辰巳詩音とデート
「さようなら僕のスマホ……」
白石真我は壊れてしまったスマホを携帯ショップで機種変更をしてもらった。
「こんにちは僕のスマホ!画素数を上げてパワーアップだ!」
めっちゃ元気になる真我、現金なやつとはこのことだ。
ウキウキしながら携帯を眺めている親友に思わず笑みがこぼれる。
「よかったな。スムーズにできて」
「ああ、それにこれなら、さらなる盗撮写真を撮ることができそうだよ」
スマホを見せつけながら犯罪予告を道の真ん中で堂々と発言していた。
「帰ってさっそくバックアップをダウンロードしないと!」
大切にスマホをケースの中に片付け、ルンルン気分で歩いていた。
「しかし、壊れたスマホは電源も入らないとはな」
「僕もびっくりだよ。おかげで今日撮った盗撮写真が台無しだよ」
「午前中に何を撮ったんだよ」
「朝の下級生たちの登校姿さ!」
「さすがだな」
「そのデータが消えた……、来週はいい写真を撮るために下準備だ!」
「そうか明日から休みか」
今日は金曜日で明日から土日休みであった。
曜日感覚がなくなっていたせいか、最近いろいろあったせいで忘れていた
「部活、来週なんとかできるかな~」
「でも期限とかないんだし、気楽にやっていけばいいんじゃないかな?」
「そうだな」
期限などない、確かにそう言われていた。
気楽にゆっくりやればいいとその時は思っていた。
その時までは……。
翌日、真我と一緒に帰り、家に帰った俺は疲れからか、次の日はゆっくり起きた。
特に見たい番組もなかったし。
「さて、今日はどうしようか」
やることもないし、とりあえずダラダラ家の掃除や片付け、洗濯していた。
俺のうちは、親が仕事で家にいないことが多く、ほとんど家事や食事は俺がやっている。
何年前からそうだし、もう慣れた。
ある意味主夫なのかもしれない。家政婦にでもなったほうがいいのかもしれない。
ならないけど。
「合同部か、いろいろあって考えてなかったけど、BL大好きな緑鳥先輩、魔法少女大好き天宗さん
観光大好き樹海さん、あとまだ話してない鎌城春香さんか、そして俺。うまくいくのか?」
本人たちは合同でもいいという意見もあったし、樹海さんは保留とのことだった。
緑鳥先輩は賛同的だし、問題ないけど。
「天宗瑠璃……」
屋上で話して、途中までは上手くいっていた。
あのキス事件後、連絡しても無視されたままだった。
彼女自身まだ、1年生だし。上級生と一緒にするより友達と一緒にやったほうがいいかもしれない。
最悪彼女は諦める。そういう選択肢もある。
白石真我を盗撮部として引き入れることもできる。
「それだけはしたくないけどな」
とりあえず天宗さんには直接謝りに行くしかない。
日にちが経ってしまったけど。それでも。
「先に進むにはそうするしかないな」
返信のこないスマホを見ながらつぶやいていた。
クイックルワイパーで床も吹きながら。
「直接会って、それでもダメなら……」
諦めよう。そういう気持ちが出ていた。
あとは樹海リアス。白石真我の女子トイレ乱入事件により、交流できたけど。
彼女の反応はよくわからない。
「保留か……」
保留、期待ができない言葉だ。
「鎌城春香、いつでてくるんだ」
彼女は学校を休んでいる。同じクラスだけど。あまり交流はなかった。
一番近い相手が遠かった。もどかしいというのかこういうことなのだろうか。
「多分違うな」
とりあえず現状を確かめたうえで。
何をすべきかは見つかった。
「天宗さんに謝ろう」
今はそれしかできなかった。
ー俺はいつの間にか寝てしまっていた。
「いけねっ!」
がばっと起きると夜中だった。
幸い明日も休みだが……
「朝からのヒーローズに間に合うか」
今からなら起きていたほうがいいかもしれない。
スマホをみると何件か連絡が来ていた。
緑鳥ひな。
辰巳詩音。
天宗瑠璃。
3人からだった。
「あれ?辰巳先輩の連絡先なんて入れたか?」
身に覚えのない連絡先があった。
アプリなので名前はでていた。
「天宗さん!待ってたよ!」
すると、おなかの虫が鳴った。
「とりあえずなんか食べよう」
俺は家の冷蔵庫に食べられそうなものを探した。
相変わらず親は家に帰ってきてなかった。
「カップ麺でいいか」
カップ麺にお湯を注ぎながらアプリをみる。
天宗瑠璃からは
『連絡できず、すいませんです。』
それだけだった。
「これどう返信したらいいんだろう」
とりあえず緑鳥先輩のメッセージもみてみた。
『一緒に帰るカップルの写真』
『添付ファイル1~30』
俺と真我の帰り道に撮ったのだろう画像が30枚あった。
「何してんだあの人は」
続いて、辰巳先輩から
さっきから通知が数秒おきにきていた。
『こんばんわ英雄さん』
『今のこの気持ちを誰かに言いたくて』
『ごめんなさい、でもあなたくらいしか適当な人いなくて』
『連絡先はいろいろな伝手で聞きました』
『神回だわ~~~』
『今テレビつけれますか?』
『寝てますか?』
『作画が!作画最高よ!』
『うっは!やばい!』
『傑作間違いなし!』
『英雄君も見て!』
『ちょっとイイ感じ!』
『え?うそ!?そんなことある??』
『最高すぎ』
……
この後通知は続く。
「怖すぎだろ」
テレビというから何を見てるんだろう。
『漆黒の堕天使ルシファー・ヘブンズなんだけどみたことあるかな』
俺はテレビをつけた。
「先輩が見てるのはこれか」
黒い羽根をつけた少女が世界を守るストーリーらしい。
その黒い羽根の少女はおびただしいくらいのキズを受けていたが、銃弾をすり抜けていっていた。
『ルシファーマジ神なんだけど』
さっきから通知がやまない。なんなんだこの人。こわっ。
確かに初めて見るアニメにしてはのめりこんでみてしまうくらいの迫力と、精密な動きで俺も見入ってしまう。
さらにこのキャラクターのロリボイスで癒されてしまうのもある。
辰巳先輩、こういうアニメ好きなのか。
『英雄くんもみて~』
辰巳先輩のイメージがここ数日で変わりすぎている。
初めて会ったときは凛とした怖い先輩かと思えば、いろいろ助けてもらう先輩から。アニメ好きで通知しまくる先輩。
スマホの画面をみると通知が99件きていた。
「一応返信しておくか」
とりあえず緑鳥先輩に『通報しますよ』と送っておいた。
夜中だったので返信はなかった。
「次は天宗さんか」
難しいな。とりあえず『大丈夫です』とだけ送っておいた。
これでいいのかわからない。
「さて、次は……」
辰巳先輩……。
さっきから通知が止まらない。
てかアニメみながらどうやってスマホ打ってるんだこの人。
『アニメ見てますよ。面白いですね』これで当り障りないだろうと送った。
すると
『英雄さん!起きていたの!』
『あ、終わった』
『ごめんね、私誰かと語りたくて、英雄さんならいいかなって』
俺は『どうして俺ですか?』と聞いてみた。
すると
『暇そうだからかな』
「失礼だろ」と返事は返さなかった。
『ごめんね。いきなりびっくりしたよね?』
『はい、いきなり通知くるし、しゃべり方違うし』
『あれ外キャラだから。普段はこんな感じだよ?』
『そうなんですか』
『うん!ごめんね、こんな時間に眠かったよね?』
『平気ですよ』
『そっか、お詫びじゃないんだけど、今日どこかで会えないかな』
「はっ!?」
思わず声が出てしまった。
辰巳先輩からの熱烈な誘いが来た。
いや、ちょっとまって、強引に俺の連絡先を聞き出してまで連絡してきたんだよな。
やっぱりそういうことなのか?
『いいですよ、どこで会いますか?』
デートじゃん!デートの約束じゃん!
辰巳詩音。樹海リアスいわくふざけた白髪というけど、本来は銀髪のきれいなショートカットで
瞳はブルーでどこから見てもきれいな人なんだよな。
そんな人からお詫びといえど、デートのお誘いなんてきたらテンション上がる。深夜ってこともあるのかもしれないけど。
『ありがとう、お話ししないといけないことがあって、駅前のファミレスでいいかな?』
『わかりました。時間は?』
『昼0時でお願い』
ということは昼飯を込かな。
『わかりました、ではその時間で』
というとそれから返信はこなかった。
すると緑鳥先輩から朝方通知が来た。
前番組「魔法少女プリズムライト」がはじまる前だった。
『資料提供ありがとう、新作の『ヒカルとシンガ』楽しみにしててね。私は深夜見てた『7人のメンツ』で眠いわ、おやすみ』
辰巳先輩がみていた番組の裏番組のようだ。
てかヒカルとシンガってそのまんまじゃん!
この前タイトルまでは見てなかったけど。
「あ~、朝から嫌なこと聞いた」
でも昼からはデートだ。ウキウキするな。
すると、もうすぐプリズムライトが始まる時間だった。
「天宗さんも今から見るのかな?」
スマホを見ても返信はなかった。
そして魔法少女プリズムライトははじまった。
ちょうど、その回は……。
めっちゃ泣ける回だった。
「うっ、独りぼっちでお母さんの帰りを待つこのところに妖精が現れるとかずるいだろ」
プリズムライトの相棒である妖精が迷子になってしまい、たまたま独りぼっちの女の子に拾われる回だった。
しかもつらすぎる別れが来るもんだから号泣してしまった。
「でも天宗さんもこれ見てたらいい話題になるかもしれないな」
マジで最高すぎる回だった。
「この流れでGWBPヒーローズ ゼロを見るのか、最高すぎるだろ」
GWBPヒーローズとは10年前から放送されている。大人気の特撮ヒーロー番組のことである。
10年間「Gマン」「デバイス」「Pレッド」「クリムゾン」「ブレイズ&ギルク」「グライト」「パワード」「ワールドキャット」「紅」と
シリーズが続いており、現在は「ゼロ」というキャラクターが主人公だ。
特にデバイスというヒーローからはいろいろなことを学んだ。
今俺がいるのはヒーローたちのおかげなのだから
だが、GWBPヒーローズ ゼロの話は、日常のちょっとした出来事回だった。
「今回は、そんなもんか」
さて、今日のメインイベントは特撮を見ることではない。
「辰巳先輩とデートか」
俺はとりあえず、何を着ていこうか決め、ご飯を食べて、身だしなみのチェックをし、家のことをやっていたらでかける時間になってしまっていた。
「そろそろ行くか」
女性とどこかで待ち合わせして会うなんてはじめてだから緊張する。
家を出て、そこから駅前までの道のりが長く感じた。
緊張しているというのもあるのかもしれない。
時間の流れが遅く感じた。
「着いてしまった」
駅前のファミレスについてしまった。
時間は昼の0時の15分前だった。
「辰巳先輩はー、」」
まだ来てないようだった。
「中で待ってた方がいいのかな?」
それとも連絡した方がいいのかな?わからん!女の人とこういう風に会わないから。
「とりあえず、待つか」
辰巳先輩が来るまで待つことにした。
すると10分後
「お待たせしました英雄さん!」
小走りで走ってくる辰巳先輩の姿があった。
「すいません、お待たせしましたか?」
制服姿も違い、私服の彼女は、ラフな格好で、ピンクのシャツに白いカーディガンと、下はスカート?パンツ?のようなものを着ていて、思わずドキッとしてしまう。
女の人の私服って制服と違って新鮮さがあって、可愛いな。
甘牙はいつもジャージだもんな。
と女友達を例にだして考えた。
「どうかしました?」
こちらを覗き込んだもんだから、ドキッとして。
「いえ、大丈夫ですよ、入りましょうか」
「ええ」とはてな?という顔をして、お店に入った。
お店の中は空調が聞いており、とても涼しかった。もうそろそろ5月も終わり、梅雨がはじまったら、もう暑い夏が始まるからな。
店員さんか誘導してくれて、席に座った。
「突然ごめんなさい、特に夜は激しかったよね」
「こんなところでそういう危ないワードはやめてください」
「危ない??」キョトンとした顔でこちらを見ていた。
本当にわかってないようだ。
「まぁいいですよ、それで今日は呼び出してどうしたんです?」
「大事な話があるんだけど、休日じゃなくてもよかったんだけど、少し急ぎになりそうだったから」
「急ぎですか?」なんだろう?
「単刀直入に言うね!合同部、このままじゃ申請通らないかもしれない」
「え!?」
「英雄さんも頑張ってるようだけど、こればかりはどうしようもなくて」
「どういうことですか?」
「活動場所って考えてた?」
「活動場所?」
「そう活動場所!野球部ならグラウンド、バスケ部なら体育館、科学部なら科学室を使うけど、マイナーな文化部は部活棟の部室をつかうことになってるんだけど」
確かに我が転融学園は部活が多くあり、いろいろと有名ではある、部活棟も多くの部活が使用している。
「今年設立された昼寝部が部活使って、空いてる部室があと1つなんだけど」
「そんなに少ないんですか?」
「他にも廃部したり申請して受理された部活も多くて、昼寝部もそのひとつなんだけど、あと1つの部室を合同部にと思ってたんだけど・・・・・・」
「何か問題でもあったんですか?」
「他の部活がその部室を使いたいって申請してきたの」
「どういう部活なんですか?」
「5人組のアイドル研究部よ」
「あ、アイドル研究部?ですか……、アイドルの研究でもするんですか?」
いまいちぴんとこない。
「私もそう思ったんだけどね、聞いてみたの『アイドル研究部?それって学校に必要?』ってね」
相変わらず外ズラと内面が違う人だ。
「それでどうったんですか?」
「それが、アイドルを研究した自分たちも学校でアイドル活動したいんだって、いわするアイカ……」
「ストップストップ!なんかそれ以上言ったら権利の問題が発生しそうです」
「なんの話?だってアイカ」
「だからそれ以上言ったらだめですって!」
著作権的に問題ありそうな名前を言おうとしていたので止めだけど
「学校でアイドルならラブラ……」
「ストップ、それはマジでやばそうなんで」
と俺は辰巳先輩の口を手で押さえた。
「ぺろっ」
「ちょっ!?何するんですか?」
「えへへ!びっくりした?もう苦しいよ英雄君」
辰巳先輩は小さい子供のように笑い、手をなめた舌をべーって感じで見せていた。
なめられた手には辰巳先輩の唾液がついていた。とりあえずハンカチで拭いた。
「ひどーい、私の舌そんなに汚いかな?」
しょぼーんとした顔でこちらを見ていた。
「違いますよ、拭きますよ、べとべとしてるんですから」
「えー、なめ返そうよ」
「どこの変態ですか!」
辰巳先輩はあははと笑いながら爆笑していた。
「ごめんごめん、いやそうだよね、うん」
笑うのを堪えるまで少し時間が掛かった。
本当にこの人は素だとこんなにおおらかなのか。
キャラクター性がよくわからない人だ。
「ごめん、大丈夫。もう大丈夫だから本題行きましょう」
「俺もそうしたいですよ」
「部室の件なんだけど、そのアイドル研究部がその部室を使ってしまうと合同部の部室がないに等しいの」
「他に借りれるところはないんですか?」
「ない」と満面の笑みで言ってきた。
笑顔で言うことじゃないでしょ。
「なら諦めろと言いに来たんですか?」
「え?違う違う!こっちが合同部を設立させようと仕向けたのに、部室がないから諦めろってわけじゃなくて」
「はあ」
「私が言った手前、結構動いてくれてて嬉しいのね」
「ん?嬉しい?」
「合同部って、実は学園では禁断の部活って噂もあるんだよね」
「ええ?どういうことですか?」
俺は食い込むように辰巳先輩の方に聞き耳を立てた。
「近い近い!えっとね~、また脱線する話だけどいい?」
「構いません!」
「いやそんなに身構えなくても……、まあいいや、合同部って昔はあったんだよね、私たちが入学するうんと前」
「そんな前ですか?」
「うん、元々部活が有名な学園だったんだけど、個人の部活をしたいって生徒が増えてきて、それで部室棟も新築したりして学園側も個人を尊重したいからって資金投資してたの」
「それで変な部活多いんですね」
「その名残ね。毎年部活申請があるのもそれだけ生徒数とやりたいことを尊重する学園であるからかもしれないけど」
「でも今は個人の部活は認められてませんよね」
「条件ができるきっかけがあったからね、それは部費の私物化かな?」
「え?」
俺は3人+先生の合同部の部活申請理由の一つを思い出していた。
緑鳥ひなはBLの同人誌の資金
天宗瑠璃はコスプレ衣装の費用
樹海リアスは旅費
先生は小遣い
部費の個人的なものの使用はNGだからこれは黙っておこう。
「ん?どうしたの?」
「え?なんでもないです」
「そう?それで続きだけど、部費の私物化で個人的な小遣いにする人が増えてきて、部費を管理するのと、個人的な部活動による教室の占領や不良のたまり場になることが多く見られたの」
「学校のイメージが損なわれてきたってことですか」
「ええ、あまりにもひどい部活や部活優先で授業にでない部活は強制廃部され、条件として個人の部活は禁止されたの」
「それはまじめな部活もってことですか?」
「おそらくはだけど、判断基準は当時なかったはずだから」
「それでもやりたい部活がある人はどうしたんですか?」
「個人でやりたい部活を集めて、部活申請の条件の裏をかいた合同部を設立したの、もちろん個人個人の申請の理由を聞いてだと思うけど」
「なるほどですね。今の状況と同じようなものですね」
「でもすぐ解散してしまったの」
「それはどうして」
「ばらばらに部活をしたことによって、メンバーに亀裂が入って、大喧嘩の末に解散が決まったらしいの」
俺が真我と考えたことだ、興味のない部活を一緒にしても大丈夫かどうか。
実例を聞くと少し自信がなくなる。
「あなたたちは大丈夫だと思う!それぞれ熱意を感じもの!だからほっとけなくて合同部をすすめたの」
「それが合同部を設立させようとした理由ですか」
「違うよ」
「あ、あれ?」
予想外の言葉に思わずこけてしまった。ギャグじゃないのに。
「大丈夫?」
「大丈夫です。それで本当の理由は何ですか?」
「面白そうだったからだよ、だって伝説の合同部だよ。一度見てみたいんだよね」
「そうですかー、そうですよねー」
「うん!だからね。早く部員を説得して部室を今ならまだ間に合うから明日、私が招集かけるから」
「アイドル研究部はいいんですか?」
「そこもなんとかしなきゃだけど、ここは部活動統括部門、生徒会副会長辰巳詩音に任せてよ」
「どうしてそこまで加担してくれるんですか?」
ただ面白そうだからということ、伝説の合同部ということ
彼女の行動を見ていれば、それも本音なのかもしれない。
けれど、彼女は、辰巳詩音は生徒会副会長であり、部活動統括部門の一番のトップだ。
他の部活に肩入れすることは、あまりよろしくないはずだ。
「どうしてだろ思う?」
辰巳先輩はそういうと俺の方をじっと見つめてきた。
よく見るとこの人めちゃくちゃきれいなんだよな。
そんな美少女に見つめられている中10秒間。
俺はただじっとしているしかなく、目をそらしてしまった。
「あはは、そんなに考えることもないよ?」
「は、はあ」
「緊張したの?そういう面白いところ好きだな~」
「へ?は、はい?」
「ん?顔真っ赤!だ、大丈夫だよ!恋愛感情ないから」
「は、はあ」
この人はからかって上手だ。
こんな人を意識してしまったとしては少々悔しい。
「ところで、どうしてそこまでだったっけ?」
「あ、はい」
「好きなんだよね」
思わず水を吹いてしまった。
「うわっ、汚いな~」
「すいません、でもからかうのはやめてくださいよ」
小悪魔的な笑みで「ごめん」と辰巳先輩はつぶやいた。
「冗談はいいとしてっと、私ね部活動統括部門なんてしてるけど、堅苦しいの苦手でさ。みんな申請来る時、きらきらしてたの」
「そうなんですか」
「ええ、まずあなたたちの熱意には胸を動かされるものがあった。なんとしてあげたかったんだけど、立場上やっぱり独断では動けなくて」
「それで俺に振ったということですか」
「自分で動けないのが悔しいけど、英雄さんに任せて正解だったかもね」
「そんなに期待しないでください。というか、明日までというのも無理そうですよ」
「そういえば進捗状況を聞いてなかったね、今どんな感じ?」
辰巳先輩は食い込むようによってきた。
「近いですよ。何から話せばいいんでしょうか」
とりあえず天宗瑠璃とのキスの件は伏せるとして
「緑鳥さんとはうまくいったんだよね」
「はい、というかノリノリでした」
「ということは、他の3人?」
「そんな感じですね。一年の天宗さんは緑鳥さんのBL部が嫌ということと、やっぱり1年生なので、今申請している部活がいずれかの形で実現する可能性があるので、難しいかと」
「ああ、確かにそう考えるのもあるけど、本人はそんなことはいってないんじゃない?」
「確かに憶測ですけど」
「ならいいじゃない、話しして本人がそれでもいいなら誘っちゃいなさい、1年とか関係ないよ?」
確かにキスする前までは乗り気だったし、もう一度話してみるしかないかもしれない。
キスのことは精一杯謝ろう。
「それであとは2年の二人は?」
「ああ、樹海リアスは、保留にされました」
「あの子は、そうね。なんとなくだけど大丈夫と思う」
「そうかもですね」
「あと一人は?」
「鎌城春香ですよね。今休んでて話ししてないんですよ」
「え?そこにいるじゃない?」
俺は「は?」という顔で辰巳先輩が指をさしたところを見ると
「マジかよ」
鎌城春香はテーブルにこれでもかというくらいの料理を広げて一人で大食いしていた。