逃亡
商人の荷車に潜入はできたが、居心地は最悪だ。
いろんなものが体にあたる。
アイーラいる場所は固いものが集まっているらしく、腰や背中に荷車の振動でのしかかってくる。
こうたのあたりにはあまり堅いものがないらしく、うとうとしている。
隣で寝ている友人に苛立ちをおぼえているのを必死で隠しながらアイーラは外の状況について考えていた。
この後のことはほとんど考えていない。どこに逃げるのかも誰に助をこうのかも当てがない。
二人で生きていくには何もできない。
ポケットには欠けてぼろぼろのクッキーとこうたの家に転がってた干し肉しかない。
この肉のように自分も鬼に食べられるのかと考えるといてもたってもいられない。
「早く逃げなければ」
アイーラは心で唱えていた言葉がぽろっと口に出てしまうほど憔悴しきっていた。
こうたと自分だけなのだろうか....
ふと考えた。里親が里子に虐待する話はなくない、しかし鬼に引き渡すとは聞いたことがない。
自分だけならなんだって考えられるが、孤児院という共通点を持つこうたにも同じことが起こった。
「ねえ、アイーラもしかして孤児院って...」
急に話しかけられてびっくりしたが、それよりもこうたが物事を自分の都合の悪いほうに考えるのが珍しく驚いた。
「私の両親とこうたの両親は業者に引き渡すと言ってた。」
「鬼の話もしてた」
「僕のお父さんがこんな事ゆってたけどそれって、、、、、」
アイーラとこうたは次々と出てくるこれまでの記憶にある衝撃的な出来事を言い合った。
結論は考えたくなくて二人ともはっきり言えなかった。
やはりそうなのだ信じがたいことだが孤児院が絡んでいると考えてもいいだろう。
こうたが悲しそうに話しだす
「僕、先生と離れたくなくて次いつ会えますか?って孤児院から出るとき聞いたんだ。その時先生は」
「、、、俺は肉になるお前にわざわざ会いに行く阿保じゃない」
「って言われたんだ、最初はよくわからなくてとりあえず先生は僕のことが嫌いなんだって落ち込んでたなぁ」
いや、こうたは先生に好かれているほうだった。
アイーラなんてよく壁に穴をあけて先生に舌打ち交じりの説教をよくされていた。
なのに先生はこうたに「肉になるお前に会いに行かない」といった。
ここでの肉はやはり今もっている干し肉のような肉なのだろうか。
だとするとやはり孤児院が鬼に渡す子供をつくる養殖場なのかもしれない。
最悪だ。自分は何も知らずに死ぬ予定だったのだ。
ふと、ほかの仲間の顔を思い出す。戦争ごっこでの仲間、いつも敵だった悪ガキ大将にさえ会いたくなってくる。
髪の毛を結ってくれる女の子やお姫様ごっこでアイーラの姫役をいつもやっていた子、どんどん仲間の顔が思い浮かぶ。
彼らがどうなったのかは考えないようにするのにしばらく必死だった。
「おい!そこの商人!荷車を止めろ!」
信じられない声がした。
聞き間違いかと思ったが、この声は聞きなじみのある声だが最高に怒っている。
先生だ。
荷車は驚いたのか急に止まり、アイーラの背中に固いものがさらにのしかかる。
「孤児院のものだが、小さい子供二人を見なかったか?一人は女で髪がぼさぼさでお転婆の悪ガキ、もう一人は愚図でのろまな男だ」
「カルス卿こんなところで何なさってるんです?子供たちの出荷は明日じゃないんですかい?」
と何も知らない商人はのんきにカルス卿と呼ばれる男に言葉を返した。
「うるさい!黙れ!子供を見たのか見てないのか聞いている!!」
商人は「ひいい、見てない見てない」と慌てる。アイーラとこうたは商人がビビっているのがすごくわかる。
先生ことカルス卿は怒ると死ぬほど怖いと孤児院で有名なのだ。
背が高く、体系からでは想像できない力を持っている。
アイーラが一回本気で怒られたときには怖すぎて足がすくみ尻もちをついてしまった。
もちろん笑ったことなんて見たことがない。
しかしおかしい、わざわざカルス卿が出向くほどのことなのか。しかも1人で。
「この先に関所が設置された、そこで荷物の検査をするから準備しておけ」
「アイーラ、荷物検査だってよ?どうする?」
アイーラはこうたの口を急いでふさいだ。
こうたをものすごい形相で睨んだ。
あの先生のことだ商人には聞かれていなくても先生には聞こえただろう。
どうすればいい!ここでこうたのお母さんを殴ったように襲うか?だめだあの人と目が合ってしまえば恐怖のあまり力が引っ込んでしまうのが関の山だろう。
「卿?どうしましたか?」
恐る恐る商人がカルス卿に尋ねる。
まずいまずいまずいまずい。
このまま見つかってここで終わるのか?いやここまで来てしまったのだ、ただ出荷されるだけではないだろう。
「関所でしっかり調べさしてもらう」
商人はびっくりさせるなよと言いたげな感謝の言葉をカルス卿に伝え荷車を走らせた。
アイーラがカルス卿の前を通るとき何かが聞こえたが、何となくわかる。
『すぐに殺しておくべきだった』
そういったのだ。こうたには聞こえていない。伝える気はない。
あれは私たちの敵だ。
荷車はゆっくりと軌道にのった走りになっていく。
ああ今は大丈夫なのかと安心はしたものの問題は解決していない。
不安は積もるばかりで、そわそわどうしようと焦っていると。こうたが
「アイーラ!君、足がぼろぼろじゃないか!!」
今はそれどころじゃない!と怒鳴りたかったが、商人に聞こえそうなのでやめておいた。
正直こうたは厄介だ、邪魔ともいえる。
さっきみたいに空気が読めないことを次もされたらと考えるとどっかにほっぽりたくなる。
しかし、足の傷が痛くないと言えば嘘になる。
両親の家から出る時、とっさに着替えた服は所々破けている。
走って逃げるのに夢中で自分が何の服を着ているのか気にも留めなかった。
「こうたこそ、目がはれてる。」
「僕はいつも腫れてるから!たいしたことないよ!」
と、この状況からでは想像もできない笑みをこぼしながらこうたが言った。
つられて笑ってしまった。
そうだ、こうたは常に目を腫らしている。
というのもだいたい1日に10回は泣くのだ。
時に、自分の事でもないのに泣く時のこうたをアイーラは理解できなかった。
こうたは優しい。
アイーラが戦争ごっこで怪我したら誰よりも早く気づく。
そして泣くのだ。
こうたはアイーラにとっていまいちわからない相方なのだ。