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絶望の蘇生と共犯者

 夜の帳が下りる頃。僕は刈谷さんとの幸せな余韻を振り払い、再びあの忌まわしい廃工場へと足を運んだ。


 公園で半殺しにしたハゲと金髪のことが少し気になっていた。あのまま放置していれば警察沙汰になるかもしれない。そうなれば、僕の復讐劇に邪魔が入る。


 (死体を隠すか、まだ生きているならここへ連れてくるべきだったか……)


 そんな考えを巡らせながら、重い鉄の扉を開ける。


 「……えっ?」


 そこには、予想外の光景が広がっていた。


 誰もいないはずの空間に、人影がある。薄暗い裸電球の下、仁王立ちしている大柄な背中。


 「た、龍哉さん…!?」


 僕が声を上げると、その男――十川龍哉はゆっくりと振り返った。その足元には、僕が公園で処理したはずの、ハゲと金髪が転がされている。


 「よう、洋一。詰めが甘いぞ?あんな公園にゴミを散らかしっぱなしにしちゃいけねぇよ」


 龍哉さんは悪びれもせず、ニカッと白い歯を見せて笑った。


 「なんで…ここに…?それに、こいつらを運んでくれたんですか…?」


 「まあな。お前がこいつらに復讐してんのは知ってた。……それに、俺も混ぜて欲しくてよ」


 龍哉さんの瞳から、笑みが消える。その奥にあるのは、僕が抱えているものと同じ、いや、それ以上に深く暗い漆黒の憎悪だった。


 「こいつらが、美名さんを……お前の母ちゃんを殺した犯人なんだろ?だったら、俺にとっても仇だ。俺の命の恩人の母親を殺したクズ共なんざ、生かしておけねぇ」


 龍哉さんの言葉には、嘘偽りない怒気が籠もっていた。その迫力に、僕は思わず頷く。


 「でも、そいつらはもう使い物にならないですよ。金髪は目が潰れてるし、ハゲは頭蓋骨が陥没してる。もうすぐ死ぬと思います」


 床に転がる二人は、ピクリとも動かない。息はしているようだが、虫の息だ。これ以上拷問を加えれば、確実に死んでしまう。


 「ああ、そうだな。普通ならな」


 龍哉さんはポケットから、怪しげな青色に発光する液体が入った小瓶を取り出した。


 「だが、俺が居るなら話は別だ。異世界の土産話、信じるって言ったよな?」


 龍哉さんは金髪の潰れた顔面と、ハゲの陥没した頭にその液体をふりかけた。


 「《ハイ・ヒール(上級回復)》」


 ジュワッ、という音と共に、二人の体から蒸気が上がる。


 「あ、があああああっ!?か、痒いッ!痛いッ!!なんだこれええええ!!」


 死にかけていたはずの二人が、激しくのたうち回る。  見るも無惨に潰れていた金髪の眼球が、ボコボコと音を立てて再生し、眼窩に収まる。ハゲのへこんだ頭蓋骨が、メキメキと音を立てて元の形に隆起していく。


 数秒後。そこには、傷一つない状態で五体満足に戻った二人が、荒い息を吐いて倒れていた。


 「な、治った……?目が見える……?」


 「あ、頭も……痛くない……」


 二人は自分の体を触り、信じられないという顔をしている。そして、目の前にいる僕と龍哉さんを見て、希望を見出したように目を輝かせた。


 「た、助けてくれたのか!?ありがとう!ありがとう!!もう二度としません!!」


 「改心します!!ありがとうございます!!」


 その勘違いした言葉に、僕と龍哉さんは顔を見合わせ、同時に冷酷な笑みを浮かべた。


 「は?何勘違いしてんの?」


 「誰が助けたっつったよ?馬鹿かテメーらは」


 龍哉さんがハゲの胸ぐらを掴み上げ、壁に叩きつける。


 「治したのはな、"死に逃げ"させねぇためだ。壊れたら治す。治ったらまた壊す。テメーらが犯した罪の重さは死んで償えるもんじゃねぇ。死ぬ以上の地獄を、永遠に味わわせてやるよ」


 「ひっ……!!」


 その宣言に、二人の顔が絶望で歪む。健康体に戻ったからこそ、これからの痛みが鮮明に想像できるのだろう。


 「さあ、第二ラウンドの開始だ。洋一、存分にやれ。死にかけたら俺がまた治してやる」


 「ありがとう、龍哉さん。……最高だよ」


 僕は近くにあった鉄パイプを手に取った。これなら、遠慮なく全力で殴れる。


 その時、部屋の隅から弱々しい悲鳴が聞こえた。


 「い、いやぁあああ……!な、なんなのよぉおお……!!」


 百合だ。目の前で行われた異常な「再生」と、これから始まる無限の拷問の予感に、恐怖で錯乱している。


 「お、お腹が……痛い……!あ、赤ちゃんが……!!」


 百合は股間を押さえてうずくまっている。ズボンには薄っすらと血が滲んでいた。極限のストレスと栄養失調、そして僕の暴力のせいで、流産しかかっているのかもしれない。


 「ねえ!その薬!私にも頂戴よ!!お腹の子が死んじゃう!!」


 百合が龍哉さんにすがりつくような視線を向ける。だが、龍哉さんはゴミを見るような冷徹な瞳で見下ろした。


 「あぁ?なんで俺の大事なポーションを、クズの子供に使わなきゃなんねーんだよ。無駄遣いはしねぇ主義でな」


 「そ、そんな……!人殺し!!」


 「人殺しはお前らだろ。鏡見て言え」


 僕は百合の髪を掴み、無理やり顔を上げさせる。


 「百合。お前、勝の子供なんだろ?勝に何とかしてもらえよ」


 視線の先には、鎖に繋がれたままガタガタと震え、失禁している勝の姿があった。自分の彼女が苦しんでいるのに、自分の身を守ることで精一杯で、言葉一つ発しようとしない。


 「み、見ろよ百合。お前が選んだ男は、お前を助けようともしないぞ?お似合いだな、クズ同士」


 「い、いやぁぁ……!痛いッ!痛いぃいいい!!」


 百合が激痛に絶叫する。  龍哉さんは腕を組み、冷ややかに言い放った。


 「因果応報だ。美名さんは、炎の中でその何倍も苦しんで、お前らのせいで命を落とした。お前だけ楽になれると思うなよ?その腹のガキと共に、じっくり苦しんで朽ちていきな」


 その言葉を合図に、僕たちの容赦ない「処刑」が再開された。  回復したばかりのハゲと金髪の悲鳴が、防音壁に囲まれた地下室に心地よく響き渡る。


 僕と龍哉さん。二人なら、この地獄をもっと深く、もっと凄惨なものにできる。  僕は鉄パイプを振り上げ、満面の笑みでハゲの脛を砕いた。

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