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殺戮の円環:インフィニット・ヘル

「ぎ、ぎゃあああああっ!!」


 「ひ、ひぎぃぃぃぃぃぃっ!!」


 地下室に、まるで屠殺場のような絶叫が木霊する。  先ほど完全に回復したばかりの金髪とハゲが、再び床を転げ回っていた。僕の手にある鉄パイプは、すでにひしゃげ、赤黒い血糊と粘膜がこびりついている。


 「な、なんでだ……!? なんで治したんだよぉぉぉ!! 痛い! さっきより痛いぃぃぃ!!」


 金髪が涙と鼻水を垂れ流しながら叫ぶ。僕は彼の右腕を踏みつけ、鉄パイプを高く振り上げた。


 「言っただろ? 死に逃げはさせないって。お前らが母さんに味あわせた苦しみは、こんなもんじゃない。お前らが死ぬまで、あと何百回でも繰り返すんだよ」


 「や、やめ……!!」


 ドゴォッ!!  グシャアッ!!


 鈍い音と共に、金髪の右肘があらぬ方向へ曲がる。骨が皮膚を突き破り、白い断面が露出した。


 「あがぁぁぁぁぁぁっ!!」


 「次は左足な」


 バキィッ!!


 「ぎゃあああああっ!! ごめんなさい! ごめんなさいぃぃ!!」


 「謝るなよ。興醒めだ」


 僕は淡々と作業を続ける。隣では、ハゲが龍哉さんに首を掴まれ、宙吊りにされていた。


 「お、お助け……くだひゃい……!!」


 「あぁ? 聞こえねぇな。歯が邪魔で喋りづらいんじゃねぇか?」


 龍哉さんは邪悪な笑みを浮かべると、反対の手でハゲの顎を強引にこじ開けた。


 「矯正してやるよ」


 「や、やめろぉぉぉ……!!」


 ボガッ! バキバキバキッ!!


 龍哉さんの拳が、ハゲの口元に叩き込まれる。前歯、犬歯、奥歯……全ての歯が根元からへし折れ、砕け散り、ハゲは口から大量の血と白い破片を吐き出した。


 「ぶごぉぉぉぉ……!!」


 「おら、まだ死ぬなよ? 《ヒール(回復)》」


 龍哉さんが指を鳴らすと、淡い光がハゲを包む。砕け散ったはずの歯が、逆再生映像のように瞬時に生え揃い、腫れ上がった顔面が元通りになる。


 「はっ……!? い、痛くない……?」


 ハゲが希望を持った目で自分の口を触る。だが、その希望こそが最大の絶望だ。


 「はい、回復完了。んじゃ、続きな」


 「ひっ……!? い、いやだぁぁぁぁ!!」


 「逃がすかよ」


 龍哉さんは再び拳を握りしめる。


 「うぎゃああああああっ!!」


 終わらない暴力のループ。  その光景を見ていたリナが、恐怖で失禁しながら後ずさりする。


 「あ……あ……嘘でしょ……? こんなの……人間じゃない……」


 「おいリナ。お前、さっきから見てるだけじゃズルいよな?」


 僕が血濡れの鉄パイプを引きずりながら近づくと、リナは半狂乱になって叫んだ。


 「こ、こないで!! 私は……私はあいつらに従ってただけなの! 本当はやりたくなかったの! ねぇ、洋一だってわかってるでしょ!? 私、女だよ!? 女の子をこんな風にするなんて最低だよ!!」


 「最低? 母さんを焼き殺したお前がそれを言うのか?」


 僕はリナの髪を掴み、壁に押し付ける。


 「お前、口が達者だったよな。いつもその口で僕を嘲笑ってたよな」


 「ち、ちが……ゆるし……」


 「龍哉さん、何か口を塞ぐものあります?」


 「おう、いいもんがあるぜ」


 龍哉さんはポケットから、太い五寸釘のような金属の棒を取り出し、僕に放り投げた。


 「建築用のアンカーだ。頑丈だぞ」


 「ありがとうございます」


 僕はリナの口を無理やり開けさせる。


 「やだ! やだやだやだ!!」


 「動くな」


 僕はリナの舌を引き出し、そこへアンカーを突き立てた。


 ズプッ!!


 「!?!?!?」


 声にならない絶叫。リナは白目を剥き、泡を吹いて痙攣する。


 「うるさいから、これで静かになったな。……あ、死にそう? 龍哉さん!」


 「あいよ。《キュア(治癒)》」


 光がリナを包む。貫かれた舌が塞がり、意識が鮮明に戻る。


 「……!! あ、ああっ……!?」


 「意識戻った? じゃあ、もう一回いけるね」


 「ひぃぃぃぃぃぃっ!!」


 リナは泣き叫びながら床を這って逃げようとするが、僕はその足首を踏みつけ、踵でグリグリと蹂躙した。


 一方、部屋の隅では百合がうずくまり、赤黒い水たまりの中で呻いていた。


 「あ……あぁ……赤ちゃん……私の……赤ちゃんが……」


 下腹部からの激痛と大量の出血。流産だ。勝との間にできた子供は、もはや助からないだろう。


 「痛い……洋一……助けて……お願い……」


 百合が虚ろな目で僕に手を伸ばしてくる。かつてその手で、僕を裏切り、突き放したくせに。


 「残念だったな、百合。でも、それがお前の罪の重さだ」


 僕は冷たく見下ろす。龍哉さんも、侮蔑の眼差しを向けている。


 「そのガキは、テメーらの悪業の巻き添え食って死んだんだよ。母親がクズだと子供が苦労するってな。……ま、俺はクズの種なんざ治す気はねぇけど、母親テメーは別だ」


 龍哉さんは百合に近づくと、ポーションを頭から浴びせかけた。


 「《ハイ・ヒール》」


 「あ、あっ……!?」


 百合の顔色が戻る。裂けた皮膚が繋がり、体力が回復していく。だが、腹の中の喪失感と痛みだけは、心の傷として深く刻まれたままだ。


 「体は治してやったぞ。これでまた、たっぷりと痛みを味わえるな?」


 「いやぁ……! もう嫌ぁ……!! 殺して……いっそ殺してぇぇ!!」


 百合が狂ったように頭を床に打ち付ける。


 そして、最後の一人。  鎖に繋がれた勝が、ガタガタと震えながら失禁し続けていた。


 「お、お前ら……悪魔だ……! 狂ってやがる……!」


 「悪魔? 最高の褒め言葉だな」


 龍哉さんが勝の前に立つ。その体から、目に見えるほどの陽炎のようなオーラが立ち昇り始めた。


 「なぁ、勝。お前、火遊びが好きだったよな? 美名さんを……洋一の母ちゃんを殺した時も、随分と楽しそうに火を点けたんだろ?」


 「そ、それは……! ちが……!」


 「違わねぇよ。お前がやったんだ」


 龍哉さんが右手をかざす。その掌に、メラメラと赤い炎の玉が出現した。


 「《ファイア・ボール(火球)》」


 「ひっ!? な、なんだそれ!? 手品!? やめろ!!」


 「手品じゃねぇよ。お前へのプレゼントだ」


 ボォッ!!


 龍哉さんが火球を勝の足元に放つ。一瞬にして勝のズボンに引火し、皮膚が焦げる臭いが充満する。


 「ぎゃああああああっ!! 熱いッ!! 熱いいぃぃぃぃ!!」


 「どうだ? 自分の体が焼ける気分は? 美名さんはな、全身でこの熱さを味わって死んだんだよ!! お前ごときが足一本で音を上げてんじゃねぇ!!」


 「あぎゃああああっ!! 消してくれぇぇ!! 死ぬぅぅぅ!!」


 皮膚が焼けただれ、黒く炭化していく。勝の絶叫が最高潮に達した時、龍哉さんは冷徹に呟いた。


 「《ウォーター(水流)》」


 バシャアアッ!!  大量の水が勝を打ち据え、火を消し止める。


 「はぁっ……はぁっ……! た、助かった……?」


 黒焦げになった足を見て、勝が安堵の息を漏らした瞬間。


 「《エリア・ヒール(範囲回復)》」


 優しい光が部屋全体を包み込んだ。  勝の黒焦げになった足が、ピンク色の新しい皮膚に覆われ、元通りに再生する。  金髪の折れた手足も、ハゲの砕けた顎も、リナの潰れた指も、百合の体も。  全員が、無傷の状態に戻された。


 「は……?」


 勝が呆然とする。


 「はい、リセット完了」


 僕と龍哉さんは、並んで彼らを見下ろした。


 「さて、次はどうやって遊ぼうか? 夜はまだ長いぜ?」


 「うあああああああああっ!!!」


 「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 5人の口から、言葉にならない絶望の悲鳴が同時に上がった。  終わらない。死ねない。逃げられない。  完全なる健康体に戻されるたび、彼らの精神は確実に摩耗し、崩壊していく。


 「洋一、手伝え。次は全員の指を一本ずつ逆方向に折ってから、爪を剥ぐぞ」


 「いいですね。ペンチ、あっちにありましたよ」


 「お、気が利くなぁ! よし、じゃあ勝から行くか」


 「ひっ……!! こ、こないで……!!」


 僕たちは笑顔でペンチを手に取り、後ずさりする勝に歩み寄る。  その夜、廃工場から絶叫が止むことはなかった。地獄の釜の蓋は、まだ開いたばかりなのだから。

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