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間島龍哉と間島美名(母さん)?


 清々しい空気が肺を満たす、どこか切なさを孕んだ朝。  僕は誰よりも早く目を覚ますと、ベッドから起き上がり、背筋を限界までうんと伸ばした。


 (今日は刈谷さんとデートの日だ…)


 昨晩の出来事が脳裏をよぎる。刈谷さんはずっと、心配そうに僕の事を想ってくれていた。その温もりに触れ、ほんの少しだけ胸の奥の寂しさが和らいだ気もする。  だからといって、勝や百合、リナ……そしてあのハゲや金髪への憎悪が消えたわけでも、彼らの存在を忘れたわけでもないが。


 「まだ時間はある…。少しマラソンでもしようかな…」


 僕は上下黒色のスウェットに着替えると、朝の冷気の中へ飛び出し、軽く走り始めた。  一定のリズムで地面を蹴りながら、思考を巡らせる。


 (龍哉さんや刈谷さんが居なかったら僕はどうしていたんだろうか? こうして外に出る事もできず、部屋で腐っていたのかもしれない…)


 そんな感傷に浸りながら走っていると、いつの間にか近くの公園まで来ていた。  そこは中央に小さな噴水があり、奥には少し大きな裏山がそびえている場所だ。裏山の頂上には古びた東屋が見え、山と噴水を囲むようにして、石のブロックで敷き詰められた遊歩道が続いている。


 (あれ? あそこに居る奴らは…)


 走りながら前方を見ると、視界に不快なノイズが混じった。  松葉杖をついたハゲと、そいつと何やら深刻そうに話し込む金髪が居やがる。あいつらだ。奴らは僕の姿に気付くと、見るからに血相を変えて近寄ってきた。


 「おい!! 新堂…くん…。その…」


 ハゲが図々しくも話しかけてくる。その馴れ馴れしい声を聞いただけで、吐き気がした。


 「は? なに? 目障りすぎんだけど、邪魔」


 僕は足を止めず、向かってくるハゲの背後へと瞬時に回り込む。そして、ハゲの服の襟元を背後から思い切り引っ張り、松葉杖をついてこちらを恐る恐る見ている金髪野郎に向けて、砲丸投げのように投げ飛ばした。


 「ぐびゃっ!!」


 人間ミサイルと化したハゲが金髪に直撃する。金髪はバランスを崩し、無様に大きく尻もちをついた。


 「邪魔なんだよ」


 僕が冷たく見下ろすと、二人は怯えながらも必死に声を張り上げた。


 「ご、ごめんなさいっ!! それより!! 勝やリナを知りませんかっ!?」


 「百合も含めて連絡が取れないんだ!!」


 その言葉を聞いた瞬間、さっきまでの穏やかだった朝の気分が、泥靴で踏み荒らされたように台無しになった。最高にイラつく。


 「知るか、ボケ」


 僕は倒れているハゲの、その光る頭部めがけて容赦ない蹴りを御見舞いする。


 ドゴォッ!!


 「へげぇっ!!」


 つま先がハゲの耳付近に直撃し、耳の軟骨が砕ける感触が足に伝わる。裂けた耳から鮮血が噴き出し、地面を赤く染めた。


 「その金髪も目障りだからハゲ散らかしとけよ」


 僕は次に、腰を抜かしている金髪の髪を両手で鷲掴みにし、加減など一切せず、勢いよく真上へ引っ張り上げた。


 ブチブチブチチチチッ! ブリリリイリッ!! ブチブチブチィィィッ!!!


 頭皮が剥がれるような不気味な音が響く。


 「いぎゃあああっ! ごめんなさいっ!」


 その謝罪の言葉が、僕の神経をさらに逆撫でする。


 ブチブチブチチチチッ! ミチミチミチッ!! ブチィィィッ!!!


 「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! ごめんなさいって言ってるのに~っ!!」


 泣き叫ぶ声などBGMにもならない。僕は引き抜いた大量の髪の毛を、地面の土や小石と一緒に鷲掴みにし、金髪とハゲの口の中へと強引にねじ込んだ。


 「ほら、朝飯だ。食えや」


 「へっ?! や、やめ!!」


 「し、ひんひゃう!!(しんどう!!)」


 口の中を髪と土で満たしてやった後、僕は勢い良く二人の顔面を何度も何度も蹴り上げた。  右、左、右、左。二人交互に、リズム良くステップを刻むように。僕はダンスでも踊るような軽快さで、楽しく蹴り続ける。


 「あはは! いい音だねぇ!」


 最後に、僕は遊歩道の脇にある大きめな庭石を持ち上げる。それを高く掲げ、気持ち悪い二人の顔面めがけて、全力で叩きつけた。


 ゴギャアッ!!


 「たわばっ!!」


 「あわびゅっ!!」


 鈍い音と共に、二人の顔面は原形を留めないほど血だらけになった。鼻はひしゃげ、歯は折れ、見るも無惨な姿だ。


 「……まじで不愉快」


 血まみれでピクリとも動かなくなった二人を見下ろして、僕は唾を吐き捨てる。こいつらのせいで、爽やかな朝の気分が台無しだ。  


 「やっぱ、もう少しボコろう」


 僕は再び足を振り上げた。デートの時間まで、まだ少し余裕がある。

………。



……。

…。




かつて金髪だった男の頭は、僕が執拗に毟り取ったせいで見る影もなくなり、もはやどちらが元からのハゲで、どちらが金髪だったのか見分けがつかない有り様になっていた。


 僕は血と土に塗れた二人を見下ろし、冷徹な声で告げる。


 「いいか? 僕の母さんを殺した証拠は全て握ってるんだ。殺人犯として捕まりたくねーなら、俺が今日した事は墓場まで黙っとけよ? もし誰かに漏らしてみろ……おめーらの母親や兄弟、全員同じ目に遭わせてるからな」


 「わ、わかりまひた…」


 「ご、ごめんなはい…」


 腫れ上がった口から漏れる、金髪の「ごめんなはい」という締まりのない言葉が、僕の神経を逆撫でする。謝罪すらまともにできないのか、このゴミは。


 「ごめんなはい? じゃねーだろ! だぼが!!」


 怒りのままに、僕は手にした岩を再び振り上げ、金髪の顔面めがけて全力で叩きつけた。


 ドグシャアアッ!!


 「ひでぶっ!!」


 断末魔のような叫びと共に、岩が顔面に直撃する。衝撃で眼窩が砕け、片方の眼球が飛び出し、ぶらりと垂れ下がった。


 「うわ……きたねーもん見せるなや」


 そのグロテスクな光景に生理的な嫌悪感が走り、さらにイラつきが募る。僕はその苛立ちを解消するため、今度は隣で震えるハゲの頭上から、岩を勢いよく振り下ろした。


 ズドォォン!!


 「あべしっ!!」


 鈍く重い音が響き、ハゲの頭蓋骨が奇妙な形に陥没したように見えたが……まあ、気のせいだろう。


 「ふぅ……」


 二人ともピクリとも動かなくなった。  うん。少しスカッとした…。胸のつかえが少しだけ取れた気分だ。


 この調子で、次は勝や百合、リナにもたっぷりと"愛"を注いでやるとしよう。



………。

……。

…。



マラソンを終え、シャワーで汗と……そして手足に残る微かな暴力の感触を洗い流す。身支度を整えると、刈谷さんとのデートの待ち合わせ時間が迫っていた。僕は逸る気持ちを抑えながら、急いで待ち合わせ場所へと向かう。


 指定の場所には、少し大きめのスタジャンにミニスカートを合わせた、活動的で可愛らしい服装の刈谷さんがちょこんと立って待っていた。


 「ごめん。待った?」


 「ん~…、全然待ってませんよ~!」


 僕は少し照れくささを感じながらも、刈谷さんに精一杯の笑顔を向ける。刈谷さんもまた、少し頬を赤らめ、はにかむようににこっと微笑み返してくれた。その笑顔だけで、朝の陰惨な記憶が薄れていくようだ。


 「ん…、デートって言いましたが、どこ行くか決めてませんでしたね…」


 「刈谷さんはどこか行きたい場所でもある?」


 「うーん、そうですねぇ…」


 僕達はそんな他愛のない会話をしながら歩き出し、近くの大型スーパーへと向かった。  活気のある店内を並んで歩き、フードコートにあるジャンクフード店でフライドポテトを注文して二人でシェアしたり、上の階にあるゲームセンターへ足を運んだりした。


 ゲームセンターの賑やかな電子音の中、僕はお菓子のタワーが積み上げられたUFOキャッチャーに挑戦した。アームが見事に箱を崩し、景品が落ちてくる。


 「ん~っ!おいひぃいいです!このアポロ凄く好きなんですよっ!」


 「そうなの?これもあげるよ!」


 「いいんですか?!ありがとうございますっ!」


 刈谷さんは目を輝かせ、獲得したアポロの小袋を嬉しそうに破る。ピンクと茶色の円錐形のチョコを一掴み手に取ると、そのまま自分の口の中へと放り込んだ。


 「ん~、美味しいですっ!」


 幸せそうに頬張る刈谷さんは、不意に僕の顔をじっと見つめ、また一つアポロを指で摘むと、僕の口元へと差し出してきた。


 「ふぇ!?」


 「はい、あーん」


 不意打ちで口の中に放り込まれ、僕は一瞬驚き、間の抜けた声をあげてしまった。口の中に甘いイチゴチョコの味が広がる。


 「どうですか?美味しいですか?」


 刈谷さんの表情は、少し小悪魔のように、にひひと悪戯っぽく緩んでいる。その無邪気な笑顔を見ると、僕の心を覆っていた深い闇やモヤモヤとした霧が、一瞬だけ晴れ渡ったような気がした。


 ふと、以前彼女が話していたことを思い出し、僕は切り出した。


 「そういえばさ?」


 「何ですか?」


 「刈谷さんの探している母親の情報に何か進展はあったの?」


 その問いに、刈谷さんの表情が少し曇る。


 「ううん…。あれから何件か調べましたが情報はありませんでした…」


 「刈谷さんって名字の自宅も無かったんだった?」


 刈谷さんは僕の顔を見ると、どこか切なそうな瞳で静かに語り始めた。


 「刈谷は私の育ててくれた家族です。本当の名字は間島でした…」


 「そうなんだ…。あれ…?間島って何処かで聞いたような…」


 記憶の糸が何かに引っかかった。


 「何か知っていますか!?」


 刈谷さんは僕の言葉に反応し、驚いたような表情で身を乗り出してくる。


 「あっと~…、龍哉さん…。僕の命の恩人みたいな人で…。うん、その人と同じ名字だから…」


 「その人って、新堂さんと同じ年なんですか?」


 「うん。最近、転校してきたみたいで偶然にも僕と同じクラスなんだ!」


 そう、龍哉さんが転校して来てから、僕の運命は変わった。どん底の不幸から僕を救い出し、導いてくれた"親友"のような、恩人のような人だ。


 「今度、刈谷さんのお母さんの事を聞いてみるよ!ところで、刈谷さんのお母さんの下の名前は?」


 「はい。美名です!間島美名といいます!」


 心臓がドクンと跳ねた。  あれ? ミナって……僕の母さんと同じ名前だ。僕はそのあまりの偶然に驚きを隠せず、慌てて漢字を尋ねた。


 「ちなみに漢字は?」


 「美しいと書いて名前の名です!」


 「ほぇえええ~!!僕の母さんと同じ名前だっ!!偶然すぎるよ!」


 本当にびっくりした。こんな偶然があるものなのだろうか。  もしかして刈谷さんの母さんって、僕の母さん?  一瞬そんな考えが頭をよぎったが、すぐに打ち消した。そもそも僕の母はずっと「新堂」だったし、祖父母も新堂だった。結婚して名字が変わったとしても、時系列や状況が合わないだろう。


 「今度、龍哉さんに聞いてみるよ!」


 「お願いしますっ!!」


 それから僕達は残りの時間、辺りが夕焼けに染まり、綺麗なオレンジ色が街を包み込むまで「デート」という穏やかな時間を楽しんだ。


 こんなに心安らかに過ごせたのは、いつ以来だっただろうか。  少しだけ心が晴れたような……そんな温かい気持ちが、僕の中に満ちていた。

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