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バッタがいた。それは小さくて、可愛くて、つい右手で潰してしまったことがある。それを見たお母さんが私を怒って、命の大切さというものを教えてくれた。
「いただきます。」
手を合わせてその言葉をしっかりと言ってからご飯を食べる。ご飯を食べられるのはあと何回だろうかと考えながら、手に残る人の血の暖かさを思い出した。
大井太郎 二七歳
岡崎花 二五歳
飯塚いずみ 四六歳
野村誠 五四歳
石田千佳 二十歳
酒井紀子 三四歳
斎藤秀幸 三十歳
以上七人が私が殺したとされる人間だ。頭の中でその名前たちを何度も繰り返し言う。彼らを殺めたあの感触を思い出すようにご飯と一緒にお腹に入れた。ご飯の一粒まで、お味噌汁の汁一滴までも全部飲み込んでお箸をおく。
「ご馳走様でした。」
ご馳走様でした、皆さま。