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氷砕の剛腕令嬢の人脈

 第二王子の了解を得るやいなや、グレイシアは早速第二王子の側近たち、グレイシアの学友、そして父アルジーベ卿へと協力を仰いだ。グレイシアは逡巡という言葉を知らなかったので、決断が早く行動も早かった。

 翌日。早速、王子とグレイシアは外に出ることになった。


「なんてことだ。夜の外出なんて僕がしてしまったら」

「まあまあ」


 空を見上げて顔をこわばらせる王子を、グレイシアは宥める。

 二人の外出はーー空が茜色から藍色に更けていく、夜が始まろうとする時刻だった。


 背中を押すグレイシアに渋々馬車に乗る第二王子。二人を乗せた馬車が向かったのは、王都の商業地区だ。

 夕暮れの商店街は商品を売り切ってしまいたい昼の人々と、これからが本番の夜の人々が交錯して賑わっていた。


「グレイシア、本気なのかい」

「大丈夫です。私が一緒におります」


 外に出る、それも民の前に出ることに緊張する第二王子の隣でグレイシアは首肯する。グレイシアは銀に輝く婦人用のアーマードレスを纏っていた。

 手甲をはめた手をわきわきとしながら、グレイシアは自らが血湧き肉躍ってくるのを感じた。


「懐かしいです、卒業後もアーマードレスを着られるなんて気分が高揚します」


 グレイシアは学園卒業後はずっと花嫁修行をしていた。花嫁を目指す令嬢にとって必要な基礎教養がほぼ赤点だったので、その補填のためだ。

 そのため鎧を着る機会がなかった。

 今日のグレイシアは背筋を伸ばし、防刃加工の施されたスカートを翻し、ポニーテールに結った銀髪を靡かせている。

 婚約者の姿を見て、第二王子は何とも言えない溜息をついた。


「君が三姉妹の凡庸な次女って噂、嘘にも程があるだろ……」


 ほくほくするグレイシアの隣に立つ王子も、魔術師用の衣に特別製の目出し帽、そしてサングラスをかけている。

 二人はそのまま、商店街を守る騎士の詰所へと向かった。


「シャテンカーリ第二王子殿下、アルジーべ公爵令嬢グレイシア殿、ようこそいらっしゃいました!!」


 詰所には夜警の騎士達がいた。

 王子を迎えて、彼らはビシッと音を鳴らして敬礼する。

 一番偉い腕章をつけた口髭がダンディな中年騎士が出てきた。


「おひさしゅうございますな、グレイシア殿」

「お久しぶりですレンべラント男爵。今宵はご協力感謝いたします」

「なに、『氷塊砕きの豪傑令嬢』の頼みとあれば騎士は皆喜んで力になりますよ」

「……何だその、氷の令嬢ならともかく、氷塊砕きの豪傑令嬢って」


 隣で一人呟く第二王子に、グレイシアは彼を紹介した。


「殿下。彼は学園時代、剣術の師匠を務めてくださったレンベラント男爵です。今は日中は学園の講師、夜は夜警の責任者として務めていらっしゃいます」

「第二王子の重要なご公務にお力添えできますこと嬉しく存じます」


 あまりにもナチュラルに受け入れられ、手を差し出され、第二王子は一瞬ぽかんとしてしまうーーが、こほんと咳払いをして手を差し出す。


「レンベラント卿。王都の治安維持、いつも感謝する。今宵も頼むぞ」

「勿体無いお言葉。ありがたく存じます」


 その後。

 第二王子と騎士たちの儀礼的な挨拶をすませ、詰所で今夜の警備について打ち合わせたのち、ついに夜警に赴く時間となった。

 詰所から出れば、外はとっぷりと更けていた。


「夜、だな……」

「ええ、夜ですね」


 図らずも、王子の手は緊張で震えていた。

 その手にそっと、手甲で完全武装のグレイシアの手が重なる。

 王子はサングラスの中で目を見開く。

 そんな彼に、グレイシアはしっかりと、強く頷いた。


「では……顔を、晒すぞ」


 皆が固唾を呑む中でーー第二王子は震える手で、サングラスと、頭を覆った目出し帽を外す。

 ゲーミングカラーな頭部が、夜の街をギラギラと照らした!

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