Vtuberが配信中に公開出産する話
「ハローワールド、水国ヨウだよ。 今日はヴァロラントをやっていくよ。」
画面に向かって語り掛ける妙齢の女性がアニメ声でコメントを読みながらゲームを実況している。 その光景は一見すると遊んでいるように見えるがれっきとした生業である。
そう、彼女はいわゆるVtuberというやつだ。 そんな彼女の放送のコメント欄を別のPCで監視している俺は彼女のマネージャー兼彼氏で、彼女のモデルや配信画面、配信環境などは全て俺がセッティングしている。
元々は会社でSEをしている俺に突然「Vtuberやってみたいからどうすればいいのか教えてよ。」と話しかけたのがきっかけだ。 それから色々と相談に乗っている内に俺の家に転がりこんで今や個人Vtuberではそこそこ稼げるぐらいには人気になっている。
お決まりのお別れの挨拶を告げると、配信を終了した彼女が俺に向かって笑顔で話しかける。
「あのね、実は君に大切な話があるんだ。」
彼女が下腹部をさすりながら俺の袖を掴むと俺にも下腹部を触るように促す。 俺は促されるままに下腹部を触ると何かの気配をかすかに感じる。
「実は君との新しい命を授かったんだ、だから明日は産婦人科に行こうよ。」
俺は戸惑いながらも頷くと「そうだな。」と呟きながら配信を終えた彼女にベッドに誘導すると同じ布団の中に潜り、朝が来るまで目を瞑っていた。 明日になれば産婦人科で詳しい事が聞けると思うがその日は何か嫌な予感がして中々寝付けなかった。
次の日、産婦人科に向かうと彼女が色々な検査を受けている間に別室に呼び出されると、先生にいつくか質問をされる。
「すみませんね、ですが貴方にはお伝えしないといけないと思いまして………」
何か言いにくそうな顔をしている先生に対して俺は「なんでも言ってください、はぐらかされるよりも口に出して頂いた方が此方も楽です。」と答えるとしばらくして先生がぽつりと話し始める。
「実はですね、彼女の女性としての機能は既に失われているんですよ。 度重なる堕胎の結果でしょうね。 ですが今回妊娠したのは奇跡としか言いようがない、これが最後かもしれないので是非とも無事に出産して欲しいですね。」
先生が話し終わると丁度彼女の方の検査も終わったので彼女と一緒に帰る事になった。 彼女の手には真新しい母子手帳が大事そうに握られていた。
新しい命がすくすくと育って、とうとう臨月に差し掛かろうとしていた時に事件は起こった。 お腹の大きくなった彼女は相変わらず配信を続けていて、俺は彼女の配信のコメントの監視をしていた。
「今日はね、大事なお知らせがあるんだ。 実はヨウのお腹には赤ちゃんがいるんだよ。」
彼女がいきなりファンに告げると俺は青ざめながら彼女の配信部屋のドアを開けようとするも鍵が掛かっていて開かない。
「それでね、ヨウ友の皆には今から新しい命が生まれてくるところを応援して欲しくて自宅分娩配信したいと思います!」
何度もドアを叩くも一向にドアが開く様子が無かったのでモデレーターとしてチャットに書き込む事にした。
「水国ヨウのマネージャーのクロネコです。 彼女にはパートナーがいるのは事実ですが、彼女のパートナーは性同一性障害を持った元女性で戸籍上は男ですが生殖能力は一切ありません。 また、彼女の女性としての機能も既に失われているのでそもそも妊娠自体が不可能なのです。」
そう、俺は元女性で彼女にもカミングアウトした上でパートナーとして同棲していたのだが何故か彼女は妊娠していたのだ。 俺のコメントを見た彼女は声を荒げながら普段聞いたことも無いようなトーンで配信を続ける。
「嘘だ! マネージャーだなんて! この人が私の旦那さんなんです! ちゃんとエッチもして妊娠した時も喜んでくれたのに! なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……… うぅ、生まれる………」
WEBカメラで彼女の部屋の一部が映し出されるとお腹を抱えた彼女の姿が顔が見えない状態でネットに公開される。
「みんな……… ヨウの赤ちゃん生まれるところ……… 見ててね………?」
彼女のお腹から羊水が滝のように流れ出すと、その勢いでお腹の中にいたモノが吐き出される。 それを彼女が拾い上げるとカメラにアップで映し出されて、その姿は複数の胎児をより合わせて出来た肉塊人形と形容すべきだろうか? その肉塊を持った彼女がドアに近づいて来るのが配信に流れている。
「ここは○○さんに似てるね、ここは今の事務所の社長でここは高校の頃の彼氏に似てるかな? パパに挨拶しないと……… そっか、ドア開けなきゃ。」
俺はドアが開く音も聞かずに玄関から走って逃げた。 とりあえず連絡のつく彼女の知らない俺の友人に頼み込んでタクシーで逃げ込ませてもらった。 俺が友人の家に着くまで配信は流れていたが、内容は彼女が家の中をさ迷いながら俺をひとしきり探した後でカメラに向かってニッコリと笑いかけながら一言。
「これからも私と新しい命で配信していきますので皆さん応援してください。」
そうリスナーに笑いかけると自室から玄関に向かうところで配信は終わっていた。 俺はあの日以来、あの部屋を引き払い、職場も異動願を出し地方に引っ越しした。 だが、定期的に彼女とあの肉塊の配信があり、徐々にこちらに近づいている様子を配信しているのだ。 まるで逃がさないと言わんばかりに何処に行こうが確実に近づいて来るのをWEBカメラに映し出しながら………