表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小春日和は仲良しの証

作者: ユーリアル

冬の童話祭2017の参加作品です。


メインテーマをそのまま題材にしました。


http://marchen2017.hinaproject.com/teaser/




あるところ、ある国には季節を巡る4人の女王がいました。


塔の中にいる間、女王様の季節が訪れます。


ある日、冬の女王様が塔から出てこなくなりました。


寒い寒い、冬が続きます。


困った王様はお触れを出しました。


季節が巡るように、女王様を交代させる者はいないかと。


成し遂げた者への褒美も約束された、お触れでした。


そんな国を訪れる、隣の国の旅人さん。


旅人さんは自分の国も冬が続き、大変でした。


何故雪は止まないのか?


どうして春が来ないのか。


不思議に思い、やってきたのは4人の女王の住まう国。


王様のお触れを見た旅人はまずは冬の女王に会いに行きました。


氷のように透明で、氷柱のように長い塔。


雪の結晶が窓となった長い、長い塔でした。


まるで冬そのものといった塔の中。


窓際にポツンと一人、冬の女王様は座っていました。


冬の夜のような黒くて青い髪、

満月のように金色の瞳。


儚げな冬の女王様の姿に旅人は見とれてしまいます。


そんな旅人をしかりつけるような冬の風。


ぶるると震えた旅人は、女王様に問いかけます。


どうして塔から出てこないのか、と。


女王様は答えました。


「出ていきたくはないのです。冬が終わってしまうから」


それきり冬の女王様はだんまりでした。


冬の松ぼっくりのように隙間なく閉じられた口は開きそうにありません。


困った旅人は他の皆に話を聞きに行きました。


最初に出会ったのは雪玉を投げて遊ぶ子供でした。


旅人は問いかけます。


子供よ子供、冬が続いて大変だろう?


子供は答えます。


「大変だよ。でも、冬の女王様は優しい人。だから何か理由があるんだよ」


そうして子供は遊びに戻っていきました。


旅人は考えます。


ならば理由があるのだろう、と。


次に旅人は出会います。


畑の雪をどかす大人です。


汗だくで、それでも明日にはまた雪が積もってしまうでしょう。


旅人は問いかけます。


やあ、こんにちは。冬が続いて大変ではないですか?と。


大人は手を止めて答えます。


「ああ、大変さ。だけど冬の女王様は賢い方だ。きっと理由があるんだろう」


そうして大人は雪かきに戻ります。


冬が終わり、春が来た時に種を撒けるよう。


旅人は考えました。


優しくて、賢い。


そんな女王が出てこない理由はなんだろうと。


次に出会ったおじいさんは言いました。


「冬の女王様は誰よりも春が好きだった。だから春の女王様を嫌いなはずがない」


そう笑っておじいさんは少なくなった食べ物を子供にあげて笑っていました。


なるほどなるほどと旅人は思いました。


春が嫌いだから出てこないということじゃないのだと。


ではどうしてなのでしょうか?


旅人は別の人に会うことにしました。


まずは夏の女王様。


夏の太陽のように金色の髪、澄み切った海のように青い瞳の女王様。


彼女は旅人が尋ねるなり、こういいました。


「私は冬の子が嫌いではないわ。冬の静けさは羨ましいもの」


旅人は頷きました。


確かに夏と冬は正反対です。


暑い夏と寒い冬。


命の元気さが弾ける熱い夏と比べ、冬は静かで冷たいものです。


旅人は夏の女王様が冬の女王様を嫌いではないことに安心しました。


夏の女王様に問いかけます。


どうして出てこないのだろうかと。


夏の女王様は言いました。


「きっと冬で無いといけないことがあるのではないの?」


確かに、と旅人は頷きます。


夏でないと出来ないこと、冬じゃないと出来ないこと、色々あるからです。


お礼を言って旅人は別の場所に向かいます。


次に出会ったのは秋の女王様でした。


秋の女王様は笑って言います。


「冬の子はまだ子供だから、面倒くさいのかもね」


旅人は言いました。


どうしてそんなウソを言うのかと。


すると秋の女王様はびっくりした顔でさらに笑いました。


落ち葉のように茶色い髪と、木の実のように赤い瞳が楽しそうに揺れていました。


「秋は迷いの季節だから。ごめんなさいね」


それもそうだ、と旅人は頷きます。


秋は冬に向けて準備をする実りの季節です。


ですが、いつ準備を始めるか、どこまでするのか、

お祭りに参加しようかと悩みの季節だからです。


さらに秋の女王様は答えます。


「私も冬の子は好きよ。だって私の手を握ってくれるのだから」


秋から冬へ、季節は廻ります。


毎年握るその手は小さくても優しい手だと秋の女王様は言いました。


「今は春の子の手を握れないような何かを握っているのかもね」


女王様の秋の風のように爽やかな声が旅人に届きます。


頷いて旅人はまた別の場所に向かいます。


ようやく出会えた春の女王様。


春の女王様、どうして塔にいかないのですか。


旅人は問いかけます。


すると春の女王様は笑いました。


それでもどこか、悲しい笑顔です。


「私が塔に行ったら春が来てしまうもの」


春の女王様はそういって、花色のようなピンクの髪、

新緑のような緑の瞳で旅人を見つめました。


春の女王様は続けます。


「あの子は一人が怖いのよ」


おやおや?と旅人は思いました。


一人が怖いなら、どうして冬の女王様は一人で塔に閉じこもるのでしょう。


春の女王様は悲しそうにつぶやきます。


「あの子は一人の悲しみを誰よりも知っているの」


そういって春の女王様はどこかに出かけてしまいました。


残された旅人はうんうん考えました。


優しくて、賢くて、春が大好きで。


一人が誰よりも悲しいことを一番知っている女王様。


そんな冬の女王様がどうして春を嫌がるのか。


どうして一人で過ごしているのか。


うんうんうなり、ついには村まで戻ってしまいます。


どうした物かと旅人は考えます。


「あの、旅人さん」


小さな、小さな声。


旅人が周囲を見ても誰もいません。


「旅人さん、旅人さん、こちらです」


さらに聞こえた声は下からでした。


歩き疲れた旅人の足元。


そこから聞こえた声に旅人は耳を傾けます。


少しずつ、聞いていく度に旅人の顔がほころびます。


冬の女王様の優しさを感じたからです。


「冬の女王様をお願いします」


もちろん、と旅人は答えました。


優しくて、今回はすこーしだけ賢くなさそうな冬の女王様のためです。


旅人は疲れを忘れ、塔へと向かいます。


塔の前には歌を歌う人、絵を描く人、様々でした。


みんな冬の女王様に出てきてもらおうと頑張っています。


でも女王様は静かに座ったまま。


旅人はそんな女王様の前にやってきました。


2回目の出会いです。


旅人は問いかけます。


どうして塔から出てこないのか、と。


女王様は答えました。


「出ていきたくはないのです。冬が終わってしまうから」


前と同じ、答えでした。


すると旅人は再び問いかけました。


それは、あの子達のためですか、と。


冬の女王様が顔をあげました。


旅人はさらに問いかけます。


春が来ると一人ぼっちになるかもしれないテントウムシたちのためですか、と。


冬の女王様は驚きました。


「どうしてそれを知っているのですか」


初めて女王様から問いかけがありました。


周りの皆の騒ぎを気にせず、旅人は答えます。


テントウムシたちに頼まれましたと。


何をと問いかける女王様に旅人は答えます。


春が来ても、もう一人ぼっちじゃない。だからありがとうと。


そうです。


冬の間はテントウムシは落ち葉の下でみんな一緒。


一人ぼっちもそうでない子も、みんな一緒でした。


でも、春が来るとみんな飛んでいってしまうのです。


冬の女王様は、そんな一人ぼっちのテントウムシのために

冬を、ずうっと続けていたのです。


冬の間は、みんな一緒です。寂しくありません。


春の女王様は自分の春のせいで冬の女王様が

悲しんだことに遠慮していたのです。


でも、それも終わりです。


ほら、と旅人は手を開きました。


そこにいたのは、小さなテントウムシ。


わあ、と冬の女王様が笑顔になります。


テントウムシは言いました。


女王様、今までありがとうございます、と。


なおもテントウムシは続けます。


今日から旅人さんがお友達です。だから春でも寂しくありません、と。


旅人は語ります。


1人と1匹では寂しいので、会いに来てもいいですか、と。


冬の女王様に段々と笑顔が満ちていきます。


そうです、旅人は冬の女王様もテントウムシの友達になりましょうと誘ったのです。


「喜んで、お友達になりましょう」


笑って冬の女王様は答えました。


するとどうしたことでしょう。


冬の寒さばかりだった塔に、柔らかな風が吹いていきます。


「私もお友達になっていいかしら?」


やってきたのは春の女王様。


ごめんなさいと冬の女王様は謝ります。


「遊びに来てくれたら許します」


そういって春の女王様は笑いました。


そして、国には春がやってきました。


旅人は王様に願います。


このまま女王様たちとテントウムシと、仲良くさせてくださいと。


王様は頷きました。


こうして、旅人は女王様たちと友達になり、

今日もテントウムシをどこかに乗せて会いに行きます。


夏なのに妙に寒かったり、秋なのに少しばかり寒かったり。


春なのに妙に暑かったり、冬なのに小春日和の温かさだったり。


時々、季節はいつもと違う姿をみんなに見せます。


それでも、みんなは笑顔のままです。


だって、それは塔に他の女王様が遊びに行っている証だからです。


小春日和は、冬の女王様のいる塔に、春の女王様が遊びに行っている証。


お友達と楽しく過ごす、仲良しの証なのです。

少しでも笑顔になれたらいいなと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最初から最後まで、とにかく優しさでいっぱいのお話でした。 あまりに優しさ100%だったので、ちょっとスパイスがあってもよかったかも。 ほんわかできる物語をありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ