としのりの「母親」
としのりにとってはこの事はうれしい事であった。高校三年生の彼にとって親の監視下から逃れたいというのは当然の欲求だろう。しかも、彼の母親は息子に干渉してくるような人だったからだ。
例えば、ケータイを勝手にみたり、財布の中身を全部みたり、勝手に部屋の掃除をするという名目で部屋を漁ったり、などなど……
つまり、過保護な母親だったのだ。
母親にとって、息子は本当に大切だったのだろう。共働きだったからという理由もあったのか、母親は息子を幼稚園から私立に通わせた。
としのりは小さい頃から親の言うことをよく聞く子供であった。よく聞くというより、怖くて言うことを聞くしかなかったというのが正しいのかもしれない。その証拠に小学校五年生くらいからだんだん親に嘘をついて遊ぶようになったりし、親に隠れてよく友達とどこかに行ったりしていた。
かといって親に歯向かう勇気もなく、自分の主張もせず、ただ親の目を盗んでこそこそとしているズルい子だった。
そのような事情もあってか、高三になった今でもケータイには位置情報を通知するアプリが入っており、いつでもどこでも彼がどこにいるのかを見ることが出来るようになっていた。また、検索にもフィルタリング機能をつけていたりするなど、高校生にとっては異常とも言える息苦しい生活を送っていた。