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MIB 2nd contact  作者: 光輝
■3話:次世代ゲーム夢幻
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3-1:次世代ゲームの体験チケットパス


「今回の依頼人はここにいるのね」


タクシーから降りたエレナとミシェルは、夏晴れの日差しに目を細めた。

照りつける駐車場を過ぎ、依頼人の待つガストコの扉を開ける。

出勤前の会社員達が手早く朝食をとるのを横目、つきあたりの席で縮こまる女学生に悠々と歩み寄った。


「ハイ、初めまして依頼人さん。エイリアン・バスターズよ」

エレナはサングラスを上げ軽快に、女学生の向かいに腰かけた。


依頼人の女学生は、見たところエレナ達より年上のお姉さんだ。

いかにも今時の若者というか、流行りの派手な身なりが印象深い。ただ、涙でメイクはひどいありさまだった。泣きはらした頬にはマスカラの痕が筋を作っている。


驚いた女学生は、エレナ達に怪訝に眉を潜め、噛みつくように口火を切った。

「はぁ!? ……あなた達がエイリアン・バスターズ……!? まだ子どもじゃない!」


それにミシェルはわざとらしい溜息ひとつ、女学生の隣にやっつけに腰を落とす。

「暇を盗んでわざわざ出向いてやったのに、随分な言い草だね」

高身長もあって女学生をやや見下ろし、冷たく言い抑えた。「リサ(ハンスの彼女)の紹介じゃなかったら、席を改めるところだよ」


エレナはまぁまぁとさあらぬ体で手をひらつかせ、調査用書類をデスクに広げつつ女学生に向き合う。

「確かに頼りなく見えるかもね。でも、もしかしたらあなたの力になれるかもしれないわ。私はエイリアン・バスターズのリーダー、エレナよ。あなたは?」


差し出されたエレナの手を見て、女学生は気に染まない面で、おざなりな握手を返した。

「……ナディア」

女学生ことナディアはそう言って、糸が切れたように頭を抱えた。くたびれた溜息とともに、震える両手で目元を覆う。

「最ッ悪……。リサが信用できるっていうから期待してたのに……! まだうちの大学のオカルト部の方がマシよ……」


エレナはかまわず、レンズごしにナディアを視た。

おだやかにゆらめく虹色の先……ナディアに取り巻く煙がうっすらと見える。


(痕跡がまだ新しい。ナディアは何かエイリアンに関わったようね)

エレナはレンズを下げ、ミシェルに目配せる。そして、さてと仕切りなおした。

「ナディアが私たちを呼んだのは、オカルト的な事情からよね。何があったのか、詳しく教えてくれない?」


そのエレナの言葉に、重い溜息と共にナディアの目じりが潤む。

「……言っとくけど、クスリとかやってないし病気でもないから。……」

そう呟くように言って、最初こそぽつぽつと、やがて怯えたように言葉を紡いでいった。



事の始まりは2日前のこと。

ナディアは抽選で〔次世代ゲームの体験チケットパス〕が当選したそうだ。

それはそれは夢のようなホラーゲームを体験したわけだが、会場を出てから妙な感覚に襲われたという。

突如ありもしない存在や、声……平たく言えば幻聴や幻覚が、波のようにナディアを包み込んだのだ。しかし他のプレイヤーに、ナディアと同じ体験をした者はいなかった。

幻覚や幻聴は収まらず、それどころかひどくなる一方。藁をすがるように病院のドアを叩くも、検査結果は全て問題なし。

霊能者も精神病院をすすめる始末で、廻り廻った結果……エイリアン・バスターズに依頼をする流れとなったのだった。


「見えないものが見えたり、聞こえたりするの……。今も血まみれの女性があなたの手をずっと握ってるけど、きっといないんでしょ……」

「ええ。いないわ、ナディア」

エレナはきっぱりと返した。以前も似たような事件があった事を思い出しながら。


「……。アパリッショナル型かな」とミシェル。

エレナは視線をナディアまま、やや首をかしげた。

「いや、どうだろう……ちょっと視え方がおかしいの、残光みたい。その〔次世代ゲーム〕とやらの会場に行って、直接確かめないとね」

エレナは言って〔次世代ゲームの体験チケットパス〕をちらと見た。パスの裏には住所や簡易マップが記載されている。どうということない、どこにでもありそうなデザインのチケットだ。


エレナ達が耳打っていた時の事。ナディアはふと膝に目をやって、突如悲鳴をあげて体をはたき始めた。

「む、むしが這い上がってくる、虫が!」


もちろん虫なんてどこにもいない。しかし椅子から転げ落ちたナディアは転げ落ち、わめき声まま足をバタつかせる。

あたりの客の視線が一気に集まった。傍から見たらヤバイ薬がキマッてるようにしか見えないだろう。

暴れるナディアをミシェルが抑え、エレナを見た。

「エレナっ」


エレナは頷き、すぐさまレンズ越しにタクティカルライトを当てる。虹色の光が、優しくナディアを照らした。

その瞬間、ナディアの悲鳴が溶けるように消えた。店員が何事かと駆けつけた時には、ナディアは唖然とあたりを見渡していた。

店員が声をかける前に、ナディアが堰をきって大きな声をあげる。

「あ……ッ消えた……周りの幽霊も幻聴も全部消えたわ……ッ! うそ、ああ、信じられない! エレナ…ありがとう! ありがとうッ……!」

泣き縋るように、ナディアがエレナに抱き着く。エレナはナディアの背をさすってやった。

「このレンズが効くってことは、ナディアは幽霊じゃなくてエイリアンに干渉されたってことなの。もう大丈夫よ」


興奮さめやらぬその様子を横目、ミシェルがやれやれと椅子を片付け、店員に迷惑料を忍ばせる。訝し気だった店員は、分厚い札に満面の笑みをこぼし「よい1日を」と持ち場へ戻っていった。


さてとエレナはナディアにハンカチを添え、陽気にウィンクしてみせた。

「ナディア。第二の被害を出さないために、あなたを苦しめた〔次世代ゲーム〕の会社を暴いて、キッツいお灸をすえてあげる。あとはこのエイリアン・バスターズにまかせて」


……・……


賑やかな昼休み、エレナ率いるエイリアンバスターズ一行は、食堂で打ち合わせをしていた。

吹き抜けのガラス窓の外では、緑あふれる中庭で生徒たちがほのぼのとボール投げをして遊んでいる。


そんな穏やかな風景をよそに、桜蘭がびっしりと書き詰められた地図を広げた。

「ナディアさんが訪問された〔次世代ゲーム〕のビルは〔夢幻ビル〕という貸出ビルで、チャイナタウンのそばですわ。ここ一帯は桜連合直系カデンツが締めております。見締料(みかじめ)も徴収しているはずですわ」


エレナが人参スティックを煙草のように咥え、椅子の背をしならせる。

「見締料って確か、用心棒代とかよね? カデンツの島なら、カデンツのボスである桜蘭の口添えがあると心強いんだけど」


カデンツ頭目の桜蘭は、静かに首を横に振った。

「チャイナタウン周辺は様々な派閥が街の利権の食い合いをしておりますの。……といっても所詮、裏で手を組んだ睨み合いです。複数の組織で睨み合ってる限り、外の組織は入り込めませんから。本気で潰し合っているのは何も知らない下っ端だけです。だからこそ、私が顔を出すわけにはいきませんの」


エレナはひとつ頷いた。

「OK! じゃあ桜蘭は待機ということで、店番よろしくね」


「ええ。何かございましたら、いつでもご連絡ください」

桜蘭は穏やかな笑みで、エレナ達に頷いたのだった。




副担任ロレンツォは、職員室で何とも言えない溜息をついた。

ため息の先に、自分のデスクに置かれたお弁当の包みがひとつ。担当からの手作り弁当だ。


他の同僚いわく、担当は歴代副担任にはとことんアタックするらしい。

捨てるわけにもいかず、かといって食いたくもないし、何より食ったら終わりな気がする。


ロレンツォからすると、担任は年齢も近いほがらかな女性だ。だがどこか裏がある気がして仕方なかった。それは、言葉にできない違和感だった。


どうしたもんかと腕を組んだ時、ふと廊下を駆ける音に顔を上げた。その足音たちは職員室前で止まり、ドアを大きくスライドさせる。

我が物顔でずいと踏み込んだのは、エレナとミシェルだった。


「センセ! 今すぐ車を出して」

エレナは開口一番そう言って、大きな地図を突きつけた。


ロレンツォは地図を見ずに下げ、エレナに顔をしかめ返す。

「はぁ? ふざけてんのか? 今何時だと思っ……」言いかけ、あたりの教師達の視線に咳払いひとつ。

「遊びは学園が終わってからにしなさい。ほら、昼休みが終わるから、早く教室に戻って」


それにエレナがまばたきひとつ。大呆れに肩眉を下げて腰に手をやった。

「この私が出せって言ってるのよ。遊びに行くんじゃないの、部・活・動。いいからとっとと出しなさいよ」

がんとして譲らないエレナがツンと目を細める。なんとも生意気な面だ。


「お前な~……」ロレンツォはあたりに聞こえないよう、啀みに囁いた。

「どうせまた巨大ネズミ退治だろ、そういう遊びは放課後にやれってんだ。俺だって仕事があるんだよっ」


ロレンツォの言葉尻をかき消すように、エレナが大きく声をあげる。

「顧問風情が部活動放棄するわけ? 言っとくけどうちの部はこんなの日常茶飯事だから。いいからとっとと車を出しなさいっつってんの」


それにロレンツォが苛立ちまま、小ばかに鼻で笑い返した。

「そりゃ~随分な部活動だな部長サンよ? 授業サボって巨大ネズミを退治しに行く写真部のどこに日常ポイントがあるか教えてもらいたいもんだね」

言って、床に向けて人差し指をおおきく突き向ける。「ちょうどいい、ツンツン頭も呼べよ。揃って廊下に立たせてやる。首から〔授業さぼり魔です〕って看板をブラ下げりゃ、自分がいかにアホ言ってたかわかるだろうよ」


2人のやり取りに、ミシェルが肩をすくませた。周囲の教師たちは嵐が過ぎるのを待つように、じっと身を縮こませている。

それにミシェルがじろりと目を光らせ、教師たちはそそと職員室をあとにした。

いがみ合う2人をなだめるように割って入ったのは学園長だった。

「あの、エレナさん……出張ですか?」と。学園長は、まるで社長の娘にゴマをするかのような笑顔だ。

「ミシェルさんもですね。どうぞどうぞ、お気をつけて行ってらっしゃい。ささ、パッツィーニ君、早く準備をしなさい。あとはみんなでやっておくから」


その様子にロレンツォはあんぐりにエレナを見た。エレナはそれみたことかとウィンクを返す。


「さ、行くわよセンセ!」

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