刈谷さんとデート…。そして龍哉… 真実を知る…。
「ごめん!待った?」
刈谷さんからRINEで送られてきた位置情報は、有名なファーストフードチェーン店『ダブルナルド』の前だった。僕が息を切らせて到着するなり、彼女はすぐに僕に気付き、小さく手を振ってくれた。
「ん…待ってませんよ!でも、ごめんなさいっ!ワガママに付き合わせちゃって…」
「気にしないよ!僕も…、なんていうんかな…。凄く嬉しかった!」
「本当に?」
刈谷さんは、両手を後ろで組み、上目遣いで僕の顔を覗き込むような愛らしい仕草を見せる。
「ホントホント!」
僕がそう断言すると、刈谷さんは花が咲いたように嬉しそうな笑顔になった。その無邪気な表情が、何故か僕の心臓を早鐘のようにドキドキさせる。
「ん…!今日は私が奢るからダブル食べよう?」
「でもいいの?中学生なんでしょ?」
「ん…大丈夫!お母さん…、えっと育ててくれてるお母さんにお小遣い貰ったから!」
刈谷さんはそう言うと、鞄から真っ白な『ウィトン』の財布を取り出し、ちらつかせて見せた。 ……というか、中学生でウィトンだと!? 育ちが良いのか、それとも育ての親が金持ちなのか。僕は少し驚きながらも、彼女の好意を受け取ることにした。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
店内に入り、レジの列に並ぶ。店員の手際よいオペレーションで列は進み、あっという間に僕達の順番が回ってきた。
「刈谷さんはどれにする?」
「ん…。新堂さんと同じがいいです!」
「じゃあ…。これのAセット2つで!!」
ダブルバーガーとポテト、ドリンクSサイズがついたお手頃価格のセットだ。注文を伝えると、カウンター越しの優しそうな女性店員が笑顔で話しかけてきた。
「お客様、お二人はカップルでしょうか?今なら期間限定でカップル割引も実施しておりますけど?」
「えっ!?」
「んっ?!」
不意打ちの言葉に、僕達は同時に声を上げて驚く。無理もない…。年頃の男女が二人きりで来ていれば、周りから見ればカップルに見えるらしい…。 否定すべきか迷っていると、隣で刈谷さんが決然と口を開いた。
「そうですっ!恋人同士なので割引お願いしますっ!」
「刈谷さん!?」
「承知しました~!それでは割引適用で…」
店員さんの営業スマイルが物凄く眩しい! いや、恋人じゃないんだけどなぁ…。と心の中で突っ込みつつも、悪い気はしなかった。むしろ、少し誇らしいような、くすぐったい気分だ。
それから僕達はトレイを受け取り、店内のテーブル席で他愛もない雑談を交わした。血生臭い日常を忘れ、何故か刈谷さんとの会話だけが楽しくて、凄く心が落ち着く…。
食べ終えた僕達は店を出て、夕暮れの街を二人並んで歩き始めた。
「恋人かぁ…」
刈谷さんは真っ直ぐ前を見つめながら、恥ずかしそうに、けれど噛み締めるように呟く。
「ん…、私達って周りから見たらそう見えるのかな?」
「どうなんだろ?歳が近い二人が一緒に歩いていたら、そう見えるのかな?」
僕がそう返した直後だった。 そっと、刈谷さんの手が僕の手に触れ、そのままぎゅっと握りしめてきた。
「刈谷さんの手が暖かい…」
「ん…。わかる?」
繋いだ手のひらから伝わる体温が、熱いくらいに温かく感じて、嬉しさと緊張で胸の鼓動が止まらない…。
「凄く…!」
それから数秒……世界から全ての音が消え失せたような感覚に陥った。たった数秒の出来事なのに、永遠のように長く感じる。 辺りは夕焼けに染まり、オレンジ色の光が刈谷さんの横顔を照らしている。その表情が、この世の何よりも可愛く見えた。
トクン…トクン…トクン…。
刈谷さんの手のひらから、緊張しているのか、それとも僕と同じように高鳴っているのか、小さな脈打つ振動が伝わってくる。
「ん…。なんか恥ずかしい…。でも嬉しい…です…」
「刈谷さん…」
「新堂さん…」
刈谷さんが、万感の思いを込めて僕の名前だけを呼ぶ。それに答えるように、僕も照れくささを隠せないまま、彼女の名前を呼んだ。
二人の間だけ、時が止まったように……優しい夕暮れが僕らを包み込んでいた。
………。
……。
…。
~ 龍哉 視点 ~
「おい!冗談言ってンじゃねーぞ!流石の俺もキラすぞ!?」
「いや…、真面目だぞ…?俺も調べて驚いた…」
電話の向こうから聞こえるカズの声は、いつになく真剣だった。俺は、洋一から聞いた刈谷という女の子の実の母親――"間島美名"の話を聞き、かつて学生時代に一緒につるんで暴れ回っていた仲間のカズに調査を頼んでいたのだ。今は不動産業を営んでいるアイツなら、裏のルートも含めて何かデータを持っているんじゃないかと思ってな。
だが、返ってきた答えは俺の想像を遥かに超えるものだった。
「やっぱり、その美名って人は、俺の嫁の美名で間違いねぇんだな?!」
「ああ…。住所はつい数ヶ月前に火事になったアパートだ。そこに住んでいた記録がある…」
あー、ダメだ。頭ン中がおかしくなりそーだべ…。こめかみがドクドクと脈打ち、冷や汗が背中を伝う。
「間島から"新堂"に名前変わったってか…。まじ冗談じゃねぇんだべな?」
「ああ。戸籍データを見る限り、そう書いてある…」
つまり、どういうことだ……?整理しろ、落ち着け。 刈谷って女の子の実の母親が、俺の嫁だった美名。つまり、刈谷って子は俺の二人目の子供になる…。 ンで、洋一は……。
「洋一は…。俺の子供か…。んじゃあ、新堂ってのはなんなんよ?美名は間島になる前は麻風っつー名前だったからな…」
「あくまでも仮説だけどよ、美名さんの両親が離婚したとかの理由で、美名さんの母親の旧姓になったんじゃないか?調べてみたら、美名さんの母親の実家が"新堂"だった」
そうか……俺は美名の母親の姓が"新堂"だなんて知らなかった。そりゃーいくら探しても、"麻風"や"間島"で探しても洋一たちが出てこねぇわけだわな…。灯台下暗しとはこのことか。
それにしても、洋一が俺の実の息子だったとはな…。 運命ってやつは残酷すぎる。俺が助けた少年が、まさか自分の血を分けた息子だったなんて。
……待てよ? おまけに、今、洋一と一緒にいる刈谷って子も……俺の娘ってことか? じゃあ、あいつらは……兄妹でデートしてるってことになんのか!?
「とりあえず、データはここまでな…。普通は人に教えたりしたらやばい事だからよ…。墓場まで持ってけよ」
「ああ…助かった。恩に着る」
通話を切り、俺はスマホを握りしめたまま天を仰いだ。 脳内でバラバラだったピースが、最悪の形で組み上がっていく。
(だったらよ?美名を殺したやつっつーのが、洋一をいじめていたあの"クソガキ"共か…)
俺の最愛の女を焼き殺し、俺の息子を地獄へ突き落とした張本人たち。 洋一が今、監禁して痛めつけている連中こそが、俺にとっても最大の仇だったということだ。
「ざけやがれや……」
腹の底から、どす黒いマグマのような怒りが噴き出してくる。
「許せねぇ…。まじ許せねぇ…」
俺は拳を壁に叩きつけた。壁紙が剥がれ、石膏ボードが粉々に砕け散る。 洋一だけに任せておけるか。俺も混ぜろ。あいつらを、この手で、地獄の底の底まで叩き落としてやる。俺の家族を奪った罪は、死んで償うことさえ許さねぇ。
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