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今回で本編は完結です。
無事エカテリーナは学園に戻り、セシリアと研究を再開した。
『魔力還元における魔石の魔力充填率について』
この世界は、剣と魔法の世界。
生物全てに魔力があり、その体を常に魔力は巡っている。
その際、日々使われなかった魔力は、空気に溶けるように世界に還元される。
還元される魔力を、魔石という魔法を使う為の石に充填出来ないか?充填出来るなら、その率はどのくらいか?
というのが、エカテリーナとセシリアの研究だ。
まず、魔力を集める魔法陣を紙に書き、その魔法陣の上に魔力の無い魔石を置く。
一日でどのくらい魔力が貯まるかを計る。
そして、一週間ではどのくらいか、半月ではどのくらいか、と貯まる魔力を計り、それを基に充填率を計算する。
研究には日数がかかるし、魔石の質によっても違いがある。
エカテリーナとセシリアが研究を始めたのは約一年前。
だいぶサンプルもできたので、論文におこす段階までになった。
いつもの研究室用の部屋に入ると、セシリアが魔石を持って何かしていた。
「おはよう、セシー」
「おっはよう、エリー。…………と、ルードヴィヒ様」
エカテリーナが声を掛けると、セシリアは振り向いてエカテリーナに挨拶を返し、エカテリーナに張り付いているルードヴィヒにひきつった顔をする。
ルードヴィヒが、過保護になった。
エカテリーナが心配だと言って、ずっとエカテリーナについてまわるようになった。
「まだ引っ付き虫止めないんですか、阿呆ですか、邪魔なんですけど」
「………………」
「またか!無言で抗議するの止めましょうよ!言葉に出せ!」
セシリアは貴族の淑女にあるまじき言葉使いだが、この場にいる者は気にしない。
「…………エリーが心配だから」
「おおう。学園の行き帰りならともかく、ここは安全です!」
「知ってる」
「なら、ここまでついて来なくてもいいでしょう」
この部屋は、魔法遮断と音声遮断がしてあり、エカテリーナとセシリアしか扉を開ける事が出来ない仕様になっている。
エカテリーナを狙ったストーカーが追いかけて来た事があり、セシリアが部屋を厳重に防護したのだ。
エカテリーナは困ったようにルードヴィヒとセシリアを交互に見て、溜め息を吐いた。
(困るけど、嬉しいから、余計困る)
ルードヴィヒに甘やかされることが、エカテリーナは嬉しかったので、ルードヴィヒを止めなかった。
そうしたら、過保護な上溺愛されている。
「で?結婚式はやるんですか?」
「え?」
セシリアの言葉に、エカテリーナは首を傾げた。
それを見て、セシリアはルードヴィヒを睨む。
「言ってないの?えー?最低」
低く発せられたセシリアの声に、ルードヴィヒが珍しく困った顔をした。
「エリー。学園を卒業したら、ルードヴィヒ様と結婚するんでしょ?」
「ええ」
「その式をするのはいつ?って訊いたの」
「え?えと、まだ決まってないけど?」
「……………ルードヴィヒ様の中では、決まってるっぽいよ」
「ええ?!」
セシリアは魔石を指輪の台にはめる。
エカテリーナはルードヴィヒを見上げて、訊いてみた。
「本当?」
「………ああ。その、エリーが論文を終えたら言おうと思っていた」
「終わってますよ、論文」
セシリアが分厚い紙の束をボンとテーブルの上に置く。
「後は発表会で発表するだけ」
そして、セシリアは指輪をふたつ、ルードヴィヒに渡した。
さっきまでいじっていた指輪だ。
「はい。この場でいいから、男を見せろ」
セシリアに言われて、ルードヴィヒはエカテリーナの正面で膝をついた。
「エリー。改めて言わせてくれ。俺と結婚してほしい」
「…………はい」
エカテリーナは真っ赤になって頷いた。
すると、ルードヴィヒがエカテリーナの左手を取り、薬指に指輪をはめた。
それは、先程セシリアがいじっていた物だ。
銀の台座に蒼い石。
蒼い石は魔石だ。
ルードヴィヒがエカテリーナにもうひとつの指輪を渡す。
そして、すっとルードヴィヒが左手を出した。
エカテリーナはそっと指輪をルードヴィヒの薬指にはめた。
銀の台座に黒い石。
「その石、一応色々魔法が入ってるから。婚約祝いね」
セシリアがにっこり微笑んだ。
「ありがとう、セシー」
「いいのよ。可愛いエリーの為なら」
エカテリーナがセシリアにお礼を言うと、セシリアはエカテリーナの頭をなでる。
「ちなみに、物理防護、魔法防護、異常状態無効、とかが込められてるの。何があっても大丈夫!」
ズビシ!とセシリアはサムズアップした。
「ええと、ありがとう」
(なんでセシーがそのポーズを知ってるの?)
エカテリーナは微妙な気持ちになった。
その後、エカテリーナ達は卒業し、エカテリーナはルードヴィヒと結婚した。
ルードヴィヒは次男なので、新しく爵位を賜り、キュアラン子爵となった。
エカテリーナは子爵夫人として、ルードヴィヒの補佐をしながら、のんびり暮らした。
クリストフは騎士になり、セシリアは魔術師として魔術師団に入った。
前の生を思い出した事は、良かったのかどうかわからないが、消える運命だったはずが、全く違う人生を歩んでいる事に、エカテリーナは感謝した。
(前世でも今生でも大好きな人と、結婚出来たんだもの)
消える運命に、逆らった結果だ。
読んで頂きありがとうございます。
ぼんやり設定の話ですが、たくさんの方に読んで頂けたようで、とても有難いです。
この後、番外編を投稿予定です。
そちらもよろしくお願いします。