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お母さんはいつも正しかった。私が虫を潰して遊んでいると「それはやってはいけないこと」と優しく注意してくれた。私を正しい道へと歩ませてくれた。普通を丁寧に教えてくれて私がこの世界に馴染むように沢山のことを私に教えてくれた。お父さんはそれを後ろから優しい瞳で見て、私が普通のことをしたなら大きくて暖かい掌で私の髪の毛がぐしゃぐしゃになるまで撫でてくれた。その行為が嬉しくて私は進んで普通の道を歩もうと決めた。しかしそんな両親は私が大学を卒業すると同時に車と接触事故を起こし帰らぬ人となった。親戚づきあいも浅く、姉弟もいない私は初めて一人でいることの恐怖を知り、それと同時に私は、少しの嬉しさを感じてしまった。それはお父さんが私の頭を撫でる以上のもの。
「いただきます。」
目の前の食事に手を付ける。私は死刑台に上るのだろうかと思うだけで胸がわくわくする。死刑執行まではこの部屋にいると言われたが、それがいつになるのかは聞かされていない。交番に向かう前に死刑執行までの平均日数を調べておけば良かったと小さい後悔が胸を刺す。でもその後悔さえも楽しくて、ついご飯を食べながらも口元がゆるんでしまう。
そう言えばあの井上さんはどうして私なんかを取材するのだろうか。殺人者なら探せば私以外にいるのに、なぜ私なのだろう。最初は弁護士から雇われた精神科医なのかと思ったけれどどうも違うらしい。私の担当弁護士は両親が事故にあった時から私の面倒を見てくれている。話を聞けば担当弁護士の近藤さんと両親は旧知の仲らしい。昔は何かと両親に助けられたから恩返しにと私の弁護を引き受けてくれた。近藤さんは私の精神鑑定をして何かしらの精神病で縛って死刑から救おうとしたが、私が精神鑑定を拒否したためそれは叶わない夢となった。再審をしようと何度も私を説得してきたが、私は死刑以外の判決など求めていない。人を殺しておいて死刑以外の判決など私の心が許さないから。そんなことを言えば、なら何故人を殺したのかと問われるが、私はただ人を殺したかっただけ。ただ、それだけなの。
「…ご馳走様でした。」
両手を合わせ丁寧に言う。あと何回私はこのご飯を食べることが出来るのだろうか。そう考えるだけで楽しい気分だ。
とりあえずここまでです。
続きは近いうちに…。