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MIB 2nd contact  作者: 光輝
■2話:暗渠の死体
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2-1:顧問ロレンツォ

「えー、では写真部の管轄および顧問は、ロレンツォ・パッツィーニ先生に一任ということで……」


学園長の通達に、ロレンツォは内心ガッツポーズをとった。

写真部とは、生意気なあのエレナ・モーガンが部長を務める部だ。

生徒の間では〔なんでも屋〕として活動しているそうだが、写真部を逐一監視することができれば、ツンツン頭のボロが出るのも時間の問題に等しい。


端的な職朝を終え、廊下を出るや否や、副担任ロレンツォは担任にやたらめったら絡まれた。

間延びした喋り方のおっとりとした担任だが、どうも根はそうではないらしい。

「パッツィーニ先生、写真部の顧問を本当になさるんですか~? これまで皆、1週間ももたず顧問辞任されてるんですよ~」

「そうらしいですねー」

ロレンツォが右から左に会話を終了させるもまだまだ食いついてくる。担任はロレンツォの首から下がるカメラに話題を向けた。

「レトロなカメラですね~、今度教えてくださいませんか~? 私、アウトドアに興味があって~」

「や、忙しいんでちょっと無理です」


ちょうどその時だった。

「おはよーございまーす」

金色のポニーテールがうんと追い越し、先を行く。エレナだ。ロレンツォは目覚めたようにその肩を掴んだ。

「廊下を走るなバカ。教師の前でいい度胸だな、エレナ・モーガン」


ややバランスを崩したエレナは一歩よろめき、ロレンツォを文句ありげにじろりと見た。

「走ってませーん、競歩ですよ? いきなり肩を掴むとか危ないな~」

エレナは言って、フンと腰に手をやる。まあいい、遅刻したらロレンツォのせいにできるのだからと。


「いーや、走ってた。職員室でも話に出たが、お前はかなりの問題児だそうだな。顧問が何人も辞めたんだって?」


担任はそれを1歩引いて見ていた。ロレンツォに絡んでいるのを見られたのが恥ずかしかったのか、そそと気まずげに先を行く。

それを軽く見送ったロレンツォは一息つき、ムクれるエレナに指をつきつけ、ドヤ顔で言ってやった。


「今日から写真部の顧問は俺だ。ツンツン頭の野郎をとっちめるまで、逐一監視してやるからな? 部長サンよ」


それにエレナが当然至極に肩をすくめてみせた。

「おつかれさま~。言っとくけどうちの部はハードだから、どっちかっていうとお気の毒様?」

言って、ふと視線がロレンツォの首から下がったカメラに向く。

「……あっ! オリンプスのミラーレス一眼じゃん。センセーの?」


ロレンツォはそれにちょっと驚き、写真部の部長ってのは伊達じゃないかと片眉を上げた。

「へ。昔ちょっとやってたからな。顧問っぽいだろ」

紐を摘んでカメラを振ってみせた。その顔のなんと得意げなこと。


エレナはそんなロレンツォがちょっとおかしくて、フゥンと顔をあげた。

「うわ~それで盗撮してるんだ……」


その返しにロレンツォがギョッとした。

「はぁッ!? ちょ……人聞きの悪い事を言うな! 誰がするかそんなの!」

「でも昨夜、隠し撮りしてたじゃん」


ロレンツォはぐうの音もでなかったが、なめられぬよう勢い殺さず言い抑えた。

「あれとこれは別のカメラだ。このカメラは、若い頃バイト代をせっせこ貯めて買った思い出のカメラなんだよっ。ガキの勘繰りと一緒にすんな」


クレーマーを小馬鹿にするように頷いたエレナは、得意げに身を翻し、余裕な笑みで手をひらつかせる。

「あっそ。じゃ放課後、部活あるから。よろしくねー、センセ」

言って、今度はちゃんと競歩で教室へと消えたのだった。


「ったく……生意気なガキンチョめ」

ロレンツォはフンと鼻で息をつき、エレナのあとに続いていった。


……・……


そして、放課後。

終業のベルが鳴り、生徒達が賑やかに帰宅を始める。

エレナもさてと荷物もまとめ、写真部兼オカルト研究部へと向かった。


(今夜はグレムリンの巣を叩く日ね。十分な打ち合わせをしないと)

きしむ古床に土ぼこりのいつものにおいを胸いっぱいに、エレナは王者のように部室のドアを開けた。


桜蘭は優雅にお茶とマカロンを並べていて、部室中央の大きな黒塗りのデスクにはミシェルがマップや資料が広げている。

エレナは大きく両手をつき、皆と見合った。

「今日はグレムリンの巣を叩く日よ。みんな、頑張っていきましょ!」



打ち合わせすることしばらく。少し遅れて顧問のロレンツォがドアを開けた。

盛り上がる3人を横目、なんとも気だるげに傍の椅子に腰掛ける。


さてとロレンツォは肘をつき、こめかみに指をやって目を眇めた。

顧問には部活動指導義務がある。学校教育の一環として、教育課程との関連が取り組まれているかどうかなどだ。

しかし目の前の活動はカメラや写真の話題は一切無く、やれグレムリンだの暗渠だので盛り上がっている。


(これにどう報告書を書けってんだ? 写真部は巨大鼠の駆除について話し合いをしていました、と?)


ロレンツォは大きく足を組んで、盛り上がる3人に声を投げた。

「巨大ネズミ退治にせいがでるね。写真部より巨大ネズミ部の方がいいんじゃないかー?」


それにチクリときたか、ミシェルがツンと顔を上げる。

「写真部じゃなくて、写真部兼オカルト研究部だよ。後者の意味わかる?」

ロレンツォは小馬鹿に片眉を上げ、話にならないといった様子で手をひらつかせた。


エレナがちょっと顔を上げ、人差し指を床に向けた。

「センセ、悪いけど今ちょーっと忙しいの。シット(お座り)」

シット(お座り)の言葉にロレンツォが目を丸くして、うんざりに顔を逸らす。

「け。犬かよ」


桜蘭がお茶のおかわりをデスクに差し出し、さてとデバイズのマップを展開した。

「お二方、先公に気を取られている場合ではありませんわよ。今この間にも、グレムリンは繁殖していますわ」


桜蘭の言葉に頷いたエレナとミシェルは、さっさと打ち合わせに戻ったのだった。


ロレンツォはフンと鼻でため息をついた。昨夜の疲れもあって目蓋が重い。

昨夜ゲーセンであんな事があったというのに、エレナ達はけろりとしている。

あれが若さなんだろうか、とつぶさに思った。立ちっぱなしの前かがみでマップに食い入る体勢も、自分なら椅子を用意しているところだ。


(でも、俺も若い頃は、あんな風に元気だったな……)


若い頃は、向こう見ずで怖いものがなくて、なんでも興味があって熱意も無限で、体力も底抜けだった。

色々あって夢を諦めることにはなったものの、いつかは誰かと家庭を築き、漠然とながらも子どもとかできるんだろうと思っていた。そのままズルズル時がたち、気付けば27だ。


(……この間まで17だったんだぞ、俺は)


みずみずしい声がさざなみのように思考を揺らす。どこか心地いいそれは、まるで湖の船に揺られるように穏やかだった。



小さないびきにエレナがはたと振り返る。

「……うっそ、寝てる」


打ち合わせを終えたエレナ達は、ぐうすか眠るロレンツォをそそと見下ろした。まったくもって隙だらけだ。


「ははっ。これまでの顧問はマリア叔母さんからのスパイがちらほらいたけど、これはないわね。警戒して損した」

エレナがご機嫌に声を潜ませる。ミシェルは気抜けに肩をすくませ、呆れる桜蘭と見合ったのだった。


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