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番外編 セシリア 1

お久しぶりです。

年末年始からの棚卸しで、忙しかったです。


今回は、難産でした。

セシリア・メイヤーは、前世を覚えている。


前世は、地球という星の日本という国で、平和に平凡に生きていた女性だった。

そして、オタクだった。


この世界に生まれ変わって、物心ついた頃に前世を思い出した。

別に、頭を打ったとか高熱を出したとかではなく、何気なく朝顔を洗おうと水に触れた瞬間、思い出したのだ。


しかも、前世の記憶で知恵熱が出るでもなく、セシリアは記憶を本棚の本のように整理出来た。


そして、この世界が前世ではまっていた漫画が原作の乙女ゲームではないかと、思った。


セシリアという人物はゲームでは登場しないが、国の名前や生活文化などから、そう推測した。


そのゲームは『太陽の華』というタイトルで、原作の漫画も同じタイトルだった。


漫画では、主人公の男爵令嬢が学園に通うようになっていろんな人物と知り合い、次第に第二王子と恋仲になる。

周囲の反対をどうにか抑えて、仲間や友人達に祝福されて最後は第二王子と結婚する。


ゲームは乙女ゲームだったので、主人公の相手は複数いた。

ストーリーを進めながら仲良くなって、最終的に選んだ相手と結婚エンドを迎える。

攻略対象は、第二王子と騎士志望の侯爵子息とその侯爵子息の幼馴染の伯爵子息、主人公の幼馴染の子爵子息と主人公の家の侍従の息子の五人。


セシリアは前世でこのゲームにはまっていたが、主人公にシンクロしていた訳でも攻略対象者達イケメンが好きだった訳でもない。


セシリアは、第二王子の婚約者で悪役令嬢のエカテリーナ・フィツェラ侯爵令嬢が大好きだったのだ。


別にセシリアの前世は同性愛者ではない。

ただ、漫画でもゲームでも悲惨な最期を迎えるエカテリーナが、可哀想だと思ったからだ。


前世でも今世でも、婚約者がいる人を好きになって婚約者から奪うなど、どんな極悪人か、という感覚なのだ。


だから、主人公は嫌いだったし、エカテリーナが可愛く見えた。


普通、婚約者が自分以外の女性と仲良くしてたら、嫉妬するし怒るだろう。

それを指摘して何が悪いのか。


漫画でもゲームでも細かくは語られなかったが、たぶんエカテリーナは最初は口頭での注意をしたのだと思われる。

しかし聞き入れられなかったから、段々行動に出てしまい、主人公を苛めるなんてことをしてしまったのではないのか。


セシリアは前世で、エカテリーナの幸せな話は作られないのかと、散々悶々としながらゲームを繰り返しプレイした。

どこかに隠しルートがあるのではないか、エカテリーナが主人公と友情を結ぶエンディングがあるのではないか、と。


どうしても、エカテリーナを助けたかった。







目の前で微笑む少女を見て、セシリアは息を止めた。


あんなに助けたかった、エカテリーナが目の前に居る。


青銀色の長い髪、黒い瞳、白い肌、儚げな美しい容貌。


(あああ!今こそわたしの記憶と知識をフル稼働させて、この子を守らなければ!)


セシリアは、クリストフ・ヘリング侯爵子息に紹介されてエカテリーナと知り合えた。

そして、魔術を通して仲良くなり、エカテリーナを知る度に、漫画やゲームのエカテリーナとの違いに、逆にエカテリーナを守らなければと強く決心した。


エカテリーナは、ひと言で表すなら、“天然”だ。


どんな純粋培養をしたらこんな可愛く可憐な少女になるのか、セシリアはエカテリーナの周囲の人間に三時間程問い詰めたい。


漫画やゲームでのエカテリーナは、とにかく主人公を引き立てるためか、苛烈で高慢な少女だった。


それが、どうだろう。

セシリアがじっと見つめるエカテリーナは、大人しく人見知りで優しい、どう考えても他人を苛めて責め立てる事など出来そうもない。


そのエカテリーナの隣には、ぴったりとルードヴィヒ・デュセル伯爵子息が張り付いている。


(おかしいんですけど!?ルードヴィヒって主人公を好きになるんじゃなかった?!漫画ではだけど!)


ルードヴィヒは甘い眼差しでエカテリーナを見ている。


セシリアは口から砂糖を吐きそうになり、視線を二人から反らした。


セシリアの隣には、クリストフがいる。


「ねえ、セシリア嬢はどれが好き?」


学園のカフェテリアで四人でお茶をする時は、必ずこのフォーメーションだ。


セシリアは遠い目をして、カフェテリアのメニューを見る。


「ダージリン、砂糖無しで。あと、胡瓜のサンド」

「そっかあ。セシリア嬢は、甘いものは苦手なんだね?」

「いえ。目の前に……………なんでもないです」


クリストフににっこり微笑まれても、セシリアは少しも嬉しくない。


ゲームでクリストフは軟派な男として主人公の前に現れて、でも実は周りにチヤホヤされるのが苦手なんだ、とか話すキャラだった、はずだ。


どうしてセシリアに構うのだろう、とセシリアは胡散臭いものを見るようにクリストフを見てしまう。


「わたし、お三人の邪魔じゃない?貴方達、幼馴染みなのよね?」


セシリアは物心つく頃に前世を思い出したせいか、貴族令嬢らしく育たなかった。

やろうと思えば出来るが、普段は女らしくしていない。


そんなセシリアを気にしないのが、この三人なのだが。


「えー?ああ、あの二人は放っておいていいよ。いつもだから」

「それは、なんていうか、大変ね」

「うん、まあ、仲良くてなにより。ルードの執着は前からだし」

「ヤン……………いや、溺…………どっちにしろ重い」

「ん?なに?」

「いえ。クリストフ様は、」


セシリアはハタと口を閉ざした。

自分は今何を言おうとしたのか?

胸の奥が、なんだかモヤモヤした。


「僕はねぇ、コーヒーにしようかな。この後剣術の訓練があるから、軽く何か食べようかなー?」


楽しそうにメニューを見るクリストフを見て、セシリアは首に掛けていたペンダントを外して、それをクリストフに渡した。


「クリストフ様。あげます。これ、軽い傷ならすぐ治るように魔石に魔術を組み込んであります。訓練で怪我しても、治せますよ」

「え?ええ?!いいの?!」


水色の魔石がついたペンダントを、クリストフは怖々としかし嬉しそうに受け取った。


「…………良かったな」


いつも無口なルードヴィヒが珍しくクリストフに声を掛ける。

クリストフもにこにこ笑っている。

エカテリーナも微笑んでセシリアとクリストフを見ている。


(え?何この空気)


セシリアはひきつった顔で三人を見回す。


「セシーは優しいわね」

「え、これ実験なんだけど」


エカテリーナの言葉に、セシリアは首を振る。


「え」

「実験?」

「ええ、実験。ちゃんと傷が治ったかどうか、後で聞かせてくださいね」

「ああ、うん、まあいいか。セシリア嬢からの初めてのプレゼントだと思えば」


クリストフはなんだか呟いていたが、セシリアは聞いていなかった。


読んで頂き、ありがとうございます。

あと一話続きます。


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