失敗して、石が小さくなることは?」
「全くないとは言わねぇけど、あんまりにも小さくなった魔石はほぼ価値がねぇから、そこは俺たち魔石売りの腕の見せどころだな。もしも思った通りに削れなくともなるべく大きさを残せるように努力する。もちろんそれでも、どうしても使い物にならない大きさになっちまうこともある」
「なるほど。ちなみにそういうのはどうしてるんですか?」
「価値がないとはいえ、魔石だから捨てるわけにもいかねえ。うちにも結構溜まってるな。あまりにも小さいと入る魔力も少ないから一回魔術使っただけで終わり! なんてことになりかねないから、そもそも需要がないし、売れないのがわかっているから、売りにも出さない。結果的に溜まることになる」
「ないわけじゃないんですね!」
「なんだぁ? オマエ、変なこと聞くな」
「すみません。正直、祖母から大した引継ぎもなく、店を受け継いだもので、本当に右も左もわからないんです」
相続したときに店にあった魔石は大体が同じような大きさだった。
一番小さなサイズで、あちらの金貨を日本円に変換出来るあの謎の黒い箱に使用可能な魔石である。それよりも小さいものはなかった。
でもナールの話ではそれよりも小さいサイズが一応あるとのこと。
ふと、あの買えずに諦めて帰って行った客たちを思い出した。
「どのくらいのサイズで一回使ったら終わりになりますか?」
「そうだな、この一番小さい石のさらに半分くらいか?」
ナールが手にしていたのは、やっぱり黒い箱に使用可能なサイズと同じようなサイズ感だった。大体親指の爪と同じようなサイズ感だ。これで大体金貨二枚くらいらしい。
一回きりの魔法しか使えない魔石は、この黒い箱用魔石のさらに半分。
大体、結珠の小指の爪くらいのサイズだ。
「まぁ、一回限りの小さな魔石を全く使用しないってわけでもねぇ。でも非効率だから、長期間遠征に出るような魔術師は使わねぇな」
「へー。逆にどういう人が使うんですか?」
「……魔術学校の生徒が授業に使ったりとかか?」
魔術学校! そんなものが存在しているのか。
新たな異世界の情報に結珠は目をぱちくりとさせた。
ナールはそんなことも教えてもらわなかったのか、というような顔をしている。
「生徒は未熟な者も多いからな。逆に魔術が暴走しないようにある程度制御しやすい魔石を使うって聞いたことがある。だから、一回分くらいの魔力で実技練習をするとか……何とか……」
「なるほど。ある意味、理にかなっているんですね」
「そうだな。でも一人前になったら、一回だけなんてのは敵には通用しねぇ。だから使わなくなる。でも市場にはあまり小さい魔石の魔法道具は売ってない。駆け出しの魔術師はなかなか苦労するようだな」
やっぱり結珠が見た客はそういうタイプの駆け出しだったようだ。
「それって小さい魔石の魔法道具作ったら売れる可能性があるってことですかね?」
「うーん、どうだろうなぁ。俺にはわからねぇなぁ。俺のところで取り扱っているのは、このくらいの魔石が一番小さい」
ナール曰く、大きな母岩を見つけることや、母岩から削るときにいかに魔石が小さくならないように削るか、そういったことが質の良い魔石行商人である証らしく、それによって取り引きしてくれる店が変わってくるので、王都に店を構える魔法道具屋は、やはり大きな魔石を取り扱う魔石行商人を好む傾向にあるらしい。
「小さい魔石を買い取ってくれるのは、小さな領地の店だったりする。そもそも流通が少ない分、取り引きしてくれる魔石行商人がいたらどんな大きさでも買うらしい」
いわゆる都会と地方の差か……と、結珠も何とも言えない気持ちになる。
「でもそうしたら、王都にいる魔術師に成りたての人は、魔法道具が買えないのでは?」
実はそういう客を見たのだと言えば、ナールはようやく合点がいったのか、腕を組んで頷いた。
「なるほどな。やっぱりなぁ……魔術師になれる人間も限られているから、魔術師になって華やかな王都にいきなり来ちまうヤツも結構いるんだわ。それで、意気揚々と来たはいいものの、先立つものがなくて結局すごすごと領地に戻ったりな」
異世界だろうが何だろうが、どこの世界でも共通の話なのかもしれない。
何とも世知辛いものである。
だからこそ、結珠はふと思いついてしまったのである。
売値を多少抑えた、小さい魔石を使用した魔法道具は売れるのではないかということを。
思わずそれを口にした。
「……やっぱり小さい魔石の魔法道具は売れるのでは?」
「王都でわざわざか?」
「いやだって、すごすご帰る人がいるんなら、少しでも買えるものがあった方が良いのでは?」
そう結珠が思ったのも無理はない。実は、結珠が作る作品では、祖母から託された魔石は若干大きいと感じていたのだ。
そのせいで、最近作っているのはネックレス類が多い。結珠としては、ピアスやイヤリング等の耳飾り系も作りたい。
店を開店させた当初は、かんざしやバレッタのような髪飾りも作っていたのだが、魔術師は女性ばかりではない。むしろ男性客も多く、男性客は髪飾りには全く興味を示さなかった。
となれば、必然的に売れるのは男女問わず身に着けやすい商品である。
指輪にするには魔石は大きすぎたし、客にも『指輪はないか』と問われたことはあまりない。
そうなると一番好まれたのはネックレスだった。
作る作品が単調になりかけていて、結珠もそろそろ新しいものを作ってみたい気になっていたのである。
「まぁ別にアンタが作りたいって言うんなら、いいとは思うけどなぁ……。でも俺に魔石を小さくしろって言うのか?」
「何とかなりません?」
「正直に言えば、せっかく大きな魔石を取り出せたのに、それをわざわざ小さくしろって言われると、魔石売りとしての矜持がな。でも客の依頼ならやるべきなんだろうが……」
ナールとしては、小さい魔石は加工時に失敗して出来る産物のようなものだから、それをわざわざ小さくするというのは少しプライドが許さないらしい。
「お試しで何個か! もしお客さんの反応が悪かったら諦めますんで!」
何とか! と結珠が拝めば、ナールは低い声で唸ったあと、わかったと頷いた。
「いいぜ、やってやらぁ! その代わり、加工賃もらうぞ!」
「もちろん払います! あ、そうだ! 出来ればもう一つお願いしたいんですけど!」
「は? 何だ?」
結珠のもう一つのお願いに、ナールは大声を上げた。
「はぁ!? そんなこと聞いたことねぇぞ! オマエ、何考えてるんだ!?」
さて、結珠が願ったこととは?