裏一話『騎士団』
掲載順番を変えました。混乱させましたらすみません。
カトレア王国騎士団について記す。
騎士団には守るべき規律が、三つあった。一つ、王家の盾たれ。一つ、王家の剣たれ。そしてもう一つ、王家の僕たるな。
二つは分かる。王家の誇る最強の騎士団として名高い騎士団を、端的に表している。
では最後の一つは。それは王家の歴史を物語るものであった。
カトレア王家は三百年以上続いている。大国からの独立国家としては、驚異的な長さだ。
ただし、それは順風満帆とは程遠い歴史であった。
王国初期、最初の百年間は王家の威信は強かった。初代国王カトリアーヌの独立戦争における伝説的な活躍により、王国民は皆王家を畏怖尊敬していた。
しかし次の百年、王家の威信は地に墜ちた。重なる愚王の擁立により、民は苦しんだ。
それでも民は建国王の威光を胸に耐えた。
だが、百年を耐えた頃、つまり今から百年程前、各地で反乱が起こった。
しかもそれを率いていたのは、王家の剣たる王国騎士団。彼等は民を護る為、王家に牙を剥いたのだ。
今でこそ貴族騎士団と区別する為、「王国」騎士団と呼ばれているが、当時は全ての騎士団が王家直轄であった。
全ての民は武力の下で王家に支配されていたのだ。
王家を打倒すべく立ち上がった騎士団であったが、その王国騎士団を発起させたのは、同じ王家のものであった。
愚王に取り入り私欲を満たすことだけを考えていたような取り巻き達は、王家の中にありながら、民を虐げながら贅沢の限りを尽くす事を良しとしない人間が居る事に気が付かなかった。
反乱軍が集結し、まさに今から王都への侵攻を始めようとしていた。その際、立ち上がった王家の人間が行った、後に広く知れ渡る演説がある。
それが騎士団が守るべき規律の元になったのだ。
「民よ。この様な武力でしか、カトレア王家の過ちを正せなかった事を、申し訳なく思う。
この戦争で多くの仲間を失った筈だ。全てが終わった後、その恨みは私に向けて貰って構わない。私が皆をここまで唆したのだ。
しかし、王家の腐敗を看過せず、忠義を曲げてまでついて来てくれた騎士団達。彼等は本当の意味で、民の味方だ。
だが……。
だが、彼等は王家に忠誠を誓った身だ。この蜂起の後は自決する事を考えている」
自決という言葉に集まっていた民衆はどよめいた。
彼は続ける。
「皆に動揺を与えるつもりで、この話をしているのではない。皆にある願いをしたいのだ」
そこで彼は民衆を前に頭を下げた。
民衆はその姿を眼に映し、絶句する。
反乱を指導しているとはいえ、あくまでも彼は王家の人間。王家が民に頭を下げ懇願するなど、あり得ないことであった。
「ここにいる騎士団こそが、本物の騎士団なのだ。王国民を護る盾であり、王国に仇なすものを屠る剣なのだ。
この戦争で多くの命を失った。更に彼等を失えば、王国はまさに滅びかねない。
頼む、王国を救ってくれ。私の、我々の目的は王家を駆逐することではない。この国を救うことだったはずだ!」
そこまで言って、彼は更に深くこうべを垂れる。
そして顔を上げると騎士団に向き直った。
「騎士団よ。最後の命令だ。お前達の規律を見直す。
一つ、王家の盾たれ。一つ、王家の剣たれ。この二つは王国民を護る為のものだ。王家を護る為のものではない。だからこそ、お前達は立ち上がった。
しかし、それが王国民を護ることの邪魔になるのなら、この規律をつけ加えろ。
一つ、王家の僕たるな。民の僕たれ。
これは全てに優先する。この度のお前達の行動は、何も恥ずべきことはない。
規律に則り行動を起こしたものだ。
そして民よ。この瞬間から、この者達、騎士団は皆の僕だ。戦争が終わり、ただ一言、命令して欲しい。
死ぬな、と」
この反乱は愚王討伐に成功した。
しかし王家の断絶はさせず、反乱を率いた王家の彼を王として迎えた。
彼は悩みつつも、これを受け入れた。
騎士団は解体され、各地の貴族の下で再編された。これが後の貴族領騎士団である。
新王の下で王国民は再度団結した。
それはカトレア王国を支配せんと攻め入ろうとする、ある人物にとって、最大の障壁となるのであった。