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1話

全年齢版は初投稿です。


御覧いただきありがとうございます。

 気が付いたら右腕が無かった。


 どこから記憶が無いのかも分からない。ただとにかく右腕が肩からばっさり無くなっている。驚くとかそんな感情は出てこなかった。無。意味不明すぎて考えることを放棄していた。


 ただ出血は無く、傷口は塞がっていた。身体や服に土や泥などの汚れはあるが、それ以外は特に外傷も無い。


 辺りは深い樹海。緑で囲まれ、動物たちのせせらぎが聞こえる。私は行き倒れたのか、それとも捨てられたのか。何にせよ周りに人の気配は無い。


「左腕はある…」


 何も考えられなくなったところだったが、左腕の存在を確認した私は少しずつ落ち着きを取り戻してきた。


 私の名前はリンダ。リンダ・マーシュ。


 段々と右腕が無い理由も思い出してきた。そうだ。私は逃げていた。どこから…


「研究所…マーシュ研究所…」


 自然とその名前が口から出ていた。マーシュ研究所から私は逃げ出していたはずだ。右腕は研究所の追手にやられたと記憶している。


 だがここはどこだ。どこの樹海だ。研究所からは逃げ切れたのか。今度の私は思考に取り囲まれた。右腕以外に傷は無い。足も動く。


 私は立ち上がり、とにかく前へ前へと歩いた。樹海の外へ向かっているのか、奥地へ歩いているのかは分からない。ただ本能がここから離れろと言っているようで歩かずにはいられなかった。


「わ、私は…」


 歩いている最中、急に頭痛に襲われる。この痛みもどこかで感じたことがある。どこだ…私はどこでこの痛みを感じていた。


 網膜の奥で映像がフラッシュバックする。


 もやがかかって分からない。緑や青に光っているライトが見える。歩く音も聞こえる。男の話す声も聞こえる。どうやら私は部屋の脇に立っているようだ。


「―――――」


「―――――」


 何を言っているかは聞き取れない。私の前に立って何か話しているが、男二人の声はやはり聞き取れない。それに視界を覆うもやも晴れない。それにたまに泡のようなものが視界の下から上へ流れている。


 男たちは白い服を着ているのだろうか。それだけは確認できる。彼等は私の前にある壁を叩いた後、男たちは不敵に笑って、去っていく。


 そこで映像は途切れた。


「っはぁ!? なんだ今の映像は…」


 頭を押さえてうずくまる。片膝をついて、口で呼吸をする。涎が垂れ流しになり、尋常ではない汗が服に染み込んでいった。共に身体が冷えていくのが感じられる。


「とにかくどこか人のいるところへ…」


 私は歩いた。不思議と疲れを感じることは無かった。木々の隙間から漏れる日光で今が昼であることは分かる。日が沈む前にどうにかこの樹海を抜けなければ。


「ん…?」


「グルル…」


 まずい。肉食動物だ。詳しい種類は不明だが、奴が私を獲物としているのは直感で分かる。戦うか、逃げるか、私には一択だった。逃げよう。


「追ってくるな。獣め!」


「グゥルァアアア!」


 4足歩行の獣は私を追ってどこまでもついてきた。だが私に奴を倒す手段は無いために、奴の腹に収まるか、このまま逃げ切るかの二択を迫られている。


「おまえさん! 伏せろ!」

 

 迫る獣を確認しながら逃げていると前方から声が聞こえた。私はその声に従い、頭を低く伏せた。その瞬間、銃声が鳴り響き、私の頭を掠めるようにして通り抜けた銃弾が獣の眉間を貫いた。


「死んでいる…」


 獣は一撃で屠られたようだ。もう動くことは無い。


「お前さん、こんなところで何やってんだ」


「私は…」


「ってお前さん、腕どうしたんだ!?」


「これは…」


「まあいい! 近くに俺達の村があるから、ついてこい!」


「…」


 彼は私に喋らせる気はないらしい。背負った身の丈ほどもある大きな銃、腰に携えた短剣、そしてあの獣を持って帰ろうとしている点から、この辺りの猟師、狩人なのだろう。革のテンガロンハットが良く似合っている。


 私が呆けているうちに、せっかちな彼は獣の角を持ち、引き摺って村へ帰ろうとしていた。


「来ねえなら置いてくぞ~」


「ま、待ってくれ」


 私は見失う前に彼の背中を追った。


 それから暫く歩くうちに、樹海を抜け、見晴らしの良い丘に出た。太陽が燦燦と輝き、雲が風に乗って流れている。この景色を私は初めて見た。


「あそこが俺達の村だ」


 猟師が指さした方向には家屋が10件余りの集落があった。全て木造で、居住年齢層は見る限り高齢者が多いようだ。


 その周りには何もない。だだっ広い平原が広がっているだけだ。

 

「古い村だな」


「お前さんよく見えるな。まあジジイババアの多い村さ。お前さんみたいな若いのは久々に見た」


「そうか」


「ま、あと小一時間歩けば着く。頑張れよ」


 まだ歩くのかとも思ったが、それしか手段がない。村までの道中は猟師から情報を聞き出しながら、ついていくことにした。


「ここはどこなんだ?」


「そんなことも知らねえでいたのか。ここはバンダ村だ。この樹海はバンダ樹海。国の最南端にある小さな村さ。樹海は世界中でも有数の大きさらしいけどな」


 私はどれだけの時間逃げていたのだろうか。樹海の方を振り向くと木々が連なり、進めば進むほど闇に消えて、先は見えない。


 混濁した感情に塗れているうちに、いつのまにか村に到着していた。


「お前さんはここで休んでな。俺はこいつを吊るしてくる」


 こいつとはあの獣の事だ。獣はイノシシというらしい。臭いが食べれば美味いと彼は言っていた。私は恐らく彼の家であろう場所に案内され、ベッドを一つ提供された。家もベッドも木で出来た質素な作りだ。


「柔らかい…」


 私は何か懐かしいような柔らかさと暖かさに包まれ、襲ってきた睡魔に抵抗することなく、眠ってしまった。


「おまえ…なんだ寝ちまったのか…」


 何か声が聞こえたような気がしたが、私の睡眠は妨げることは出来ない。海に沈んでいくような感覚が私を包み、意識を遠のけていった。


「っ!?」


「何だもう起きたのか。お前さんが寝てから、まだ3時間ちょうどだぞ」


「思い出したぞ…」


 夢の中でもあの樹海で頭痛と共に見た映像の続きを見ていた。先ほどよりも鮮明な映像は記憶を取り戻すのに十分な情報を包み持っていた。


「猟師! 最近マーシュ研究所で何かあったか知らないか!?」


「わっかんねえなぁ。こんな国の端っこじゃ。てかそのなんちゃら研究所って何だ!?」


「マーシュ研究所を知らないのか…?」


 私は漁師に掴みかかった。猟師は驚いて、わたわたと手を動かしている。その様子からは本当に知らないようだ。私は非礼を詫び、彼から手を離した。


「とりあえず首都に行けばいいんじゃないか!? 何でも情報は揃ってるだろうよ。その研究所のことも分かるんじゃねえか」


「首都…どこだ…」


「アーゲンテインだ。明日にゃ御者が来る。それで首都までは行ける!」


「そうか。すまない…興奮してしまった」


「いや右腕もその有様だしな。あんな樹海のど真ん中でぶっ倒れてたんだ。混乱してるのも無理ねえよ。明日までゆっくりしていきな」


「あぁ…すまない…」


 彼の好意に甘え、家の一室を借りることとなった。しかし夜が更けても眠ることは出来なかった。目が冴えて、外で鳴く虫や蛙、鳥の声がどうも気になる。横になっていたが、どうにも落ち着かず、身体を起こして家を出た。


「それにしても、私は何と愚かなことを…」


 夢の中で見た映像の続き。それは私の正体の核心に迫る内容だった。映像はあの男たちが部屋を去っていった後から始まった。


 今度は白衣を着た女性が部屋に入ってきた。髪が長く、ぼやけた中でも線の細さから女性であると判断できた。その女性は男性らとは違い、こそこそと隠れるように辺りを見回しながら私の方へ寄ってきた。


「~~~~!!!」


 私を叩きながら何か叫んでいる。拳で何度も叩き必死にだ。だが私の身体は動かない。彼女が叩き続けている最中、緑や青に光っていたライトが一斉に赤く光り、けたたましい音量のサイレンが響き渡った。この部屋だけでなく、もっと広い範囲でサイレンは鳴っている。


 女性は項垂れて、私の前に拳をついて涙を流した。


 私は何をするでもなく彼女を見下ろしている。しかしその時、部屋の扉が音を立てて開いた。外からは大量の人間。それもかなり大柄なように見えた。手には銃を持ち、一斉に泣き叫ぶ彼女に向かって銃口を向ける。


「~~~~!!」


 彼女は身を翻して、私の前に両手を横に大きく広げて仁王立ちした。男たちに向かって何か叫んでいる。しかし激しい口論の末に、にじり寄った男たちが3人がかりで彼女を拘束し、銃の柄で彼女の頭を叩き、気絶させた。


 その時だった。今まで動かなかった私の身体が動いた。今は無い右腕を突き出して目の前の壁を破壊した。空いた穴から大量の水が抜け出て行き、視界が晴れた。そうだ、私はポットに浸けられて培養されていたのだ。だから水のベールによって前が良く見えなかった。男たちや彼女が叩いていたのは私のポットだった。更にポットを破壊し、外に飛び出る。


 彼等の声もよく聞こえるようになった。檻から飛び出した私は力を振り絞って、男たちを薙ぎ倒す。男たちの表情はどんどんと恐怖に飲まれていったが、奴らはどんどんと人数を増して襲ってくる。銃や刀、私の身体は先頭によって傷ついていった。しかし何故か傷口がみるみる塞がり、再生し、傷が増えることは無かった。


 全ての襲撃者を倒した後、女性の基へ駆け寄った私は意識を取り戻した彼女は私の頬に手を伸ばし、最後の力で言葉を紡いだ。


「逃げるのよ…また追手が来る。貴方はまだ生きなければならない。貴方に私の名前をあげる。あなたは今日からリンダ、リンダ・マーシュ…世界を救う人造人間…」


 そこで映像は途切れた。私の正体は人造人間。人工的に生み出された人間だ。


感想、評価などお気軽にお送りください。モチベーションにも繋がって、とても喜びます。

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