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ロケットパンチ

 アイルは、ロケットパンチを片手に、Nというバーの前に立った。

 入口から様子を窺ってみると、店内は青や紫の装飾や機械的なオブジェクトがあったりと、近未来的な雰囲気の漂うバーとなっているようだ。

 

 バーは夜間のみの営業となっているようで、今は眼鏡を掛けた痩せぎすの男がモップで床を掃除している。

 絶賛、開店準備中といったところだ。


 アイルからしたら、余計な客がいないのは都合が良い。さっそく店内に入ると、掃除中の男に声を掛ける。

「あんたがNのバーテンダーか?」

「そうだが……」

 男は掃除の手を止めて、アイルを訝し気に見る。そして、アイルが手に持つロケットパンチに気づくと迷惑そうに顔をしかめた。

「そいつをどこで手に入れた?」

 男はドスの利いた声で問いかける。


 アイルは、男の挙動を不思議に思ったが、正直に答えることにする。

「依頼を受けて運んで来たんだ。受け取ってくれ」

「依頼? お前は運び屋か……。誰に頼まれた?」

「依頼主は、ロンという男だ。知り合いじゃないのか?」


 アイルは依頼主のことを思い出す。

 中肉中背のこれといった特徴のない男だった。

「ロンだって……あの野郎、俺に押し付ける気か!」

 男は、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。


「あんたらの事情はどうでも良い。じゃあ、渡すぞ」

 アイルはそう言うと、ロケットパンチを差し出した。


「いや、そいつを渡されても困る。依頼主に返してくれ」

「なんだと?」

 アイルは、いらだった声を上げる。

 それは当然だろう。依頼が達成できなければ、報酬の100万が貰えない。


「つべこべ言わずに受け取れ」

 アイルは、ロケットパンチを男に向かって放り投げた。


 すると不思議なことに、ロケットパンチの根元の部分が火を噴いた。

 ゴォォーという凄まじい噴射音を出すと、グングンと加速をつけて飛んでいき、痩せぎすな男に迫る。

 男はとっさに右に避けたが、ロケットパンチは追尾するように向きを変えると、男の左頬を打ち抜いた。

 どさっと、瘦せぎすな男は、その場に倒れる。そうとう強烈な一撃だったようで、仰向けに倒れたままピクリとも動かない。


 アイルは、しばらくあっけにとられていたが、我に返って倒れた男に近づく。

 首があらぬ方向に曲がっており、その上、倒れる際に床に後頭部を強打したらしく、血が流れている。


(死んで……。いや、生きていると思おう)

 男の近くの床には、無造作にロケットパンチが転がっている。

 先ほどまで根元から火を噴いていたロケットパンチだが、いつの間にか火は消えていた。


「確かに届けたぜ」

 相手は明らかに聞こえていないだろうが、アイルは、そう言い残して店を出た。


 行きの道中とは対照的に、帰りはなんのトラブルも発生せず、依頼主の事務所まで辿り着いた。

 薄暗い部屋に入ると依頼主のロンがいる。

「依頼は完了した。報酬を貰おう」

 アイルが言うと、ロンは何も言わずに札束を出した。

 そのロンの行動に、正直なところ、拍子抜けした。

 てっきり、ちゃんと届けた証拠でも要求されるかと思ったのだ。

 

 アイルは、念のためその場で札束を確認すると、きっちり100万ある。

「じゃあな」

 アイルは、さっさと立ち去ることにする。

 

 依頼主の事務所を出ると、辺りはすっかり暗くなっている。

 アイルは、暖かくなった懐にほくそえみつつ、夜の街に消えて行くのだった。


 夜の街で豪遊した次の日、アイルは夕方まで惰眠を貪った。

 空腹を感じてベットから起きると、なんとはなしにテレビを付けた。

 テレビではちょうどニュース番組がやっており、ゼット市のバーがヒューマノイドの集団に襲撃を受けたという事件を伝えていた。

 襲撃のあったバーは、めちゃくちゃに破壊されており、従業員は皆殺しだったという。

 目撃者は、いなかったのだが、ご丁寧なことに、破壊された店内から犯行声明と見られる置手紙が見つかった。

 それによると、ヒューマノイドたちにとって極めて重要なものを取り返すための行動であったことが記載されていたという。

 ニュースでは、その犯行グループの行方は現在捜索中であり、彼らの言う極めて重要なものが何なのかもわかっていないとのことだった。


 アイルは、口をぽかんと開けたままそのニュースを見ていた。

(まさか、極めて重要なものって「アレ」のことじゃないよな?)

 昨日の道中で襲ってきたのは、その犯行グループの一味だったのだろうか……。

 一見、女学生や老人に見えてもヒューマノイドだったのなら、アイルを力づくでねじ伏せることも可能だったはずである。

 依頼主のロンは、ロケットパンチを所持していると危険であると判断して、Nのバーテンダーに押し付けたのかもしれない。

 

 とはいえ、アイルにとっては、終わった仕事であり、彼らの思惑はどうでも良いことである。

 今は、空腹を満たすことの方が遥かに重要だと、カップ面を用意して、電子ポットでお湯を沸かすのであった。


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