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上洛道中

高橋元種の縣を出立した頼房一行は、豊後へと入り豊前の門司を目指した。豊後の大友家は豊後一国を関白秀吉に安堵されたが、未だに戦火の跡が各地に残り復旧途中といったところである。

「これが門司の港、そしてあれが長門の下関か」

門司に到着した頼房は、関門海峡の景色を見ながら大きく深呼吸をした。

――鎌倉の世より続く家だが、ここに来たご先祖はそうはおられまい。

そう思うと、頼房の胸は自然に高鳴った。

豊前の門司は関白秀吉の命で毛利勝信の所領となり、九州と本州を繋ぐ港として大変な賑わいを見せていた。

「これよりは船に乗り換え、瀬戸内の海を通って大坂へと参ります。風次第ではございまするが、七日もあれば大坂へ着きましょう」

頼房は犬童頼兄が地図を広げて説明するのをじっと聞いていたが、いざ船に乗り込む段階になると胸の高鳴りを抑えきれなかった。

今回乗り込む船は関船と呼ばれる中型の軍船で、尖った船首やら手すりやらに相良家の剣梅鉢紋をあしらった旗がはためいている。

「間近で見ると大きいものじゃ、そなたも船に乗るのは初めてであろう」

「左様でございまする。やはり、このような船を見ると胸が高鳴りますな」

頼兄は、いつになく目を輝かせて関船を見上げていた。

「では、早速乗るか」


*****


「殿、ご覧なされ。この瀬戸内の島々の美しさを。なんとも絶景でございまするぞ。関白殿下のご命令で海賊もおりませぬゆえ、こころゆくまで楽しめましょう」

「ああ、そうか。すまぬが……うっ」

船からの美しい景色に目を輝かせていたのも最初だけのこと。波の加減でゆらゆらと揺れる船のせいで、頼房はじめほとんどの家臣たちが船酔いをおこして座り込んでいた。

「うーむ、瀬戸内の海は穏やかでござるゆえ、さほど揺れてはおらぬと思いますがな……。」

そう言って首をかしげるのは、剣術師範の丸目蔵人である。都にも名の知れた剣豪だけあって、この船の中にあっても顔色ひとつ変わらない。

「まったく、相良の家臣ともあろうものが情けない。ほれ、しっかりなされよ」

そう言うと、蔵人は珍しく一言も口を聞かず俯いていた頼兄の背中をバシリと叩いた。

すると頼兄は、口を押さえて目にも止まらぬ速さで甲板へと駆けていった。

――とどめだったらしい。

普段ならクスりと笑うところであるが、みな頼兄の気持ちが痛いほどわかるためまったく笑えなかった。

そしてフラフラとした足どりで戻ってきた頼兄は、蔵人のことを恨みがましく見つめ、また俯いて座ってしまった。

「誰も彼も、あれほどこの蔵人が鍛えておるのに修練が足りぬ」

蔵人があきれ返ってそう言うと、頼兄が青ざめた顔をゆっくりと上げた。

「我ら球磨の山育ちでござる、御師匠と違って船に乗るのは初めての者ばかり、修練どうこうの話ではありませぬ」

頼兄がそう言うと、普段頼兄のことを快く思っていないものまで心の中で深く頷いた。

「……まあ、そういうことにしておきましょう。なれど、これよりは船を使う機会が格段に増える、船には慣れておかねばなりませぬぞ」


*****


「そろそろ大坂の港が近づいて参りましたな、殿。この蔵人、大坂に参るのも久方ぶりでござる」

「そうか、ようやく着いたか……」

けろりとした顔で胸の高鳴りを抑えきれない様子の蔵人とは対照的に、船酔いで疲れ切っていた頼房は声を出すのもやっとであった。

蔵人によれば順調に進んだらしい船旅は七日に及び、頼房を含めたほとんどの者が船酔いで真っ青な顔をしていた。

「さて、おのおの方、下船の支度を。きっと、これまで見たこともない景色が見られまするぞ」

蔵人は、そう言って力強く笑った。

正直なところ頼房を始め随行の者たちは景色どころではなかったが、ようやく船酔いから解放される喜びを噛みしめながらいそいそと下船の支度を始めたのだった。


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