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11.ライオン獣人の男

しんどい話が続いててすみません

 

 ノック後直ぐに出て来たすみれを見て、ドーラは苦い顔をした。


「……髪、濡れたままじゃないか。それならもう少し待ったのに」

「…………」


 何も答えないすみれにドーラはハァ、とため息を吐いて、直ぐ横に置いてあったワゴンからタオルを取り出してわしゃわしゃと拭いてくれた。手慣れたそれに、日頃下の子供達にもしてあげているのだろうと窺えた。

 よく見ればそのワゴンには数枚のタオルと、水を張った洗面器と水差しが載っていた。

 豪華なそれらを見て、また不快感が足下から突き上げてくる。


(こんなの買うお金があるなら、もっと子供達に美味しい食事と、着心地のいい服を買ってあげなさいよ……!)


「今日来てるのは凄いヤな奴。おれも何度か殴られた。泣いたり叫んだりしたら喜んでもっとしてくるような奴だよ。……頑張って」

「…………」

「アインに聞いた。おれらと同じ目に合って、それでも同じことが言えたら……信じてあげる……協力も、するよ」


 タオルの隙間から見えた彼は、泣きそうな顔で笑っていた。

 こうやって身内も、他人も、自分ですらも、辛い目に合うと分かっている場所へ押し込んで来たんだろう。

 ガラスを隔てた先にある希望になんてすがり付けないと、その瞳が言っている。


 すみれが神妙な顔で頷くと、ドーラはそれ以降一言も話さずに廊下を進み、ある一室の前で止まった。

 数回扉を叩くと、中から男性の声が聞こえて来た。

 先にドーラがワゴンを押しながら入り、その後すみれに入るよう促した。

 彼は去り、ゆっくりと扉が閉じられる。


 目の前には清潔そうなベッドと、テーブルとソファーが置いてあり、孤児院の一室とはとても思えない部屋だった。

 案内された時にこんな部屋は無かったし、ルトのことを考えるとこの部屋が少なくとももう一室あるということになる。

 空間魔法だろうか。グレイールの魔術講座でほんの少し聞き齧っただけの知識では何がどうなっているのか全く分からない。


「……やっと来たか。名前はあるのか?」

「…………」


 ソファーに座って酒を飲んでいた男は、グラスを片手に近付いてくる。


「だんまりか。いいぜ。そういう奴を泣かせるのが楽しいんだ」


 茶色い髪に丸めの耳をした目付きの悪い男は、ニィ……と嗤った。すみれの身体は、肉食獣に睨まれた兎のように動かなくなる。


「猫獣人か……ん? なんだ、もう相手がいんのか? マーキングなんかされてよ」


 つ、と指先で唇を撫でられてぶぁっと鳥肌が立った。


(ルトには何されても、全然嫌じゃなかったのに……)


 そこまで考えて、彼に唇はおろか咥内まで舐められたことを思い出してしまった。

 それどころではないというのに、すみれの頬は熱を持ち真っ赤に染まっていく。


「ハッイイ顔すんじゃん。──そのマーキングを塗り替えてやるのがまた最高なワケ。楽しみデショ? 仔猫チャン」


(……見た目は悪くないのに、こんなだからここにいるのね)


 少し冷静になったが、男がテーブルにグラスを置く音で現実へと引き戻された。

 獲物を狩る獣のようにゆっくりとすみれに近付き、彼女の腕を掴んで無理矢理ベッドへと放り投げた。


「…………!」


 ベッドの軋む音がしたのと、男が乗り上げて来るのは殆ど同時だった。舐め回すように全身を眺めた後、噛み付く勢いで唇を塞がれる。歯がさっきの傷に当たってまた血が出た気がした。


(抵抗しない……抵抗しない……)


 目をきつく閉じて、自分をコントロールする為に何度も心中で繰り返す。

『泣いたり叫んだりしたら喜んでもっとしてくるような奴だよ』というドーラの言葉を聞いたからでもあったし、すみれにとってこれは計画の一部だったからだ。


 ルトに思いがけずマーキングされたことも、この男がそれを塗り替えようとしてくるゲスだったことも、ある意味すみれに味方したと言って良かった。


 唇を舐め回されて、まるでナメクジのようだと思った。コタロウにされていると思うなんて、コタロウに失礼で出来ない。


(吐きそう……)


「……んぐぅっ」


 無理矢理口の端に指を突っ込まれ、固く閉じた唇をこじ開けて舌が入って来る。咥内を厚い舌が這い回って、本気で戻してしまいそうだとすみれは思った。


(キモチワルイキモチワルイキモチワルイ)


「やっと声が聴けたな……イイ声じゃん、もっと鳴かせてやっからな………?」


 すみれの唾液を啜っていた男が身を起こし、舌舐めずりをしてそう言った後──すみれの上に覆い被さってきた。


(重い……!)


 暫くそのままでいたすみれは、男の寝息を確認してなんとか下から這い出た。

 ワゴンの洗面器で顔を洗い、水差しからコップにドポドポと注いだ水で、口を(すす)いだ。何度も漱いだ。

 やっと落ち着いて、タオルで顔を拭いながらその場に座り込む。


「うっ、う……うーーっ」


 タオルに顔を押し付けて、泣き声を押し殺す。


 その時、ドンッと扉が鳴った。ノックするような音ではなく、まるで体当たりでもしているような音だった。

 すみれは恐怖で座り込んだまま動けない。


(まだ……まだ、何か起こるの……?)



前話カイルがカインになってました(二ヶ所も……)現在は修正済みです。毎日更新に必死になっていると校正がおろそかになりがちで……気を付けます!

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