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里ごころ

出水に来て一月あまりが過ぎ、三月も下旬となった。

歓迎の宴などが一通り終わり、一息つける時間ができると、次に湧き上がってくるのが里心というものである。

島津義虎一族の仲の良さを見ると、たまらなく自分の家族が恋しくなった。「四郎次郎頼房」というたいそうな名前を名乗っていても、未だ九つの子どもであることには変わりがない。

そんなときは、出立の時、一番上の姉虎満にもらったお守りを見ながら忍び泣いた。

今は、御家のためにおとなしく人質として過ごすしか道はない。

出水での生活は、思っていたほど窮屈なものではなかった。島津義虎や正室、於平を始めとした一族が何くれと気を遣ってくれている。

だが、人質は人質である。

警護する侍の中にも粗暴な者たちがいて、

「何故我等が相良の小せがれの警護などせねばならぬのだ。もともと相良は敵であったのだぞ」

「太守様のご命令じゃ、仕方あるまい。それにしても、相良の先代も城を一つ攻められただけで降伏してくるとは、なんとも骨のないことじゃなあ」

「小せがれの警護など早う終わらせて、戦働きがしたいものじゃ。次は阿蘇家に龍造寺、最後は大友を降せば九州はすべて島津のものじゃ」

などど話しては笑いあっていた。わざと聞こえるように言っているのかただ単に声が大きいだけなのかはわからない。

それを聞く度に、頼房は腹が煮えくり返るのを震えながら抑えていた。自分はともかく、父、義陽を侮辱されるのは許しがたかった。

島津が命じさえしなければ、父は無二の友と戦うことも、死ぬこともなかったからである。

『今に見ておれ』

頼房は、心の中でそう吐き捨てた。

*****

よく晴れた日のことである。

頼房が縁側に座っていると、庭先に一匹の黒猫が入り込んできた。

艶々とした毛並みとすらりとした体躯の、美しい猫である。

頼房と目が合うとじっとこちらを見ていたが、逃げる様子もない。

すると、猫はひょいっと頼房の隣にやってきて座った。頼房が恐る恐る頭を撫でると、黒猫はゴロゴロと喉を鳴らした。

それがなんとも嬉しくなって、猫を抱き寄せようとしたそのとき、廊下をドタドタと走る音が聞こえてきた。

*****

やってきたのは、御供の一人、恒松助右衛門である。

頼房が振り向くと、助右衛門は頼房に向かって膝をついた。

猫はそれに驚いたのか、すぐに頼房の元から走り去ってしまった。

「何事じゃ、助右衛門」

助右衛門のただならぬ様子に、頼房は顔を強ばらせる。

「若様、国元より報せが参りました。三月十六日、球磨郡湯山にて一乱ありとのこと」

そう言って、助右衛門は一通の書状を差し出した。

「乱……?」

頼房の顔から血の気が引いた。

「まさか、また頼貞叔父か?」

頼房は不安な気持ちを抑えきれず、手を震わせながら書状を開いた。

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