カルテNO.4 前田(魔法使い)6/10
6
「どうぞ…… お疲れさまでした」
催眠から目覚めた前田は、医師からハンカチを手渡されて自分が泣いていることに気付いた。
「あ、すみません……」
前田は慌てて涙をぬぐった。
「あの…… 私、何を話したんですか?」
不安そうに言う前田に、医師は「子供の頃から中学生になるまでのことをお聞かせいただきました」と答えた。
前田はそれを聞いて暗い表情になり「私、いじめられてたんです」と言った。
「陰キャラ…… 暗くて目立たない子がいじめられると思われがちですけど、私から見れば、陰キャラの子はメンタル強いです。一人でいることを選んで、他の子と群れないで過ごしていられるわけですから」
前田は自虐的にふっと笑い「私は、仲間外れにされることが怖くて、たいして面白くないテレビを見たり、流行りの服をチェックしたりして、みんなと話を合わせるようにしていたんです」と言った。
「私がいじめの標的になったきっかけは、よくわかりません。たぶん陰キャラの子より、いじめがいがあったからだと思います。気付いたら、同じクラスの女子数人から、陰湿な嫌がらせを受けるようになってました」
疲れた様子で前田が続ける。
「中学二年の頃からいじめが始まって、私は早く卒業することだけを考えて、残りの中学校生活を送りました。高校に行けば、いじめから解放されると思ったんです」
医師がうなずくと、前田は「でも……」と、話を続けた。
「高校に行っても、半年ぐらいで、またいじめられるようになりました。それでわかったんです。私は、いじめられっ子体質になってしまったんだって」
前田は、再びあふれ出した涙をぬぐいながら言った。
「先生には、こんな話をしてもピンとこないですよね。私だって、先生みたいにきれいでスタイルが良く生まれていたら、こんなことにはならなかったと思うし……」
前田はうつむいて「人生って不公平ですよね。最初からいじめる側といじめられる側、勝ち組と負け組に別れちゃってるんですから」と言った。