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カルテNO.4 前田(魔法使い)5/10

 5

「そうは言ったものの……」


 前田が次回の診察予約をして帰った後、医師は腕組みして考えた。


「ヤバそうよね……」


 前田のカルテを読み返しながらつぶやく。


 そこには、『最後にダンジョンに潜った際、トラップにより服が破けた(解離性健忘発症のきっかけ?)。患者は診察室でそのことを聞かされ、一瞬表情が強張る』と記されていた。


 また、前田と一緒に診察室に入った斉藤たちによれば、その時前田はケガをしたわけではないという。


 女性が解離性健忘を発症するほどのショックを受ける出来事で、服が破れたことから想起するものといえば、レイプなどの性暴力被害に遭っている可能性が高い。


 あまりに精神的ストレスが強く、受け入れがたい事実を、記憶を取り戻すことで再体験した場合、最悪自殺に至ることもある。


 果たして、前田のトラウマとなっている出来事は何なのか。細心の注意を払って治療に臨む必要がある。


   ※※※


「あなたは中学校に進学しました。何が見えますか?」


 前田の診察の日、医師は前田を催眠状態に導き、幼少期からの出来事を聞き出していた。


「制服を着て…… 教室で授業を受けています」


 目を閉じてリラックスした前田が、医師の問いに答える。


 中学校に入るところまでは、特に大きな精神的ダメージを疑わせる出来事はないようだった。


「中学二年生に進級しました。どうですか? 何か見えますか?」


 こんどの医師の問いかけには、返答にしばらく間が空いた。


「一人で…… 給食を食べています」


 前田の答えに、医師は「おや?」と思った。


 小学校時代から、数人の友達と一緒に過ごす様子を医師に語っていたのに、中学二年に進級した途端、「一人で」いることを語りだしたためである。


「他には? 何か見えますか?」


 医師の問いに、前田は「私の…… タブレットを返して……」と言い、涙を流した。


 この頃は、教科書とノートの代わりにタブレットを使って授業を行うのが一般的になっており、おそらく前田の言っているのも、その学習用端末のことであろう。


 前田の様子から、中学二年の頃にいじめに遭っていたと推測できる。精神に大きな負荷をかけるのは望ましくないため、医師は一旦催眠状態を解除することにした。


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