再び二人で~サービス終了と共に分かれた少年は新しい世界での再開を願う~
中学生時代に、僕は初めてそのゲームと出会った。
Partner Travel Online
始めは友達に誘われて始めただけでそれほど熱中していたわけでもなかったけど、いつの間にかゲームの時間が増えていた。
そして、『Partner Travel Online』通称『PTO』は僕にとっての人生の一部となっていた。
『PTO』は、単純な仲間と協力してモンスターを対峙していくタイプのMMORPGだったが、特徴としてプレイヤー一人一人に一人のNPCサポートキャラクターが同行する仕組みとなっており、名前を付けることも可能となっていた。『イリス』、それが僕のサポートキャラクターの名前だった。
サポートキャラクターは機械的ではあったが、多少の会話の応答をすることも可能であり狩りの合間に息抜き程度に会話を投げかけていた。
どんなゲームも最盛期を過ぎると衰退していくものである、『PTO』も数年を過ぎたころにはユーザは減少し、残るユーザは僅かとなっていた。僕もそんな数少ないユーザの一人だった。
この頃には、ほとんど知り合いも残っていなかったためイリスと二人だけで狩りに行く機会が増えていった。
「お疲れ様、イリス。また来るね」
「お疲れ様です、アル。はい、お待ちして居ります」
それから数か月、遂に『PTO』のサービスが終了することになった。サービス終了の日にはゲームを去って行った多くのユーザがゲーム内に集まり騒いでいた。
僕も久しぶりに会えた仲間達と共に騒いでいた。
「おまえ、まだこのゲームやってたのかよ。俺は今、ASOをやっているぜ」
「お前もやってたのか。俺も最近始めたんだ」
「うん、他のゲームも気になるんだけど、どうしてもこのゲームがやめられないんだ」
けど、サービス終了の時間はイリスと二人で過ごしていた。サービス終了までのカウントダウンが始まり、やがて『0』となると同時に画面は暗転する。
生活の一部となっていた『PTO』の終了であり、イリスとの別れとなった。
それから1年、僕はただ何となく生きていた。目的があるわけでもなく、目標があるわけでもない、ただ何となくその日を生きているだけで時間だけが過ぎていった。
そんな折に発表されたニュースが僕の生活を一変させる。VRを利用したオンラインゲームの発表。
テレビに映し出されたVR世界の映像に僕は惹かれた。そして、VRの世界をイリスと一緒に眺めてみたいと考えるようになった。
それからの僕は、これまでの遅れを取り返すために夢中になって勉学に励んだ。VRゲームの開発に携わりたい、その世界にサポートキャラクターのシステムを生み出し、共に過ごしてみたいと考えるようになった。
そうして目標に向かって勉強を繰り返す日々を経て、僕は望んでいたVRMMOの制作に携わるためオンラインゲームの制作、運営を行う会社へと入社を果たした。
同期の中に友達もでき、話していると同じようにVRMMOのニュースを見てこの道を目指したと言う人も多く、同じように『PTO』が好きだったという人も見つかった。
「えっ、お前も『PTO』やってたの?」
「あっ、私もやってたよ。 あのシステムよかったよね」
「僕もやってたよ」
ただ、入社直後はゲームの企画にかかわることもなく雑務や小さな仕事を任されるだけの状態でサポートキャラクターのシステムを……、などと言えるような状態ではなかった。
それから何年か経ち少しずつ会社に馴染んできた頃、新しいVRMMOのゲームを作成する上での意見の募集と開発要員の募集が行われた。
僕を含めた『PTO』をやっていたグループはすぐにAIを利用したサポートキャラクターの導入の話を部長の元へ行き……、けど一蹴された。
「AIを利用したキャラクターの導入実績すらない今のオンラインゲーム業界でいきなりプレイヤーに寄り添うサポートキャラクターの導入など不可能だ!」
言われるとその通りで、AI自体の活用は進んできているが未だ機械やシステムの一部として利用されている状態に留まり人型であり、人に寄り添うといった利用は未だ確立されていない。
そんな状態でいきなり複数のそれもユーザに寄り添う形での利用等できるはずもなかった。ただし、僕達の提案はただ否定されるだけということでもなかった。
「いきなりプレイヤー全員を対象としてサポートキャラクターは不可能だが、そうだなゲーム内でのプレイヤーとの窓口となるサポートキャラクターを1体用意することにしよう。発現した者の責任だ、お前達でやってみろ」
「「「はいっ!!」」」
みんなが同期ということもあり、提案者ということで僕がリーダーをすることになった。それからの日々は大変だったけど、これまでよりもずっと充実した日々だった。AIを利用したサポートキャラクターの作成のみんなが一心不乱に働いていた。
そしてしばらくして、制作に目途が付いた頃、サポートキャラクターの外見と名前を決めることになった。
「じゃあ、サポートキャラクターの容姿と名前を決めようか。 意見がある人は居る?」
「はい、こういう時はプロジェクト名とかつけるものだしゲーム名の略称をそのまま……」
「ゲーム名と混同するだろ」
「こういう時は開発者の名前の頭文字をとって……」
「私達の名前の頭文字とってもそんなに都合よく名前にならないから」
話が紛糾する中で、僕は一言「『イリス』にしたい」とだけ告げた。ここのメンバーは『PTO』をやっていた集まりだから、何人かのメンバーは僕と一緒にいたサポートキャラクターのことに思い当たったような表情をしていた。
「いいんじゃない」
「賛成だ。 そもそも俺達のネーミングセンスに期待するのが間違いだったんだ」
「私も賛成」
「どうせだから容姿もイリスそのままにしようぜ」
悪乗りした一部の者の提案で容姿まで決められてしまったけど、僕にとっても悪い提案ではなかった。
そしてついに、『アマテラスオンライン』のサービスが、AIを利用したサポートキャラクター『イリス』が誕生し僕達はそのままイリスの活動を見守ることになった。
「おはようイリス、調子はどうだい?」
「おはようございます、アル。問題ありません」
「イリスちゃん、がんばってね」
「はい、がんばって対応してみますね」
出だしは順調だった。何が起こっても対応できるように準備していたのもあるし、問合せ内容もありふれた内容が多く特に回答に困るようなこともなかった。
そのために、気が緩んだのかもしれないそこからは問題の連続だった。
「えっ、始まりの街の中にボス<<ヒーヒマント>>が現れた? どうしてそんなことが?」
「調べた結果、イリスが呼び出したようだ」
「……」
ログを調べてみると、確かにイリスが召喚しており確認すると『強い魔物と戦いたい』と街中で話していたユーザの声を要望と判断して召喚したようだ。
この件については、すぐに対応を行ったうえでゲーム内への謝罪を行ったことで事なきを得た。
また別の日には、
「イリスが到底用ユーザに装備一式を送った?」
「うむ、『強い装備ドロップしないと引退してやる!』と叫んでいたものが居たそうだ……」
この件についても、送られた装備を無効としてユーザへのお詫びをすることで事なきを得た
こうして度々問題を起こすことはあったが、問題に対しては対応が行われていることと、それ以外の対応は悪くなく小さなその外見もありユーザ達の間では受け入れられていた。
それ以降も回数こそ減っていったがイリスが問題を起こすたびにお詫びに駆り出されていた僕だが、数年後イリスをベースに得られた情報を元に新しいチームが開発した新しいサポートキャラクターが登場することでイリスは『アマテラスオンライン』を引退した。
その後、イリスは別のオンラインゲームで働いているとか様々な噂が飛び交ったが、真相は不明である。
余談ではあるが時を同じくして僕の部屋に大型のサーバが届けられたとか、電気料金が跳ね上がったとか、居ないはずの女性の声が聞こえてくるといった話が聞こえてきたが気のせいである。