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おばあちゃんと孫と魔女の店 ~ 祖母から相続したお店がとんでもなかった件について ~  作者: 秋本悠
第一部 祖母から相続したお店がとんでもなかった件について
11/55

11.お店の再オープン



 結珠は気まずくなって目線をそらしたが、ジュジュは逃がしてくれそうもない。


「宣伝が出来ないって何? そういえば、リーナもあまり店から出たがらなかったけれど、何か事情があるの?」


 どうやら祖母もあまり店の仕組みについて、客には話をしていなかったようだ。

 事情を話すまでは諦めません! という顔をしているジュジュに根負けして、結珠は少しだけと店の仕組みを話した。


「私もまだそんなに詳しいわけではないんですけど、私はこの店から出られないんです」

「はぁ!? 出られないって何!? あなた、監禁でもされているわけ?」

「いえ! そういうわけではないです。ただその……ジュジュさんの言う、王都? には行けないってだけです」

「王都にいるのに王都に行けないって……病気とか?」


 まるで謎かけのような結珠の答えに、ジュジュの混乱は深まる一方だ。


「いえいえ! 病気でもないです! 元気です! えっと……早い話が、私の身の安全を守るため……? 店にかけられた魔法的な?」

「…………それ、私に話をして良い内容?」


 曖昧に言ってみたが、ジュジュの顔が険しくなった。


「……わかりません。でも私や店に悪意を持った時点で、この店には入れなくなるので……」


 結珠がもうひとつ秘密を話すと、ジュジュは眉間に皺を寄せて、ため息をついた。


「なるほど。少しだけわかった気がするわ。リーナがどうして安全に店を経営していたのか」

「おばあちゃんも危険があったんですか?」


 祖母に危険があったのかと思わず聞くと、ジュジュはため息交じりで教えてくれた。


「私もちゃんと知っているわけじゃないけど、強引にリーナを連れて行こうとした貴族がいたって話を聞いたことがあるわ。でも失敗したって。それから何度か強盗があったって話も聞いたけど、どうやっても入れなくて難攻不落だって言われてるのも聞いたことがある」


 それほど強固な警備体制で、一介の魔法道具店に何があるのかと客たちも首をかしげていたらしい。

 ジュジュの説明に、結珠は何となく察しがついた。

 店の中でしか交わることがない世界。恐らくはジュジュたちの世界への配慮だ。

 結珠のいる現代社会を垣間見ることは、あちらの住人にとってはカルチャーショックが大きいのだろう。

 そしてまた逆も然り。安全な世界で生きている結珠にとっても、魔力だ魔術だなんてある世界は夢があるかもしれないが、危険が伴う。

 互いに不可侵であるからこそ、店は成り立っていたのかもしれない。


「ジュジュさんのお話を聞いて、腑に落ちました。私も全部理解しているわけではないんですけど、多分全てはお互いの身を危険から守るために店には色々仕掛けがされているみたいです。だから私が店から出られないことも知られても問題ないです」

「それはならばいいけれど。本当に大丈夫?」

「むしろ知ってもらっていた方が安全かもしれないです。多分どうやったって出られないから、連れ出そうという気が起きなくなるでしょう?」

「まぁ……それは確かにそうかもしれないけれど」

「それに、私や店に悪意を持った時点で、店からも弾き出されるって、祖母の説明には書いてありました。なので、窃盗を考えた時点で店には入れないし、万が一店に入れたとしても、物を盗もうとした瞬間、恐らく強制的に店からはじき出されるんだと思います」


 祖母の日記には祖母の祖父が作ったとされる店。

 それだけしか書いていなかったので、高祖父が一体どんな人だったのか、全くわからない。

 けれど、そんな昔から店の安全を考えて設計されて、少なくとも百年近く維持してきたのだろう。

 きっとこんなに長く続くとは作った当時は思っていなかっただろうが、こうして結珠の元へと受け継がれた。

 であれば、結珠は少しでもそれを正しく継いでいくしかない。


「心配してくださって、ありがとうございます。でも大丈夫です。多分何とかなります!」

「多分って……。リーナも結構のんびりした性格だと思っていたけれど、あなたもリーナに似ているわね」

「そうですか? まぁ……孫の中では一番似ているって言われてましたけど、私は結構慎重派って言われるんですけどね」

「慎重派? 店の秘密をいきなり私に話す時点でそうは思えないけれどね」


 ジュジュはクスクスと笑い、結珠もつられて笑った。






 その後、ジュジュは一度店を出て、仲間を連れてきてくれた。

 半信半疑だったジュジュの仲間たちは、店に入った途端、オープン日のジュジュ同様に驚いてはいたものの、ジュジュたち曰くの魔法道具をたくさん買ってくれた。

 やはり誰もが値段の安さと質の高さにありえないとぼやいていたが、結珠の方がむしろぼったくりではと内心思っていた。


 そうこうしているうちに、ジュジュたち一行のクチコミでたった数日で店には人がたくさん来るようになった。

 もちろん危惧していた通り、窃盗等の悪意を持つ客もまぎれていた。

 最初は普通に購入する気だったのだろう。しかし、その客の手持ちの金額では買えない金額設定だったのか、結局盗む決意をしたらしい。

 手にしていた魔法道具が小さかったせいもあって、手の中に握りしめたまま店を出ようとしたようで、店の扉を外へとくぐろうとした瞬間、その客の手の中が光り、盗もうとした魔法道具が結珠がいたカウンターの上に戻ってきた。そして客はそのまま外に出て、店には二度と入れなくなったようだ。

 結珠はあちら側へは行けないため、たまたま店にいたジュジュが外へ様子を見に行ってくれた。

 窃盗客は喚きながら再び店に入ろうとしていたが、まるで結界でも張られているかのように、入口に見えない壁があって店には入れず、悔し紛れに店の窓を割ろうと石を投げつけられたが、それすらも弾き返して、投げた本人に当たって怪我をしていたらしい。

 店の外には通行人や結珠の店に入ろうとして遠巻きに様子を眺めていた他の客もいたため、その窃盗犯を目撃した者も多く、店の仕掛けを目撃した全員があぜんとしていた。

 結珠も店の外から戻ってきたジュジュに外での様子を聞いてあぜんとした一人である。


(……弾くって言われてもどういう感じなのかわかってなかったけど、そういう感じなんだ)


 妙に感心してしまったが、あまりの安心設計に自分の高祖父は一体どんな人物だったのか、逆に疑問も増えてしまった。






 再オープンから一週間。

 クチコミだけでもかなりの客が来た。

 たくさん作ったはずの品々はあっという間に三分の一までに減ってしまった。

 安価だと客たちは言っていたが、それはあくまで他に比べれば安いというだけで、決してファストアイテムではない。

 駆け出しであろう魔術師の中には、値段を見て諦めて帰って行った客もそれなりにいた。

 結珠はそんな客たちを見ながらどうにかならないものかと考えていた。

 正直、ハンドメイド作品というだけで、足元を見る客は普通に多い。

 量産品ではないから手間もかかっているのに、量産品と同等の扱いを求めてくる者も多いのだ。

 自分の作品を必要以上に安売りしてはいけないと、ハンドメイド作家仲間にも言われている。

 だから、結珠も値引きをしようとは思わない。

 実際、ここ数日の客の中にも、品にない傷をあるかのように言いがかりをつけて値引きさせようとする者もいた。

 しかし応じなかった結珠に実力行使で従わせようとして、店の外に弾き出される客もいたくらいだ。

 おかげで、窃盗や理不尽な要求をしたら二度と店には入れないと客もわかったらしく、その話もあっという間に広まり、たった営業数日で良心店認定されている。

 そんな中で、予算の都合上買えなかった者たちを見ると心苦しく感じてしまう。


 何とかならないものか……と結珠は思考を巡らせた。



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― 新着の感想 ―
迂闊だなぁ。 仮に大丈夫と思えたとして、その理由を開けっぴろげに語ってしまえば、思わぬ穴を突かれる可能性もあるのに 祖母のようにのらりくらりとかわすのが本当は正解だったと思うけど、その判断をするには人…
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