付喪神に会いました
自分の書く物語には、どのジャンルを振り分ければいいかわからない。毎度困るんですよね。なのでざっくりまとめると、付喪神の出てくる、心暖まる物語です!
陰口はひっそりと会話をしていても、どんなに小さな声量でも聞こえてしまうの。「あの子...お寺の娘なんだって。」
「マジ?不気味~近づかないようにしよ。」
ひとりぼっちだと、普通の会話の声でさえ大きな声に聞き間違えてしまう。
お寺の娘であるわたしは、友達が少ない。
でもわたしには、ずっと一緒に過ごしている子がいる。
小さい頃に出会ってからは、はだ見放さず身に付けていた。
その子は━━━
「ない!!カバンに付けてたストラップ!どこにいったんだろう...この前は紐が切れてたことに、気づいてあげれたのに...」
お寺に帰ってきたけれど、学校にいる時と変わらず、俯くままでいるしかない。顔が下を向いて上がらない。
わたしの手のひらに埋まるぐらいの小ささ。
それにボロボロだけど、わたしにはキラキラして見えるの。
大切な存在のあの子を失ってしまったんだ。
悪いのはわたしだけど、悔しさもにじみ出てきて、にじみ出たものは目頭に溜まってきて溢れだしそうになった。
「何か探し物ですかい?お嬢さん。」
聞いたことがない男性の声。
ふっと横を見ると相手の顎が見える。
わたしは今、体育座りをして俯いているのに、相手は見ず知らずのわたしの横で同じ目線になるように座ってくれている。
優しさが寄り添って、わたしの顔を手を遣わずに持ち上げてくれた。
男性は紺色の着物を着て、目が細いけど光が差してキラキラして見えた。
近くで見ると、裾がボロボロだった。それでもかっこよかった。
「(うわあ...かっこいい人...)」
わたしは見惚れているのだろうか。はじめての気持ちだから表現できない。
男性は話しかけても答えが返ってこないので首を傾げていた。
「えっと、ぬいぐるみのストラップ、見ませんでした...?」
「ぬいぐるみ?どんなかな。」
「アトランティックサーモンの、ストラップです...」
「はてねえ。見かけやせんしたなあ。」
やっと聞くことができたけど、やっぱり見かけないと言われると、悲しくてまた下を向いてしまう。
それに、いつも話しかけられることなんてなかったから、久しぶりすぎて既に口角が疲れたし喉も渇いた。
「そうですか...」
意気消沈。諦めようと思い始めた。
「...あっし、落ち込んだお嬢さん、ほっとけねんでさあ。だからそのぬいぐるみの思い出話でも聴かせておくれ?あっしは熊谷。お嬢さんは..."あゆみ"って言うんですかい。」
どうして分かるの。その理由はすぐわかった。
「あ~ペンケースに描いてますもんね。」
熊谷さんになら、話をしたら目頭の熱さが冷めると思う。
なんだかそんな気がした。
「誕生日プレゼントに貰ったもので、もうボロボロなんですけど。お気に入りだから捨てられなくて。」
「そうだったのかい。無くしちまったのは、気の毒だな...」
「ぬいぐるみだから、落としても音がしなくて。わからないんですよね~」
笑い話にしてしまおう。そうすればきっと明日には吹っ切れる。
今だけ悲しいのだと強く志した。
「うんうん。あゆみの言い訳わかるわかる。」
「言い訳なんかじゃっ...確かにそうですね。わたしサイテーなことしました...こんなことなら、家に飾っておけばよかったのかも。」
ずっと聞き手になってくれて、途切れることがなかったのに、少し間が起きた。
その後で熊谷さんが、明るかったイメージとは真逆で切なく話し始めた。
「そんなことしたら、余計に寂しくなっちまうよ...僅かな間離れてただけでも、あっしはこんななんだから...いつもあゆみと一緒だから、あっしは幸せなんですぜ...?」
寂しそうな顔をしていた。
まるでさっきまでのわたしの感情が、熊谷さんに移ってしまったかのよう。
想像していなかった表情をみて焦りが出た。
「なんですかっっきゅ急に...っ!」
わたしの手を、熊谷さんは優しくも強く握りしめて、至近距離に積めてきた。
「今度は、あっしを...手放さないでおくれ......」
泣き出しそうな顔で見つめてくるから、わたしの掛けているメガネがなかったら唇までもがぶつかりそうな距離にいる熊谷さんに、反射的に目を瞑った。
すると、ふわっと目の前にいる空気が軽くなった感覚がして瞼を開くと、熊谷さんはいなかった。
辺りを見渡すがやっぱりいなかった。
わたしは最後に触れた、手の掌を握りしめたままだったので、開いてみると無くしたと思っていたストラップがあった。
「あっ!ストラップ!!あったあぁ!!よかった~~でもなんで手の中に?」
古い記憶を呼び起こし、とある昔話が頭に過った。
村人が硬貨に想っていたお米。その米をお殿様から頂いた村人は、もったいないからとお米を食べれずにいた。しかしお米の付喪神が現れて「このまま捨ててしまうのは、それこそ悲しいです。」と食べてほしいと本当の気持ちを言い残して姿を消したという。
村人は思った。あれはお米に取り憑いた付喪神ではないかと。
「もしかして、熊谷さんって...」
わたしは、付喪神に会ってしまったのかもしれない。