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カルテNO.4 前田(魔法使い)7/10

 7

「前田さんには、私が勝ち組に見えますか」


 医師が静かな微笑みをたたえて言う。


「中学生の前田さんをいじめた同級生や、高校で前田さんをいじめた同級生たちが、勝ち組だと思いますか?」


 医師の問いに、前田は考え込む。


「私には、同級生をいじめることでしか自分の存在を肯定できない人たちが、勝ち組であるとはどうしても思えません」


 医師の言葉を受け、前田が顔を上げた。


「多感な中学・高校時代を、いじめられて過ごした前田さんのつらさは、私の想像を絶するものであると思います。でも、あなたはそれに耐えて、今を生きている」


 医師もまっすぐに前田を見つめて言った。


「私には、前田さんの前向きに生きる力がまぶしいぐらいです。そんな強さを秘めたあなたから勝ち組と認定されたなら、どうやら私も本物のようですね」


 医師が笑いながら言うと、前田も初めて笑顔を見せた。


   ※※※


 初回の治療を終えた前田は、記憶を取り戻すため、治療の継続を希望した。


 医師は次回の診察予約を確認し、前田を帰した後、治療方針について検討した。


 今日の診察で、前田との信頼関係の基礎ができた。また、治療に前向きな態度であることも好感触である。


 しかし、解離性健忘の引き金となった出来事は、まだ特定できていない。


「まだまだ、これからね……」


 医師はデスクの上のポットから白湯をカップに注ぎ、一口含んだ。


 ふう、と息をつき、背もたれに体を預ける。


「中学生の頃とか、『なかったこと』にしたい記憶の一つや二つ、あるわよね……」


 医師は眉根を寄せ、「私にもね」とつぶやいた。


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