カルテNO.4 前田(魔法使い)2/10
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医師は「えーと……」と言いながら、若い男のほうを手で示した。
「あ、僕は斉藤といいます」
「斉藤さん、あなたたちが最後に前田さんと一緒にダンジョンに潜ったのは、いつのことですか?」
医師に聞かれて、斉藤と老人は顔を見合わせて考え込んだ。
「確か…… 1か月ほど前だったと思います」
斉藤が答えると、老人もうなずいた。
「そうですか。その時、何かいつもと変わったことはありませんでしたか」
男たちは、それぞれに記憶をたどっているようだった。
「どんな些細なことでもいいんですよ。何か前田さんに係わることで、思い出されることはありませんか?」
下を向いて考え込んでいた斉藤が、「ひょっとして」と言って顔を上げた。
「あれって、最後に潜ったときじゃありませんでした? 前田さんがトラップにかかりそうになって……」
斉藤の言葉に、老人も思い当たったようで、「ああ、前田さんの服が、槍に引っかかって破けてしまった」と言った。
さりげなく前田の様子を観察していた医師は、老人の「服が破けてしまった」という言葉に反応して、前田の表情が一瞬こわばったのを見逃さなかった。
「ちょっと、先生! 私はダンジョンになんか潜ってませんし、こんな人たちのこと、全然知りません! 先生も、私の言うこと信じてくれないんですか?」
ヒステリックに言う前田に、医師は「いいえ、前田さんが嘘をついているとは思っていません」と答えた。
「じゃあ、どうして……」
前田は、納得がいかないというように、医師に非難の視線を向けた。
「前田さん、あなたは解離性健忘、すなわち記憶喪失の疑いがあります」
医師の言葉に、前田と男たちは目を丸くした。