番外編 ルードヴィヒ 2
まずはフィツェラ侯爵夫妻とクリストフ、あとセシリアに早馬で手紙を出す。
内容はもちろん、男爵令嬢の素性調査や過去の行動記録調査、親や周囲の令嬢に対する評価調査などの依頼だ。
ちゃんとエカテリーナの記憶が戻ったことも伝えた。
ルードヴィヒは国の法律を確認。
当時まだ第二王子の婚約者だったエカテリーナへの殺害未遂は、どのような罪になるのか、という確認だ。
それらを、王都に戻る途中で全て済ませ、只管エカテリーナを甘やかした。
途中の街に降り立つ時は、抱き上げての移動。
食事はルードヴィヒが給餌。
さすがに風呂は我慢したが、寝る時は同じベッドで。
二日目くらいには、エカテリーナは遠い目をしていたが、ルードヴィヒは気づかなかった。
王都に着いた次の日に、エカテリーナが学園に行きたいと言ったが、説得して日を置くように促した。
ルードヴィヒは、フィツェラ侯爵夫妻やクリストフから調査の結果を聞いた。
それによると、彼の男爵令嬢は養女とかではなく、ちゃんと男爵夫妻の娘で、十歳くらいまでは普通の令嬢だったらしい。
それが変化したのは、彼女が十歳の時。
流行病で高熱を出した後から、言動がおかしくなった。
魔法が使えるようになり、性格は高慢になった。
その頃から度々口にしていた言葉は「わたしはヒロインだから」。
意味がわからない、とルードヴィヒだけでなく、結果を聞いていた侯爵夫妻とクリストフも感じたらしく、顔をしかめた。
それ故、周囲の彼女への評価は「前は普通だったのに」「人が変わった様だ」等、あまりよろしくなかった。
どこに第二王子が惹かれたのかが、わからない。
行動記録に関しては、セシリアが請け負ってくれた。
なんでも、研究している魔道具の中に周りの景色を映像として記録するという物があるという事で、男爵令嬢を糾弾する時に披露するから、と大変いい笑顔だった。
試しにその魔道具で学園の外観を記録してきたと映像を見せてもらったら、あまりの写実感にみんな驚いたものだ。
準備は整った。
後は、エカテリーナを苦しめた二人を断罪するだけ。
その時は意外に早くやってきた。
エカテリーナが学園に行き、セシリアと論文の事を確認したいと言うので、ルードヴィヒが付き添って学園まで行った。
出入り口の門の前でクリストフと待ち合わせをして、三人で学園の敷地に入る。
すぐにセシリアが走ってやって来た。
エカテリーナとセシリアが並んで楽しそうに話しているのは、ものすごく和む。
現にクリストフはいつも以上に優しい目で二人を見ていた。
セシリアと一時的に別れてカフェテリアに行くと、第二王子と男爵令嬢がエカテリーナに下らない事を捲し立てる。
それを後から来たセシリアがほぼ論破し、クリストフがとどめを刺した。
しかし、それは第二王子だけ。
ルードヴィヒは男爵令嬢を睨み、そちらにとどめを刺す。
第二王子は王族の除籍だけだが、男爵令嬢は殺人未遂だ。
罪人として扱われる。
これでエカテリーナの安全はほぼ完璧だ。
有象無象のエカテリーナに懸想している男など、婚約者になったルードヴィヒの敵ではない。
一番の壁は、セシリアだった。
セシリアは、エカテリーナより小柄なのに、何故か母親の様にエカテリーナを護っている。
ルードヴィヒはセシリアに訊いた事がある。
「………マイヤー嬢は、エカテリーナをどう思っている?」
「質問の意味がいまいちわからないですけど、わたしはエリーを大親友だと思ってますよ」
「……………」
「……………」
「それだけか?」
「何を知りたいのかわかりませんけど、わたしは貴方を評価しています。エリーに相応しいと思ってますよ。第一、エリーが貴方を好きなんですもの。わたしがエリーを大切に思っているのは、昔助けたくても助けられなかった人とエリーが似ているから」
「済まない」
「何に対して謝っているのかわかりませんけど、わたしは過去は過去として受け止めています。エリーを助けられた事で、わたしの中でも区切りがついたみたい」
「そうか」
「なので」
セシリアは真っ直ぐルードヴィヒを見つめた。
「早くちゃんとエリーにプロポーズしてください」
「うっ!…………わかった」
「んふふ。エリーを泣かせたら、許さないから」
「肝に命じる」
セシリアに背中を押され、ルードヴィヒはエカテリーナに改めてプロポーズした。
真っ赤な顔で頷いたエカテリーナは世界一可愛いと、後々まで何度も思い出しルードヴィヒはひとりニヤついた。
その後、学園を卒業してすぐに結婚した。
生涯幸せにすると、出逢った時に誓ったのだから。
読んで頂きありがとうございます。
まだ番外編を投稿する予定ですが、次を書き終えてないので、しばらくお待ちください。
なるべく早めに投稿したいと思います。