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4.孤児院改革への第一歩

 

 シスターとの話し合いを終えて子供達のいる一階に降りると、彼らにわっと囲まれた。


「おねーちゃん、このお菓子美味しいよ!」

「お洋服ありがとう、こんなにサラサラして気持ちいい服、初めて!」

「屋根もう雨漏りしないんだね! 良かったぁ!」


 嬉しそうに告げられるお礼がこそばゆい。子供達を見回せば、思っていたより皆清潔にしている。髪もさっぱり整えられ、女の子は綺麗にまとめている。身体もガリガリの子は一人もいない。

 これはもしかしたらルトのおかげかも知れないなとすみれは思った。子供達も彼を信用しているし、間違っていないはず……と姿を探したら、少し離れたテーブルで数人の子供達とクッキーを食べていた。

 すみれの視線に気付いて立ち上がり、シドとソラ、ミファを連れだってこちらに来てくれた。


「あ、あの、先日は危ない所を、ありがとうございました! このショールもお返しできずに……」


 ミファに言われるまで存在を忘れていたショールを見て「それは貴女にあげたの」と耳打ちした。


「えっ、でも……」

「いーのいーの。……あなたがソラくん? 怪我はどう?」

「全然へーき! ありがとうな!」


 ニカッと笑うソラは顔にガーゼ、腕や足に包帯が巻かれてはいたが、確かに元気そうだ。

 路地裏の時は暗がりだったし顔も殴られて腫れていたから気付かなかったが、その顔つきはシドとそっくりで、ペタッと伏せた茶色の耳は犬っぽく、同色の髪に、黒い瞳まで瓜二つでとてつもなく可愛かった。


「双子?」

「そう! ソラと俺は双子なんだ!」


(可愛い~年長さんくらいかな?)


 つい二人の頭を撫で回していたら、その手首をルトに掴まれた。


「異性の頭をそんな風に触っては駄目だろう」


(えっ、こないだもシドを慰める為にわしゃわしゃしちゃったけど、駄目だったの!?)


「あ、ごめんねっ」

「全然いーよ! もっと撫でて欲しいっ」


 ニコニコとおねだりされ胸がキュンとしたすみれはじゃあ……と手を近付けるが、それを遮るようにルトが距離を詰めた。


(警戒されてるのかな……)


「今回のこと、本当にありがとう。僕もこの孤児院の現状をどうにかしたかったんだけど、まだ勉強を教えるくらいしか出来てなくて……君は凄いね」

「そんなことない。この子達が痩せ細ってないのも、清潔にしているのも、貴方のおかげなんでしょう? それに、私の力じゃないの。周りの人とか、大人を頼っただけで」


 頭を上げ、見えたルトの顔は困ったように眉を下げていて、どこか大人びて見えた。


「……大人、か。僕はどうしても大人が信用できなくて、自分の力だけでと意固地になっていたみたいだ。君は大人だね」

「そりゃもう十八だからね。子供は守って当然だし」


 十八!? と子供達から驚愕の声が上がった。ミファと同じくらいだと思ってた~とソラやシドに言われて悲しくなる。


(ミファって十五歳って聞いたんだけど?)


 目の前のルトですら目を丸くしている。何歳に見えていたのか尋ねれば、十三……と申し訳なさそうに告げられてすみれは頭を抱えた。


(この薄い顔のせいか!? 童顔とは思ったことないのに!)


「……ごめん。それで、相談があるんだ」

「? なに?」

「ここを皮切りに、他の孤児院にも行くんじゃないかと思ったんだけど」

「うん。せめて手の届く範囲はやろうって思ってる」

「それなら僕も連れていって欲しい。色んな孤児院を訪ねたことがあるから、力になれると思う」


 願ってもない申し出だったのですみれは一も二もなく頷いた。


「助かる! ……私、この国にいられるの後八ヵ月なの。だから、その後はルトに引き継いでもらえたらって」

「八ヵ月……!? そ、うなのか……なぜ? 入国期限でもあるのか? なら──」

「違う違う! 生まれた国に帰るだけだよ。多分もう戻って来られないと思う。だから後任も探していたの。ルトなら信用出来るし……お願いできない、かな」

「それは、もちろん。ずっとどうにかしたいと思っていたものの一つだし……でも……二度と会えない、のか……」


 後半は一人呟くように口にしてそれ以降彼が黙ってしまったので、話は終わりだと思った子供達によって、すみれは引き摺られるようにしてキッチンに連れて来られた。

 なんと既にそこは大工さん達によって機能的なキッチンへと変貌を遂げていた。仕事が早すぎやしないだろうか。


「よーし、シスターララを呼んできて! 先ずは手洗い、それから三角巾にエプロンよ!」


 それからかすみれはルトを含めた全員に爪の中まで洗う手洗いの仕方を教え、簡単な焼き菓子の作り方と、それを包装する包みの作り方なんかを実践してみせた。

 手洗いはバイト先、お菓子作りは趣味、裁縫は手芸部の活動で得たものだった。

 忘れないようにレシピを書いた紙をシスターに渡し、値段設定や接客の仕方、おつりの早見表の作り方を教え込んだ。

 大きめの子は計算が出来る子もいるし、何とかなりそうだ、と一息ついた所で休憩にした。

 最初から上手く出来るわけもなく、焦げたり割れたりした失敗作ばかりのクッキーを皆で頬張るが、笑い声の絶えないこの場所がよい環境なのは肌で感じることができた。

 他の所もこんな風にしてみせる! とすみれは大きな志を胸に燃えていた。


 それから一月経ち、何とかバザーの準備が整った。店舗のキッチン部分は完成しているので、お菓子はそこで作る。端切れからはハンカチを作って刺繍し、ぬいぐるみと香り袋も作った。子供達は覚えが早く、あっという間に売り物レベルの品物が作られていく。

 下手な物もそれはそれで味があった。


 寄付に関しては、国で管理し国内にある全ての孤児院に平等に給付する制度と団体を創設し、着服や横領への罰則や防止の為の法整備などなど……その辺はグレイールさん達にお願いしてある。ルトもやはり詳しいらしく、相談したら水面下で色々と動いてくれているようだ。どのような教育を受けているのか知らないが、彼はとても九歳とは思えない程しっかりしている。


(まあとにもかくにも、明日のバザーを成功させなきゃ)


 場所は中央街と貴族街の真ん中にある、大聖堂の庭を借りて行うことが決まっている。これはルトの伝手だ。庭とはいえ大聖堂を借りられる伝手ってなんだとすみれは思ったが、深く考えないようにした。

 宣伝も、子供達にビラを配ってもらっているからある程度は周知されているだろう。


 毎日のように会っている内に、やはりルトはアレクシス王子かも知れないと思い始めていた。

 そうなるとわざわざ異世界から呼び出したすみれが番でないということになってしまうのだが。


(まぁどちらにせよ結局帰るんだし……ただ嘘をついたまんまってのがなぁ……)


 番どうこうや年齢が九つも下ということを抜きにしても、人間(獣人?)的にルトには好感を覚えている。多分彼も、すみれを嫌ってはいないと思えるくらいには交流してくれている……と思う。


(本当のこと言って、この件から手を引く──ような人じゃないと思うけど、軌道に乗るまでは黙っておくが吉……かな)


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