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13.魔石行商人がやってきた!



 店の在庫が少なくなりかけてから、約一ヶ月。

 作品の補充をようやく行い、店を何とか再開できるようになった。

 店はオープンしてから、開けている時間よりも閉めている時間の方が多い。全く安定のしない営業に結珠もため息交じりになる。

 短時間営業しかしていないのに、逆に売り上げはありえないくらいの金額となっていて、あまりのバランスの悪さに、頭を抱えるしかない。

 これを効率的というか、非効率というかは人それぞれだろう。

 けれど結珠には、バランスの悪さが問題点のように思えた。

 確かに作成も販売も一人でやるには限界がある。

 どちらもこなしたいのであれば、取捨選択は必要だ。

 結珠としては、作成も販売も出来れば定休日以外の休みなく、定期的に行いたい。

 だからといって、昼夜関係なく仕事することも避けたい。

 バランスが良いのは、やはり営業日を週三日くらいにするのか、営業時間を少し短めにするのが良いのだろう。

 最初の予定では、月曜日と火曜日を定休日として朝十時から夕方六時を営業時間としていた。

 けれど、現在の結珠のお店のお客は昼間がコアタイムのようで、午前中と夕方の閉店頃はあまり客が来ない。

 開店を十時ではなく一時間遅い十一時にして、閉店も二〜三時間程度早めても良いかもしれない。

 祖母は営業時間をどうしていたっけと思い出してみるが、そもそも結構不定期営業で決まった時間に開け閉めしていたか、ちゃんと良く覚えていない。



「うーん、どうしたものかなぁ……」


 会社勤め時代は、作品を空き時間にまとめて作って、時限式で通販サイトで売ったり、ハンドメイド系のイベントへ出店して売っていたので、常時店を開けて営業するという方法は結珠にとっても初めての試みだ。

 まさかこんなに文字通り飛ぶように売れるとは思ってもいなかったので、すぐに商品が底をつきかけたことに驚く以外ない。

 とりあえず今は店に商品が充足している状況ではあるので、こうして営業しているが、どういう風にバランスを整えていくかが、今後の課題である。

 おまけに魔石とやらの仕入れについても考える。

 祖母の「とにかく店に来るまで待て」を信じているが、今のところ一向にその気配はない。

 このままでは先に材料の方がなくなってしまうのではないかという恐怖心もある。

 だいぶ減っている魔石の在庫を思い返しながら、結珠は大きなため息をついた。






「魔石売り? いるらしいってのは聞いたことはあるけど、お目にかかったことはないわね」


 買い物がなくても店へ遊びにくるようになったジュジュに尋ねてみたが、ジュジュはあまりよく知らないと首を振った。


「お目にかかったことはないってどういうこと? 私みたいにお店を構えているわけじゃないの?」

「ええ。魔石って高価じゃない? でもそれ単体では使えない。魔法道具として組み立てて、魔女に魔力を注ぎ込んでもらって初めて使えるようになるの。でも素の魔石でも価値があるから、当然魔石を大量に持っているなんて知れたら、色々と犯罪に巻き込まれる可能性があるの。だから、魔石売りたちは特定の店を構えずにひっそりと魔法道具屋を自らの足で回って売って、一般向けには表立って商売をしないって聞いたことがあるわ。そもそも魔女たち以外が素の魔石を持っていたところで、高価であっても何の役にも立たないし。……リーナは何か言っていたの?」

「おばあちゃんは、いつか店へ来るから、来るまでとにかく待てって」

「あら、じゃあ待っているしかないわね。リーナがそう残しているんなら大丈夫じゃない?」


 あまりにもジュジュはあっけらかんと言う。

 あちらの世界の常識を教えてくれるジュジュの軽さに、結珠は途方に暮れた。


「そういうものなのかなー? もう店を開けて二ヶ月近く経つけど、その気配がない」


 心配そうに結珠が言うと、ジュジュも腕を組んで悩みだした。


「そうは言ってもねぇ……。一応何か手がかりはないか私の方でも調べてみるけど、あんまり期待はしないでね」


 多分自分が情報を掴むより、魔石売りの方からこの店にやってくるのではないだろうかとジュジュは言ったが、結珠はあまりそうとも思えず曖昧に笑った。

 この店の客第一号でその後もよくしてくれているジュジュは信用しているが、住む世界が違う分、どうしても価値観の違いは大きい。

 こちらの常識はあちらの非常識。まさしくこの一言に尽きる状況だ。

 結珠ですら、まだ自分自身が魔女であるなんて言われても全然ピンときていないのに、どうにも曖昧な部分が多すぎる。

 そもそもまだ自分がどうやって魔石に魔力を込めているのかすらも理解していない。ジュジュ曰く『ここで売っている魔法道具にはどれも綺麗に魔力が込められている』らしい。

 よく物語である、魔石を握り込んで魔力を込めるなんてのかと思ってやってみたが、自分自身ではまず感覚がないし、実際にやっているところをジュジュに見てもらったが、ジュジュには魔力が魔石に流れ込んでいる様子がないと言われてがっかりしたのだ。

 じゃあ、いつ魔力が入れられているのか……と問われれば、いつの間にかとしか言いようがない。

 ジュジュも『ユズは優秀なのだかそうでないのだか、よくわからないわね』なんて言ってきて、結珠としては褒められていないんだろうなと思ったりもしている。


 そんなわけで、本当にどうにか魔石行商人について何か情報を手に入れなければならないと意気込んでいた頃、その人は唐突に店へとやってきた。






 ジュジュに調査をお願いしてから一週間後。

 もうすぐ閉店時間を迎える夕方に、カランコロンと扉に付いたベルが鳴った。


「いらっしゃいま……せ……?」


 この日はあまり客が多くなかったこともあり、結珠は店番をしつつ作業カウンターで作品を作っていた。

 店に誰かが入ってきた音がしたので、作業を中断して店へと向かうと、リュックを背負った小さいけれど筋肉質な身体つきでもじゃもじゃ髭のおっさんがいた。

 もじゃもじゃ髭のおっさんは、身長だけで言ったらまるで子供と同じくらいだ。そんなに大きくない結珠の頭一つ分は小さい。

 今までに見たことのないサイズのお客さんに、結珠はぽかんともじゃもじゃ髭を見た。


「おう、邪魔するぜ! ばあさんが死んで、店が代替わりしたってのは本当だったのか」

「え? あの……おばあちゃんをご存知なんですか?」


 いきなり死んだ祖母のことを言われて、結珠はまたしても面を食らう。


「アンタ、ばあさんの孫って、巷の噂で聞いたけど、本当か?」

「えーっと、貴方が言う『ばあさん』って人の名前が璃奈なら、私の祖母です」

「そういえば、ばあさんの名前はそんなんだったよな。で、孫のアンタの名前は?」

「私!? あ、えっと、結珠です」

「ユズ? 変な名前だな」


 変な名前で悪かったな、この野郎。

 そりゃ、異世界からしたら、日本名は珍しいだろう。だが、そんなことを言って抗議しても、きっとこのもじゃもじゃ髭には多分わからないだろうと、結珠は文句を言うのを諦めた。


「で、貴方は?」

「おう、悪い悪い! 俺は、ナールって言う名前だ」

「あ、はい。ナールさん……」

「アンタ、ドワーフを見るのは初めてか?」


 ドワーフ! 色々と有名な映画やら漫画やらアニメやらでお見かけする人種!

 本当にいるのかと結珠もびっくりする。

 思わず声も出さずにコクコクと頷くと、ナールと名乗ったもじゃもじゃ髭が笑った。


「やっぱりそうかい。ばあさんも最初に出会った頃は、今のアンタと同じような反応だったしなぁ……」


 どうやら結珠が挙動不審だったのは、ドワーフを初めて見たからだと思っていたらしい。

 目をぱちくりとさせながら、結珠はナールに問いかけた。


「えっと……それで、今日は一体どういった商品をお求めで?」

「は? アンタ、ばあさんから何も聞いてないのか? 俺は客じゃなくて、魔石売りだ」

「ええっ!?」



 待ってたら、まさかの本当にやってきた、魔石行商人!

 結珠はナールが店に入っていたときよりもさらにぽかんと驚いた。



 本当に魔石行商人が、やってきた!(大事なことなので、二回言った!)



というわけで、第二部開始です。(あくまで自分自身の都合上で分けているだけなので、そんなに細かく区切る感じではないので、さらっと流してください)

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― 新着の感想 ―
私の店に魔石売りが〜やってきた〜。 次回の為にビールと大五郎を備蓄すると良いですよ。ハッ酒販の免許がいるか。事業内容、酒類をドワーフに売り付けでウハウハ。
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