追放したな。よし、後はあいつが魔王を倒すようにハーレムで囲って誘導するぞ!
「ネオリマ、お前は勇者パーティーに相応しくない。ゴミスキルしか持たないお前……いや、貴様は僕達の恥だ」
とある宿の一室、そこに集まった四人の男女が一人の少年に視線を向ける。ネオリマと呼ばれた黒髪の少年は驚いたように目を見開く。
そして自身を追放すると言った煌びやかな鎧を着た金髪の青年に食いつく。
「何でだアマザ! 俺はずっとパーティーの為に頑張ってきた。みんなを支えてきたじゃないか」
そう叫ぶネオリマを一人の神官の少女が不安そうに見るが、彼女以外は軽蔑するような冷ややかな視線だった。
「何でだ? それはお前が『視力』だなんて目がいいだけのゴミスキル持ちだからだ。戦力にもならない足手まといなのが原因だろ」
「そんな……。セマカ、まさか君も同感なのか?」
セマカと呼ばれた大男はあきれたように深いため息をつく。
「馬鹿か? 当たり前だろう。もうお前を守りながら戦うのはうんざりなんだよ。雑魚のくせに俺達勇者パーティーの仲間だ? 冗談だろ」
嘲笑いネオリマを見下す。その目はあまりにもどす黒く、彼を侮蔑していた。
「っ! サエ、君なら解るだろ? 正確に魔法を撃つ為に、俺が観測役を引き受けてたじゃないか。索敵だって……」
「はぁ? あんたがいなくてもあたしはやれるの。てか、観測ってあんたが自分で勝手にやってただけなんだから。働いてたとでも思ってたの? 哀れねぇ」
「サエ……」
胸元を大きく露出させた魔法使いの女性も同じようにネオリマを小馬鹿にした。
そんな中、一人だけネオリマを心配する神官の少女だけは反論をする。
「何で……ネオリマさんは私達の仲間じゃないですか! 一緒に魔王を倒す為に、ここまで頑張ってきたんですよ。それに王様が勝手にメンバーを変えるのを許すはずがありません。私達は予言で選ばれたんですよ」
「ムレーハ……」
必死の形相で引き止めようとする。しかしそんな彼女の言葉は届いていない。
「王様からも承認済みだ。それに勇者である僕が決めた事が覆りはしない」
アマザはゆっくりと剣を抜き、その切っ先をネオリマに突き付けた。
「今すぐ失せろ。さもなくば魔王討伐の障害として切る」
「…………っ。解ったよ」
「ネオリマさん!」
ネオリマは拳を震わせながら後ろを向き、扉を乱暴に開け逃げるように立ち去った。
残された四人は口を閉ざし、その背を見送った。
数秒の後、アマザはため息をつく。
「………………さて。これで神の眼が覚醒するな」
「ああ。絶望の果てに目覚める最強スキル……」
「全てを見通す神の視点、視た全てを己の力とする魔王を倒せる唯一の手段か」
セマカとサエも先程とは別人のように悲しそうな目をしていた。
そう、彼らはわざとネオリマを追放したのだ。無能だから、弱者だからと言ったのも全て嘘。その目的はネオリマの力の目覚めさせるためだった。
アマザは剣を収めムレーハの方を向く。彼女もまた無言で頷いた。
「ムレーハ、すまない。これから君には、ネオリマを称賛し寵愛するハーレムメンバーの一人目として動いてもらう。神官である君には心苦しいだろうが……」
「そんな事を言わないでください。私達は勇者パーティーなんですよ。己の全てを犠牲にして魔王を倒し、世界を、人類を守るのが使命です。私は自分の意思でここにいます。それにネオリマさんもある意味犠牲者ですから……」
「ありがとう……」
悔しそうに椅子に座り込みうつむく。
「隣街ではメンバーの女冒険者が合流する。その時にちょっかいを出すチンピラ役の騎士達が、ネオリマに殺されないよう上手く誘導してくれ」
「任せてください。じゃあ私は彼を追い掛けます」
ムレーハも外へと出ようとする。が、その前に扉の前でメンバーに振り向いた。
「必ず、魔王を倒し平和を取り戻しましょう」
「ああ。勿論だ」
「へっ、言われるまでもないさ」
「先陣は任せたわムレーハ。あたしも後で合流するから」
三人に見送られムレーハは走る。ネオリマを心配し追い掛け、彼を支えるヒロインとなるのだ。
さもネオリマに好意を抱いているように振る舞い、その身すらも捧げる。ネオリマの心を満たす人形となる。全ては魔王を倒す為に。
「……何が神の眼だ。邪神の眼の間違いじゃねえか?」
セマカはイラついたように壁を殴る。そんな彼を止めようとは誰もしない。
「色欲、自尊心、ネオリマが世界の中心、さも物語の主人公のように賛美され心を満たさせる。そうする事でより強い力を得られるだなんて。本当、神様ってふざけてるわね」
「仕方ないだろサエ。あれが魔王を倒せる力なんだ。蛇の道は蛇って所だろう」
「そうね……」
サエもまた自嘲するように微笑む。
「サエ、君も後程ネオリマのハーレムメンバーに加わってもらう。君達女性陣には本当に苦労をかける」
「何言ってんのよ。私だけじゃなく、ムレーハや王女様も、何人もがあいつの女になるのよ。この国のお姫様が身を削って平和を取り戻そうとしてるのだから、あたしだって世界の為に何だってするわ。それよりも……」
彼女は悲しそうに杖を握る。その手は僅かに震えていた。
「セマカ、あんたは殺されるんだよ。あたしらはネオリマの女として生き残れるけど、憎まれ役はあいつの快楽の為に惨たらしい最期を見せないといけないんだ」
そんな言葉にセマカは目付きを鋭くしサエの肩を叩く。
「覚悟を決めてるのはお前らだけじゃない。俺も世界の為に犠牲になると理解してここにいる。なぁに、最高の怨み言や無様な姿を存分に魅せてやるさ。それにアザマも……な」
アザマは立ち上がり頷く。
「ああ。僕もネオリマが正義だと世間に思われるよう行動しなければならない。おそらく僕の死後は間抜けな偽りの勇者として笑い話となる。だが……」
拳を握り窓の外を見る。静かな夜の街がそこには広がっていた。
今この刹那の平和を続けさせる。その為にこの役を引き受けた。自らの意思で。
「僕達がやらなければ他の誰かが犠牲になる。ムレーハ、サエ、セマカ、そしてネオリマのハーレムメンバーと敵役のみんな。全員で協力し、必ずネオリマを魔王を倒す力にするんだ」
二人も強く頷く。
「世界を僕達勇者パーティーが救うんだ」




