カルテNO.4 前田(魔法使い)4/10
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「これが検査結果ですけど……」
前田たちが三人でシンオウメンタルクリニックを訪れてから2週間後、こんどは前田が一人で検査結果を持ってクリニックにやってきた。
「拝見します」
医師は前田からマイクロSDカードを受けとり、データをダウンロードした。
やはり脳に腫瘍や梗塞などは見られず、血液からは、薬物反応も出ていなかった。
「前田さん、脳の機能には問題ありませんので、ひとまずご安心ください」
緊張気味の様子だった前田は、医師の言葉を聞いて「そうですか」と、表情を緩ませた。
医師は前田のほうに向きなおると、「ところで」と切り出した。
「前田さんは、失われている記憶があるとしたら、それを取り戻したいとお考えですか?」
医師からの意外な質問に、前田は言葉に詰まった。
「記憶を取り戻す過程で、ご自身のつらい経験とも向き合うことが必要になります」
医師は説明を補足した。
「ですので、治療を急がず、自然に記憶が戻るのを待つという選択肢もあります」
前田が視線を落として考え込んでいる間、医師は黙って答えを待っていた。
数分後、前田が下を向いたまま「私……」と話し始めた。
「ずっと友達がいなかったんです。大学に通っているときに借りていたアパートにそのまま一人で住んでます」
医師は無言で続きを促した。
「ちょっとアルバイトをしたこともありましたが、人間関係が煩わしくなってすぐに辞めてしまいました。親の仕送りで、なんとなく毎日を過ごしています」
前田は視線を上げ、医師を見た。
「もしも、私が魔法使いとしてダンジョンに潜っていたのなら…… 仲間から必要とされて、私の居場所がそこにあったのなら、私、その記憶を取り戻したいです」
医師は、しばらく前田の目を見て思案したが、「わかりました」と答えた。