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MIB 2nd contact  作者: 光輝
◆読切◆
21/37

読切:青の中心命題(1)


それは、真夜中のことだった。

自作のラジオが雑音を流し、ふと断ったかのように静まり返る。


妙な沈黙に僕は首を傾げ、ラジオのツマミをひねった。

「あ、あれ……? ち、チャンネルが変わらないな……」

帯電反応でもしたのかと思ったけど、ラジオは続けてこう言ったんだ。


『……おいオマエ、ヨの声が聞こえるか?』


……・……


放課後の部室では、深煎りコーヒーの香りが漂っていた。

カップは2つ。1つはロレンツォ、もう1つは今回の依頼人アレッサンドロにあった。


ロレンツォはコーヒーを一口、ちらとアレッサンドロを見た。

対面のアレッサンドロは、茹ですぎた肉のような肌色だ。巨躯の割に手足は細く、髪もぼさぼさで清潔感が裸足で逃げたようなナリをしている。挙句、爪を噛んでは独り言ちるように話すのだ。他校の生徒とは聞いていたが、アクティブでないことは見てとれた。


そんなアレッサンドロとロレンツォの間には、1つの自作ラジオがあった。アレッサンドロいわく、このラジオが語りかけてくるという。

ロレンツォはさわりだけ聞いて、自作のラジオとやらに目を落とした。なんてことない、普通の日本製のラジオだ。


廊下では、エレナ達が賑やかにお喋りをしていた。スリガラスごしにエレナのポニーテールが揺れる。

「いいでしょこのリボン、アンヴェガのデザインなのよ」


「あら、お上品ですわね。さすが歌姫アンヴェガさん、素敵な監修ですわ」

おっとりと桜蘭が笑い、その隣でミシェルが大きく頷いた。

「うんうん、エレナは何をつけても可愛いね」


そんな賑やかな廊下に向かって、ロレンツォが声を投げる。

「おーい、もうちょっと声をおとしてくれ」

それに声が鎮まるのも一瞬で、ささやかな耳打ちと小さな笑い声が続く。

ロレンツォはやれやれと腕を組んだ。


挿絵(By みてみん)


「ええと、アレッサンドロくん。いきなりラジオが鳴らなくなったっていってもな、廃品寄せ集めの自作ラジオなんだろ?

ラジオの近くに無線LANのモデムとか置いてないか? ラジオは弱い電流でも受信するから、帯電程度でも音が鳴ったりするんだよ」


それに突如、アレッサンドロが振り千切ったかのように声を荒げ立ち上がった。

「ほ、他の無線機器は受信しなかったしッ!! 送信機を特定しようと新型測定器の高感度レシーバを使ってもむ、っ無理だったから!」


感情あらわの様子に、ロレンツォがあっけに目を丸くする。小学生の頃、クラスにこういう奴が1人いたなとか思いながら。

アレッサンドロは興奮まま足を鳴らし、背を丸め裏声まま歯を食いしばった。

「だからッどうしてひどいことをいうッ! レディオはいる! わ、笑うなーッ!」


ロレンツォは強盗をなだめるかのように、及び腰に両手を前にやった。

「お、おお。落ち着けアレッサンドロ。俺が悪かった。頑張ったんだな、よくわかるよ」と。


丁度その時だった。勢いよく部室のドアが開かれ、いかにもご機嫌斜めのエレナがアレッサンドロに詰め寄る。

「ちょっと。うちのわんわんをいじめていいのは私達だけなんだけど?」

襟首を掴む勢いで吠えたエレナが、あからさまな営業スマイルに切り替わる。そして、指先をこめかみでくるつかせた。

「ラジオが話しかけてくるって、病院には行った?」


廊下では、桜蘭が高そうな扇子で口元を隠していた。アレッサンドロに向けられたその目は、まるでゴキブリを見るかのようだ。

「個性的なお声ですわね……。私、少々用事を思い出しましたので失礼しますわ」

桜蘭はそう吐き捨て、とっとと部室を後にした。


「桜蘭は相変わらずヒトを選ぶね」

桜蘭を見送ったミシェルが言って、肩をすくめてアレッサンドロを見る。「ハンスの紹介とはいえ、相変わらず彼は交流のふり幅がすごい」


そんなエレナ達を廊下に出したロレンツォが、ドアの両縁に大きく手をやり言い抑えた。

「あのな、お前ら。アレッサンドロくんは女子が苦手だって言ったろ? 廊下で大人しくしてろ」

そう言って、手でシッシと追い払う。向き直って、慣れっこにソファに腰をおとした。「悪いな、じゃじゃ馬ばかりで。続けてくれないか?」


アレッサンドロは被害者意識丸出しに呼吸を整え、恐々とソファに座り直した。そして最初こそぽつぽつと、自作ラジオことレディオとの不思議な日々を語りはじめる。

「れ、レディオは、僕の大切な相棒なんだ……」


アレッサンドロはレディオとの日々を、一つずつかみしめるように語った。

レディオのお願いで外に出るきっかけを得たこと、引き籠り生活を脱したこと、バイトの面接を後押ししてくれたこと。

初めてレディオとコンタクトしたその日から、2人は日常を語り合い、時に笑い涙して、いつしかお互い無くてはならない存在となっていったのだ。

しかし穏やかな日常は、突如終わりを告げたらしい。


「……き、急に雑音が入るようになって、もう話すことはできないって……その日から、レディオはうんともすんとも話さなくなったんだ。ツマミをひねっても、ただ雑音が流れるだけ……」


話を聴き終えたロレンツォは、ふむと無精髭を親指で撫ぜた。

「……で、そこから音信不通ってわけか」と。


アレッサンドロはうなだれるように頷いた。

「レディオに、何かあったのかもしれない……で、でもどうしようもできなくて……バイト先のハンスに相談したんだ」


一通りの事情を聴いたエレナが、やおらドアを開けレンズを掲げる。

「ま、とにかく視てみないことにはね」

おだやかにゆらめく虹色の先……ラジオのロッドアンテナが、振動しているように視える。エレナは視もって、その伸縮ロッドアンテナを指先でつまんでみた。

「これが揺れて視えるわね、この……なに、金属の棒? あっ簡単にとれた」

ラジオを初めて触ったエレナだが、そのロッドアンテナはなんてことない金属の棒だった。「わ、あったかい。バターナイフみたいに熱が伝わりやすいんだ」


それにミシェルがエレナの手を覗き込み、ちょっと首を傾げる。

「ん? よくあるロッドアンテナじゃないよコレ」


ミシェルに振られ、ロレンツォが訝しげにアンテナを手に取った。

「ああ、言われてみれば確かに。クロムメッキ(水道蛇口やトイレパイプみたいな色)じゃないな。微妙に金色に近くて虹彩色がある。なんの金属だろう? 研究センターに行けば機械分析できるんだがなあ」


エレナがふと顔を上げた。

「ねえアレッサンドロくん、ラジオは手作りだって言ったわね。このロッドアンテナはどこで手に入れたの?」


アレッサンドロが飛び上がるように驚き、そそとロレンツォの背に隠れた。

耳打ちに頷いたロレンツォが代返する。「飼い犬が川辺で拾ってきたらしい」と。


エレナはアレッサンドロにやや呆れつつ、ロッドアンテナをペンのように回して見せた。

「アレッサンドロくん、これは地球外の文明の産物よ。あなたは幻聴じゃなく、はっきりと誰かと通信していたのね。でも、このままフェードアウトした方がお互いのためかもしれないわ。私たちは色んなケースをみてきた。似た案件で、相手が手のひらを反して大ごとになった事もあるんだから」


それに一瞬、アレッサンドロはためらった。ためらって、誓うように唇を結う。そして、決意ままにエレナを見た。

「……れ、レディオは大切な相棒なんだ。この目で無事を、確かめたい」


エイリアン・バスターズは静かに見合った。エレナが大きく頷き、アレッサンドロに向き直る。

「OK。今日の授業は昼までだし、これからラジオの発信源に向かいましょ。エイリアン・バスターズ、捜査開始よ!」


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